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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
中等部一年

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22.バレエの夜に 1


 別荘地の夏も過ぎていく。彰仁の自由研究に付き合って、早朝からセミの抜け殻を探したりした。前世ではセミの抜け殻探しなんかしなかった。というより、彰仁の自由研究になんて興味がなかったのだ。朝寝坊してグダグダしていた。

 でも、早朝の抜け殻探しに付き合ってみれば、羽化の遅れたセミがいて、羽化の瞬間を見ることができて面白かった。彰仁は目を輝かせて興奮していた。そういう姿も知らなかったなぁ、なんて思う。

 私は私でウインナー作り教室に行ったりした。


 雨の日は修吾くんがスカッシュコートを借りに来たから、一緒に楽しんだ。

 綱と選んだスポーツウエアは、可愛さこそなかったけれど、実用的で気に入った。毎朝のジョギングといっていいかわからないウォーキングは続いている。おかげでたくさん食べても大丈夫だ。たぶん。


 別荘地の最終日、今夜は少し特別な日だ。

 軽くドレスアップして、会場へ向かう。ブルーベリージャムをイメージした、ブルーのギンガムチェックワンピースはお気に入りだ。エプロンのような切り替えに、白いコットンのレースが付いた襟。パフスリーブの袖にも同じレースが付いている。

 髪は綱にハーフアップにしてもらい、結び目に白いコットンレースのリボンを結んで貰った。


 毎年楽しみにしている行事。家族みんなで、野外バレエの鑑賞会だ。今年のエキシビションには、以前同じバレエ教室だった友達が出ることになっているから余計楽しみだった。


 野外だけあって特別な雰囲気のする会場。今日の演目はジゼルだから、木々の合間からウィリが現れてきそうでドキドキとする。山間地の夜風は冷たくて、頬を撫でる風にゾクリと背中から寒気が上がってくる。

 その中で繰り広げられる美しい踊り。白いチュチュがフワフワと舞って、可憐なのに指先までもが洗練されていて力強い意志を感じる。

 毎年期待を裏切られたことがないのだ。


 主な演目が終わってエキシビションに入る。大会で優秀な成績を収めた若手が踊りを披露するのだ。その中に、私の桜庭女学園の友人がいた。彼女は私と同じ三歳からバレエをはじめて、一緒に頑張ってきた子だった。幼稚園も一緒の仲良しで、いつも手を繋いで歩くような親友だった。


 三歳から始めたバレエ教室は先生がスパルタで、本気のダンサーを育てていたから優秀なダンサーがたくさんいる。

 しかし、私はダンサーになるつもりはないので、怖かった。だから中等部受験を機に辞めてしまったのだ。そのくせ、彼女が選ばれて自分が選ばれないことに嫉妬した。辞めなければ自分がなっていた可能性だってあったはずだと腹を立て、前世のこの日はドタキャンした。そして、そのせいで桜庭女学園の友人たちと疎遠になったのだ。


 今でもモヤモヤしているくらい後悔した出来事だった。あの頃は僻みで何も見えなくなっていたけれど、今夜の舞台を見て確信する。私がバレエを続けていたところで、この舞台には立てない。そんな当たり前のことが、前はわからなかったのだ。


 今回は素直におめでとうと言いたいと思っていた。


 エキシビションでの彼女は、妖精のように綺麗だった。今思えば選ばれて当然の美しさ。どれほど頑張って練習したのか、傍から見てもわかるほど、指先まで繊細な仕草。


 大きなため息と喝采と共にエキシビションは閉じられ、夏の夜は夢の様に煌めいた。


 私は大きな花束をもって控室に向かった。彰仁と綱もついてくる。大人たちには大人たちの社交があった。


 エキシビションに出ているのは若手ばかりだから、控室は合同のようだった。私はドアをノックしてにぎやかな控室に入る。


「美佐ちゃん! おめでとう!」

「姫奈ちゃん!」


 美佐ちゃんは私を見つけて顔を上げた。


「これ、お祝いに花を持ってきたの」

「わぁ! ありがとう!」


 花束を受け取ると、盛大にハグされた。懐かしい。これくらいが桜庭では普通の距離感だった。


「東京から離れてるし、知っている人少ないから、どうしようかって」

「うん」

「不安で、すっごく緊張して、でも姫奈ちゃんが来るって言ってたから」

「うん」

「舞台から姫奈ちゃん探して、……私……」

「うん。目が合ったわね」

「うん、目が合った!」


 緊張の糸が解けたのだろう、目じりに涙がみえる。

 こんなに心細かった友人を、前世の私は嫉妬で踏みにじった。

 あの日、私がドタキャンしたせいであそこに四席空きが出ていたはずだ。私がいかないなら行かないと、子供たちは全員キャンセルし、おもりのために生駒もキャンセルしたからだ。金額の高い良い席だったから、きっと目立った空席だっただろう。

 そのことに気が付かされて、おなかの底が絞られたように痛い。最低。ほんと最低だよ、私。


「とっても綺麗だったわ」

「先生のおかげよ」

「そうね、先生のおかげね。怖いけど」


 そう言って小さい声で笑いあった。


「この後、打ち上げに一緒にどうかしら?」


 美佐ちゃんが伺うように私を見た。


「心細いの」

「いいのかしら?」

「大丈夫よ、ほんと簡単なものだから、あちらの皆さんも一緒に」


 美佐ちゃんは私の後ろの彰仁と綱を見た。

 私も二人を振り返る。

 二人はよそ行きの顔で微笑んだ。了承の意味だととる。


「ではお言葉に甘えてお邪魔します」


 私は両親に連絡をした。綱と彰仁と一緒だと言えば、帰りに生駒をよこすとだけ言われた。私一人だと絶対出かけさせてくれないのに、なんなのだろう。


 美佐ちゃんに案内されて打ち上げ会場へ向かう。控室のある小さなホテルの小さなホールが会場になっていた。本当に軽い打ち上げらしく、軽食がテーブルに並んでいた。

 スタイルの美しいバレリーナたちがたくさんだ。細くて長い首に、背筋の伸ばされた姿勢。名乗らなくてもバレリーナだとわかるオーラがある。美佐ちゃんもその中に入れば、金の卵らしい風格があった。


 舞台に立ちなれた垢抜けたダンサーの間に立てば、ハッキリ言って私は思いっきりお子様こちゃまだ。お気に入りのワンピースでさえ、幼さが際立って見えた。場違いだ。肩身が狭くなる。



「お久しぶりね、姫奈子さん」


 凛とした声に顔を引きつらせれば、バレエの御影先生がいた。エレガントの鑑のような美しさが迫力たっぷりだ。


「お久しぶりです。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」


 慌てて頭を下げる。


「いいえ、今日は観に来たのかしら?」

「はい。美佐ちゃんを応援しにきました」


 そう答えれば、美佐ちゃんが顔を赤くして微笑んだ。


「もうバレエなど嫌いになったのかと思っていましたよ」


 御影先生は嫌味と心配のギリギリのバランスでにっこりと笑った。


「い、いえ、そんな」

「また始められないの?」

「あの、学業がちょっと」


 バレエは嫌いではないけれど、この先生のもとでスパルタでやる自信はない。

 御影先生はお見通しのように笑った。


「趣味で始める気が起きたら相談なさい。そういうクラスを案内できます。そうそう、最近ではフランス語で教えるクラスもできましたよ」

「そうなんですか!」


 ゆくゆくはフランス語を習ってみたいと思っていたので、俄然興味がわいてきた。


 御影先生は高名な方なので周りに人が集まってくる。先生は美佐ちゃんを紹介すべく、立ち回っているようだった。これからの未来のために売り込んでいくのだろう。

 私はお礼を言ってそこを辞した。邪魔になってはいけない。



「姫奈子お姉さん! 御影先生の知り合いなの?」


 修吾くんが声をかけてきて驚く。後ろには光毅さまがいた。


「以前習っていたの。修吾くんもお友達が来てるの?」


 聞けばキョトンとして首をかしげる。


「ばか! 姫奈子!!」


 彰仁に怒鳴られてビックリする。見れば綱もヤラカシマシタネ、という顔だ。


 え、私やらかした?


 それを見て光毅さまが可笑しそうに笑った。

 彰仁が慌てて頭を下げる。


「失礼しました。光毅さん、コイツ、本当にバカで」

「バカバカ言わないでよ」


 小さく反論する。光毅さまの前であまり馬鹿にされたくない。


「バカなんだから仕方がないだろ! 黙れよ、姫奈子」

「なによ!」


 オッと思わず被っていた猫が剥がれた。


「このバレエの主催者はSBテレビだ」

「知ってるわよ」

「何にもわかってないな! だから、」


 イライラとして彰仁が怒れば、光毅さまが可笑しそうにそれを手で遮った。


「そこのテレビ局の社長の名字がね、島津って言うんだよ」


 光毅さまが優しい瞳で教えてくれる。だけど、私だって淡島先輩から聞いて知っていた。


「存じております」


 SBテレビのSは島津のSだ。そして、そのSBテレビは前世でお父様の会社の不祥事の第一報を伝えた会社でもある。


「そう? コイツの名前、島津修吾」


 光毅さまが修吾くんの肩を叩いた。修吾くんは、改めて私にお辞儀をする。


「オレは今日父の代わりにここへ来てるんだ」


 と光毅さま。


 えっと、それって。


 慌てて彰仁をみれば睨み付けられるし、綱は眉間を押さえた。


「え、あの? もしかして」

「まさか、知らなかったとは思わなかったな。結構オレって有名だと思ってたけど」


 光毅さまがいたずらっぽく笑った。

 光毅さまたちは、SBテレビの社長子息だったのだ。


「失礼しました! 勉強不足で申し訳ありません」


 慌ててガバリと頭を下げる。顔が真っ赤になる。穴があったら入りたい。


 っていうか、なんだよ! 彰仁教えてよ!!


 彰仁は怒って私を睨んでいるし、綱は呆れたような顔をしていた。

 きっと彰仁は自分の友達について話していたのだ。綱はそれをキチンと聞いていて、私はまともに聞いていなかったことになる。

 氷川財閥の御曹司以外、どこの社長の息子だろうが雑魚だと思って興味がなかった。だから、記憶に残っていなかったのだ。

 しかも、私の場合は二回目の人生なのに!!


 ……やばい。


 だって、まさか、あの島津だと思わないじゃない? 何度も顔を合わせていたけれど、話題にならなかったし、気さくだし、だって、だって~!


 ……。スイマセン、本当にただの勉強不足です。今考えてみれば、パンフレットの主催者の顔写真の島津社長は光毅さまによく似た爽やかおじさまだったし、名前だって修光のぶあきだ。完全に血縁者だ。ほんとバカバカ、私のバカ~!!

 っていうか、どうするの。これで、家の不祥事大きく取り上げられるきっかけになったりして。どうしよう。まずいんじゃない? やらかしちゃったんじゃない??


 か、神様? ねぇ、これ神様の試練なのですか。





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