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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
中等部一年

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28.体育祭 2


 今日は体育祭当日である。

 

 あれから、休み時間の大縄跳び練習が順調に飛べるようになってきたおかげで放課後の参加者も増え、一年Y組の雰囲気はおおむねイイ感じである。


 それどころか、二階堂くんと沼田さんは励まし合って練習をしていて、気が付いたらなかなかにいい雰囲気になっているじゃぁないか! うらやましい……。

 っていうか、これ体育祭終わったらいい感じな人たちできるんじゃないの!?

 私? 私ですか? 相変わらず、認めたくはないけれど残念キャラのような気がする。


 いやだけど、前世ではあの氷川くんをオトした女だよ? 本気になれば彼氏の一人や二人くらい……。本気になる相手がいないのが敗因だからね! 私に原因があるわけじゃない! まだ本気出してないだけだから! いつ本気出すのかって? それは運命の王子さまを見つけてからです!


 キラキラ眩しい甘酸っぱさに指をくわえながら、体育祭の応援をしていた。不純な発想は罰が当たる確率が高いのだ。くわばらくわばら。


 まず初めに縦割りでの応援合戦だ。チームカラーごとに応援旗を作り、応援をするのだ。私のYクラスは黄色なので黒に黄金の鳳凰の柄だ。Y所属の美術部員たちが仕上げたらしく、とても格好がいい。

 Yチームの応援合戦の中心はもちろん八坂くんである。普通は三年生がすることが多いのだけれど、やっぱり八坂くんは別格だ。三年生のお姉さま方の圧力により、応援団長へのし上げられてしまったのだとぼやいていた。

 イヤイヤとはいいながらも、黄色鉢巻をして前に立つだけで黄色い歓声が沸き起こる。

 慣れているのか、動じもしないで、ウインクしながら手を振る余裕さえある。フラッシュがバシバシと焚かれて、なんだこれアイドルイベントかなんかか?なんて思いつつ、流行りのお笑いを取り入れた応援合戦をする。


 一番初めの競技は、大縄跳びだ。全校で縄跳びをはじめ、回数が多い順に得点が高い。長くゆっくり跳ぶか、早くたくさん跳ぶか、そこは作戦具合と言ったところだろう。


 二階堂くんがみんなを集めて円陣を組む。声を合わせても盛り上がったところで、八坂くんがニッコリ笑って頑張ろうね、なんて言ったものだから女子たちのやる気が一気に上がった。さすがデルモパワー。

 感心しつつ、そういうことができるのを素直にすごいと思う。


 結果、私たちのクラスは、全校で5位に入った。一年生にすれば相当な成績で、Yチームの三年生に盛大に褒められた。


 次の競技はムカデ競争だ。これは学年別の対抗戦になっている。四百メートルトラックを一周するのだが、四組一斉スタートでカーブがあるのでなかなか難しい。

 声かけのために旗を振りながら、サポートが付いていく。転んで倒れた人を引き起こしたりするのだ。

 一年生から始まって、最終は三年生。三年生ともなると、驚くほど速くなってビックリする。


 ムカデ競争の後は、……憂鬱な障害物競走だ。

 これも学年のチーム分けだ。一年生のコースには先生のチームが入る。二、三年生のコースはガチなので、四組でのスタートだ。

 黄色い鉢巻を巻いてスタート地点に集まる 。私は、綱と一緒に綱のスタート地点にいた。タイヤチューブは次のパン食い走者をタイヤに乗せて運ぶのだ。


 ピストルが鳴ってスタートする。第一走者は、Tシャツの重ね着だ。他のチームが用意した面白Tシャツを十メートル毎に重ね着する。そして、ゴールですべて脱いで、最後の一枚をバトンがわりに次の走者へ着せる。

 最後の面白Tシャツをバトンがわりに着せられて、平均台の走者が走る。平均台の上を縄跳びで走り抜け、三輪車につなぐ。もちろん三輪車走者にもTシャツを着せる。

 三輪車をキコキコこいで、三角コーンをカーブしていく。勢いあまって盛大にこける先生たちは、大いに笑いを誘った。

 次は綱のタイヤチューブ走だ。面白Tシャツを着替えた綱が笑える。無表情だが、Tシャツには、黄色地にバナナを食べるゴリラがプリントされている。その落差に笑えてしまう。


 腰につけられたタイヤチューブが、土の上に置かれたトラック用のタイヤにつながっている。その大きなタイヤにパン食い走者がのせられて、パンの元へと引きずられていく。

 ズゴズゴと無様な音。砂ぼこりのなか引きずられていく私はまるでドナドナだ。後ろ手に縛られているので、バランスが悪くてめっちゃ怖い。ギャーギャーと叫んでも、綱は無視である。酷い。酷すぎる。

 なんか、涙がでる。あ、砂ぼこりのせいだね。


 この時点で、Yクラスは二位。Fクラスが一位で最下位は先生たちチームだ。


 パンの前まで届けられ、面白Tシャツを着せられた。手が縛られているので、首だけTシャツから覗く形になる。まるでこけしだ。綱が、プスっと笑った。


 あ、クッソ! 綱だって笑えたんだからな! 


 言いたいことはたくさんあったが、まずは競技だ。腕を後ろ手に縛られたまま、吊るされたパンを咥えようとジャンプする。


 なにこれ! けっこう高いんじゃない!?

 しかも、パンを吊るしている紐がゴムじゃないかー!! ビョンビョンしてる!

 うわ、めっちゃ笑われてる。笑われてるよ。


 びょんびょんと格闘しているうちに、どんどん追い越され気が付いたら、先生チームにすら抜かれ最下位だ。


「ゴリラ―!! 頑張れー!!」


 Yチームの応援席から野太い叫び声が聞こえてきて、顔が引きつった。


 誰がゴリラじゃい!!


「「「がんばれがんばれ! ゴ・リ・ラ!!」」」


 なんかいい感じに太鼓で拍子まで打たれて、声を合わせて応援されている。


 勘弁して~!! 早くここから消えたい!!

 

 必死になってバナーヌスペシャルを食いちぎり、次の走者の八坂くんを見れば、隠そうともせずに笑っている。


「早くしないと! ビリだよー!」


 面白がってヤジまで飛ばす八坂晏司め。


 くそう! 文句の一つも言いたいが、パンを咥えているので文句も言えない!!


 一位を走るFクラスは、最終ランナーの氷川くんが側転を始めていた。


 八坂くんのもとに這う這うの体で辿りつく。Tシャツをまくり上げるけれど、パンが引っかかって上手く脱げない。

 真剣な八坂くんの顔が近づいてきて、ぱくりとパンに嚙みついた。怖い。思わず目をつぶる。食われるかと思った。


 パンを引っ張る感触に、あっけに取られてパンを放すと、スルリとTシャツが脱げる。

 

「ん!!」


 不機嫌そうに八坂くんに咥えたパンを突き出されて、私は慌ててパンを咥え直した。早く走り出したいのだろう。


 きゃぁぁぁぁぁ!! ごりらぁぁぁぁ!!


 叫び声が響く。八坂くんはゴリラTシャツをサッと着ると、私の腕のタオルを解き、何事もなかったようにバク転でササっとゴールを決める。


 ビリだったはずのYクラスは、結果二位になっていた。バク転は、前転や後転より早かったうえに、芸術点が加算されたのだ。


 二位の旗をもって振る八坂くん。

 光るフラッシュ、黄色い叫び声。誰か失神してるんじゃないだろうか?

 さすがデルモ様は面白Tシャツでもカッコイイですね(棒)。


 二位の旗を持った八坂くんが、退場待機待ちの場所までやって来た。全員がそろったところで、退場となる。


「スゴイ?」

「すごいです」


 なんだか疲れ果てて適当に答える。私は笑いモノにされて、片や八坂くんはヒーローだ。正直ムカっとするわ。


「なんかテキトー」

「ソンナコトアリマセンヨ、カッコヨカッタデス」

「心にもないこと言うなんて性格悪」


 ふてくされたように指摘されてギクリとする。こういう性格の悪さが、後々に響くんだった。


「すいませんでした。八坂くんに比べて私はみっともなかったなって、嫉んでました」


 正直に頭を下げる。


 八坂くんはそれを聞いて吹き出した。


「そんなことないよ、姫奈ちゃん可愛かったよ」

「ええ、ゴリラって呼ばれてましたよ」

「あれ、マジうけた!」


 八坂くんは噴き出した。

 もう、なんだかいろいろ考えるのがアホらしくなる。


 丁度応援席についたところで綱を見れば、不機嫌そうに私を睨んだ。


「なによ」

「なんでも」


 不機嫌さ丸出しで返ってくる。お腹でも空いてるんじゃないだろうか。


「パン食べる?」


 聞いてみる。


「いりません」


 まだ不機嫌だ。


「白山さんっ! パンいらないの? だったら下さらない?」

「いいですよ」

「え! だったら私も!」

「ちょっと、私だってほしい!!」

「みんなで分けましょう!?」


 女の子たちが集まって来て争奪戦が始まった。目が血走っている。お嬢様がた怖いですよ。

 私はサッサとパンを投げ出して、自分の席に戻った。


 次の競技は大綱引きだ。縦割りグループで総当たり戦になる。百四十人近くのぶつかり合いは、さながら軍隊だ。応援旗を振りながら、声を合わせて引っ張り合う。UチームとOチームが得点を稼ぎ、いよいよ接戦になって来た。







 最後の種目は、芙蓉学院伝統の『ウォーウォーボール』だ。これは、簡単に言えば移動玉入れで、籠を担いで走る人、それを守る人、ボールを入れる人が入り乱れて、カゴに入ったボールの数を競うのだ。四チームが同時に戦い、戦況を見極め、場合によっては敵チームと共闘することもある。体力と知力が求められる花形競技だ。

 ちなみに、WARとWALLとBALLがかけてあるらしい。



 各学年、各クラスに一つずつ籠が配られる。Yチームの黄色い籠は三個だ。それに、他のチームがボールを投げ入れていく。チームはボールが入るのを邪魔したり、逆に他のチームの籠にボールを入れに行くのだ。


 氷川くん率いる、Fチームの一年生は気合が入っていた。籠を背負うのは背が高くて足の速い子、氷川くんである。白い鉢巻をして、とても凛々しい。背中に籠しょってるけど。


 スタートの合図が鳴ると、怒号と共に走り出す。氷川くんは大きな声を出して的確な指示を出す。Fクラスは練習をしていたから、動きが機敏だ。氷川くんは隙のない防御壁を引き連れながら、グラウンドを縦横無尽に駆けまわる。グラウンドの乾いた砂が巻き上がる中で、戦況を見極め指示を出す様子はキラキラと眩しい。思わず目で追ってしまう。敵チームの女子ですら見惚れてしまって、道を譲ってしまうくらいだった。

 その姿たるや、平家物語のようだ。源平の戦、見たことないけど。


 かっこいい。やっぱり、カッコよかったんだよなぁ……。


 しみじみと前世の気持ちを思い出す。この姿が見たくて、練習でみんなを引っ張っていく氷川くんの姿が格好よくて、前世では毎日練習を見に行ったものだ。的確な指示と、正論すぎるところもあるけれど相手を思いやったアドバイス。ぶっきらぼうだから俺様に見えるけれど、実際はそうでもない。


 そうだ。私はこの頃、本当に氷川くんが好きだった。いつしかこの気持ちを忘れてしまっていたけれど、中学一年生だった白山姫奈子は氷川和親を好きだった瞬間が間違いなくあったのだ。


 始めは不純だったけど、そしてその不純さに最後飲み込まれてしまったけれど。

 もっとこの気持ちを大切にしてあげればよかったと、あの頃の私に申し訳なく思った。

 

 キラキラと光る想い出のかけらは、まるでガラスの破片みたいだ。失ってしまった輝きを今更拾い集めようなんて思いはしないけれど、なんであの時もっと大事に扱えなかったんだろうと、後悔はしてしまう。

 なんだか少し悲しくなって、瞳の奥がチクリと痛む。慌ててハンカチで目元を拭った。


「姫奈? どうしました?」

「ううん。砂がすごいわね」

「こっちまで舞ってきますね」


 綱に問われたけれど上手くごまかせたらしい。ホッとする。


 ドンドンとなる大太鼓の音。八坂くんは前で応援旗を振っている。その隣には黄色い手作りポンポンを持った女の子たち。

 練習していなかった1-Yは、総攻撃されていて、背中の籠にはボールがいっぱいだ。背負っている子が必死になっている。練習していなかったから、全然統率が取れてなくて不格好だけど必死で、でもそれが眩しかった。

 

 みんな眩しいなぁ。


「Yクラス頑張れー!!」

 

 声を出して応援する。

 綱がギョッとして私を見た。八坂くんが私を見て笑った。

 ちょっと、恥ずかしいと思ったけど、声を出して応援する。

 前世ではそんなことしなかった。Yチームにいながら、氷川くんばかり見て応援してた。

 でも今は、みんな頑張って欲しい、そう思った。



 ウォーウォーボールの結果はFチームの圧勝になり、私たちのクラスはボロ負けだった。練習してないから仕方が無いが、男子はけっこうショックだったみたいだった。


 閉会式が始まる。優勝はFチームで、私たちYチームは三位だった。残念ではあるけれど、楽しかった。


 後片付けの残りを芙蓉会がしていたので、綱にくっついて手伝う。


「疲れたわね」

「頑張ってましたね」


 綱が笑う。


「うん、練習も楽しかったわ」


 明日からは放課後の練習もない。そう考えると、胸にポッカリ穴が開いたみたいだった。


「ちょっと寂しいわね」

「そうですね」


 半袖からはみ出た腕に、夕暮れ時の肌寒さ。思わず擦れば、綱が長袖ジャージをかけてくれた。


「準備いいわね」

「長袖を用意しろと言いましたよ」


 相変わらずのお小言で笑ってしまう。


「そうね、ありがとう」


 綱はため息を吐き出した。


 テントや椅子のなくなったグラウンドは、何時もより広く大きく見えた。

 真っ直ぐだった白線が、かすれて歪んでいる。


 秋が終わり、冬がやって来るんだな。

 ぼんやりとそんなことを思った。


 



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