↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【6巻電子書籍&POD化7/25】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻②発売中
高等部三年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
258/290

258.爆発寸前


 私は怒っている。

 怒っている。

 怒っている。


 ズンズン駅までの帰り道を歩く。晴人くんが小走りで恐る恐るついてくるのをわかっているのに、大股になる歩幅を縮められない。

 塾の帰りのホームについて電車を待つ。そこでようやく息をつく。


「し、しろやまさん……怒ってる?」

「怒ってるわよ」


 フン、と鼻を鳴らす。

 ただ、私を怒らせたのは晴人くんではない。

 

「……失礼しました。これって完全に八つ当たりだわ」


 自分の不甲斐なさに気が付いて晴人くんに謝れば、晴人くんは困ったように顔を赤らめ、顔の前で手を振った。


「う、ううん。あの、さ、俺で良かったら話、……聞こうか?」


 しどろもどろに、控えめに、申し出てくれる晴人くんはあまり周りにいないタイプで、素直に話をしてみたくなる。

 私の周りには、正義の俺様や、優しすぎる茶化し屋か、合理的過ぎるIT男や、折り目正しい彼氏様しかいないから。


「あのね……」


 私は晴人くんに愚痴をぶちまけた。





 話はこうだ。

 綱と思いが伝わり合って数週間。

 ずーっと、ずーっと幸せな毎日だった。生きてるだけでキラキラで、息するだけで空気が甘い、そんな毎日を過ごしてきた。私はすべてを綱に話してきたし、綱だってそうだと思ってた。私が一番綱の側にいる。一番綱を知っている。そう思うだけですっごくすっごく嬉しかったのに。


 先ほど、ニコちゃんにガツンとやられたのだ。

 いや、ニコちゃんは全然悪くない。


「そう言えば、アネゴ、最近、生駒くんといい感じだよね~」


 茶化すように話しかけられ、私もエヘへなんて曖昧に答える。一応、付き合っていることはまだ秘密だ。


「生駒くん、留学するなら今のうちにちゃーんと捕まえとかないとヤバいしね」


 続いた言葉に、サッと血液が頭から地面に落ちたのがわかった。体温が下がって、目の前が暗くなる。


「……え? 留学?」

「うん。別塾の子だけど、夏の留学用のプログラムに出てたって聞いたよ」

「……あ、うん……」


 私は聞いてない。聞いてないけれど、聞いてないというのが悔しい。


「生駒くん、そこでも目立ってたみたい。まぁ目立つよね。あれだけカッコよくて頭がよければさー。友達がカッコイイ連発してたから、『すっごい可愛い彼女いるみたいだよ』って言っといた!」


 ニコちゃんの声は明るい。ニコニコと笑う彼女は別世界の人みたいだ。

 のどがカラカラに乾く。

 足もとがおぼつかない。


 綱が留学ってどういうこと?

 なんで私に黙ってたの?

 彰仁は知ってるの?

 桝さんは?


「あ、皇貴、終わったみたいだから行くね!」


 ニコちゃんはサッと身を翻し、斉藤くんのそばまで行くと当然のように腕を絡ませ帰っていった。





「……そっか、進路、聞いてなかったんだ」


 晴人くんがオズオズと私を見る。心配してくれているのがわかる。それでちょっと泣きたくなる。でも、泣くなんて嫌だからギュッとこぶしを握った。


「晴人くんはシホちゃんに進路の話した?」

「あ、う、うん。……お、同じ大学行こうねって……」


 晴人くんは耳まで赤くしてそっぽを向きながら頬を掻く。それが何とも幸せそうで、羨ましい。


「ふーん」


 胸の中が醜く乾いて、そっけない声が出た。晴人くんがビクリとして、幸せそうだった顔を凍らせた。

 やってしまったと気が付いた時にはもう遅い。相変わらず嫌な私。わかっているのに治らない。


「ごめんなさい、変な言い方して。私、嫌な子なの」


 慌てて謝れば、晴人くんは手を振った。


「ううん。ちょっとわかる。お、おれも今シホちゃんに留学って言われたら……結構ショックかも、だし。早く話してくれたら一緒に目指せるかもしれないのに。いや、実際は無理だと思うけど。お金とか家の事情とかあるから」

「……綱は、なんで、留学、黙ってたのかしら?」

「……わかんない、でも、生駒くんにだって考えはあると思うよ?」

「考え?」


 信じられないという目線で晴人くんを見れば、タジっと顔を引きつらせる。


「と、とりあえず確認したら?」

「確認?」

「だって、ニコちゃんの友達情報でしょ? ただその講習に出てたのを見かけたって話で、人違いとか、勘違いかもしれないよ? 留学するって聞いてないなら留学しないのかもしれないし」

「そっか、そうよね?」


 晴人くんの言葉で、強引に気持ちを立て直す。


 そうだ、綱の口からきいたわけではない。そんなそぶりだって見せてない。きっと何かの思い違いだ。

 

 晴人くんはホッとしたように吐息を一つついた。

 私は悶々としたものを抱えながら、家に帰った。


 晴人くんに話したことで、少しだけ気持ちは軽くなったが納得したわけではない。

 夏休みの会えない間に綱がなにをしていたのか、私には告げられていない。

 夏休みの頃はお互い気持ちも知らなかったし、行動のすべてを綱が私に報告しなければならない義務はない。


 わかってる! でもでもムカムカするのよ!! だって、綱モテるじゃない?

 私の知らない塾の子と花火とか見に行ったりとかしたんじゃない?

 勉強勉強だなんて言って、本当は私たちのお守りがなくて伸び伸び羽を伸ばしてたんじゃない?


 私は綱がいなくて寂しくて、でも我慢して頑張ったのに!!


 一度疑心暗鬼に陥れば、ムクムクと沸き上がってくるネガティブ感情。


 実は夏休みに本命にフラれちゃったりして、手近な私でもいいかって妥協したのよ。

 どうせ留学するまでだからって、だって、プロムだってあるし。

 私が強引に好きだなんて言ったから困って、私の喜ぶ言葉を言ってくれただけかもしれない。

 そうしないと、生駒の立場が悪くなるって、そう思ったのかも。

 あの「ごめんなさい」の意味だって、嘘ついていたからじゃない?

 きっとそうだ。

 だって、好きだと言ってはくれたけど、特に関係は変わってない。

 彼氏だと思っているのは私だけ。

 秘密にしてるからきっと誰も私を彼女だと思ってない……。

 それって、綱にとって都合がいいんじゃない?

 私を図に乗らせておいて、他の子とだって仲良くしたって、私が何か言えるわけじゃない。

 好きなのは姫奈ですよ、でも秘密ですからねって口先だけでそう言って、そのままフェードアウトする気かも。


 自分で思って悲しくなる。その悲しさが怒りに変わる。


 ああ! もう! 綱なんか! 綱なんか!!

 どうせ、私ばっかりが好きなのよ!


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。