101.シンガポール修学旅行 1
ついにこの日がやって来ました! シンガポール修学旅行の始まりだ。班別に集まって搭乗を待つ。
シンガポールでは班別が基本のグループになる。移動時の座席も、ホテルの部屋割りも班別だ。
初めて乗るエコノミー席に、ワクワクしていたら三峯くんに冷やかされた。
「白山さん、飛行機初めて?」
「いいえ! エコノミー初めてなんです!」
「……やっぱり白山さんて、世間知らずというか、生粋のお嬢様だよね」
苦笑いされたから睨みつければ、三峯くんは両手をあげてホールドアップの姿勢を取る。三峯くんは言葉は意地悪だが、本心が意地悪ではないことがグループ活動の打ち合わせを繰り返すことで、最近わかって来た。
お嬢様の生態が面白いらしく、お嬢様の中でもあまりお嬢様らしくない私をからかって遊んでいるのだ。
「でもさーっていうか、だからさ、海外で騙されそう」
「そんなことないもん! 海外は初めてじゃないし!」
「へー、どこ行ったことあるの?」
「……ハワイしかないけど」
そう答えれば三峯くんが小さく笑う。
「あ! 馬鹿にしてる! ハワイしかないけどハワイにはいっぱい行ってるもん!」
「パパとママと一緒にね? 日本語の通じるところでしょ?」
「~~~! そうだけど! みんなそうでしょ!?」
「まぁ、お嬢様はそうかもね?」
むー、っと睨みつければ、後ろからドッカリ頭に乗ってくる八坂晏司。無駄にいい匂いさせるのやめろ。
「僕は海外慣れてるから、姫奈ちゃんいつでも頼って?」
「とりあえず重いので離れてください」
「モデルに重いとか失礼じゃない?」
「モデルだと思ってないですし」
「ひどーい」
八坂くんは、酷いと言いながらケラケラと機嫌よく笑っている。痛い視線の先を見れば、綱と桝さんがコチラを見ている。二人は同じグループでもないのに、ちょっと距離が近いんじゃないかと思う。
桝さんがこちらを見て、綱に何かを小さく囁いた。
綱の表情が一段と険しくなる。
綱……、綱が怖い。あれ、後で怒られるやつだ……。
思わず顔をそらせば、三峯くんと目が合った。そして、意味ありげにニッコリと笑われる。
「なんですか?」
「保護者が側にいないと不安?」
「そんなことないもん! ちゃんと電車の練習だってしてきたし、英語は自信あるんですからね!」
「で、電車の練習……」
それを聞いて三峯くんは噴き出して笑った。
到着は夜だった。この日はマナー研修として、ホテルの扱い方を学び、ドレスアップして夕食をいただく。その為にスマートカジュアルの服装を一着だけ持ってくることになっている。マナー研修は毎晩のディナーの際に行われることになっていて、少ない荷物でどれだけ楽しめるかも研修の一つなのだ。
前世の私は研修の意図を理解できず、文句ブーブー当日ホテルで毎日違うワンピースを買っていましたよ! すいませんね!
ホテルでの食事をつつがなく終えれば、あとは部屋で休むだけだ。私と理子さんと芽衣さんの三人が同室になっている。エキストラベッドでさえ立派だったので、私は使ったことのないエキストラベッドを譲ってもらった。
二人とは、グループ学習のおかげで仲良くなれていた。しかも、エコノミー席でずっと一緒だったから、とても気安い。
ホテルは氷川財閥系の高級ホテルでベイエリアに建っている。中にはフードコートやショッピングモールはもちろん、プールやスパ、シアターなどあり、ホテルから一歩も出ずに楽しむことができるのだ。
前回の修学旅行のグループ学習では、大黒さんたちとホテルの中から出ずに過ごした。今思えばそれのどこが学習なのか、謎過ぎる。先生良く許可したな。いや、見放されてたのかもしれない。
しかし、今回はきちんとシンガポールの街を楽しむ。
明日は、全体での研修旅行だ。国立博物館や植物園へ行く。夜にはナイトサファリだ。楽しみにしながらも、私は疲れてぐっすりと眠った。
朝である。髪の毛が跳ね捲っている。もちろん、髪を結ぶ練習だってしてきたけれど、なんだかいつもより髪が跳ねまくっている。シャンプーだって持ってきたのになんでだろう。
困りながら髪をとかしていると、理子さんと芽衣さんが隣に腰かけて準備を始めた。ホテルのバスルームは広いので、女子三人が並んでも平気なのだ。
「上手くできないの。いつもよりくせが強くて……」
困り果てて嘆く。
「水が違うからかしら?」
芽衣さんが言えば、理子さんがスプレーを貸してくれる。
「これ使ってみる? 髪にスプレーすれば少し落ち着くかもしれないわ」
「ほんとう?」
理子さんは私の後ろに回って、髪にスプレーをしてくれる。
「ねぇ、ちょっといじってもいい?」
「こちらこそお願いしてもいい?」
私からお願いすれば、理子さんは笑った。
「前から姫奈子さんの髪触ってみたかったの」
理子さんはとてもおしゃれだ。深い茶色の髪はパーマなのだろうか、綺麗なウエーブボブになっている。それをいつもアレンジしていて、個性的な短い前髪はとても垢抜けているのだ。
「理子さんの髪はパーマ?」
「地毛なの」
「私もそれくらい綺麗なウエーブだったらよかったのに。私は焦げたパンの耳みたいな不味そうな茶色だし、癖はあるし、扱いづらいのよ!」
唇を尖らせれば、理子さんは笑った。
「違うわよ。ちゃんとまとまる様に努力してるんだから!」
「そうなの? ねぇ、コツを教えて?」
「いいわよ。じゃあ、まず簡単にできるアレンジね!」
理子さんはそう言うと、スプレーで濡らした髪を乾かした。そして持ってきた整髪料を使って、髪をまとめる。
「こうやって、根元は緩めておいてクルリンパってするの」
「え? え? それだけでいいの?」
「そうよ、簡単でしょ? で、ワザとこういうところを引っ張って、ほつれたみたいにするの」
結び目にバレッタを止めて完成だ。理子さんが引き出した髪のおかげで、変な癖がついている髪も、あえてのゆるヘアーに見える。
「わぁ! 姫奈子さんの髪、素敵ね。私はストレートで、ルーズな感じのまとめ髪が難しいから憧れるわ」
芽衣さんが褒めてくれる。芽衣さんはワンレンロングで真っ直ぐサラサラである。おまけに、天辺にはピッカリ天使の輪が光っている。
「こんなに綺麗な髪なのに!!」
「でも、髪が細すぎてピンが止まりにくいのよ。髪の量が少ないからすぐペチャンコになっちゃうし」
私が言えば、芽衣さんは不服そうに答えた。
「二人とも無いものねだりね」
理子さんが笑う。
「折角いいもの持ってるんだから、活かさなきゃ!」
「理子さんみたいに?」
「そうそう!」
理子さんは快活に笑った。私たちも笑う。
理子さんは明るくて前向きで元気だから、周りは自然と笑顔になるのだ。
こんな風になりたいな、なんて思いながら、まずは髪の結び方を色々教わろうと決意した。







