Welcome to the hell
4時間目が終わる15分ほど前。俺らの班が1番乗りで完成した。盛り付けをしてから先生を呼んで報告ついでに写真を何枚か撮ってもらう。
「相変わらずあんたたちは早いわねぇ」
「だろだろ!」
「おばあちゃんもう食べていいだろ〜?何枚撮ってんだよ〜」
「はいはい…………よしっと。食べた後の片付けとワークシートの提出、忘れるんじゃないよ」
「「はーい」」
雅人と涼太が緑川先生を急かしている間に、残りのメンバーはエプロンとバンダナを外していた。
しかし改めて見ると美味そうだな……炒飯は米一粒一粒がパラパラしてるし、青椒肉絲も食欲をそそるいい匂いがする。最後に作ったスープからは湯気が立っていて、本格的な中華料理を目の前に俺はこっそりとスマホを使ってカメラのシャッターを切ってしまった。
「流星が料理ができないのが今日1番の驚きだったな」
全員席についたところで京がからかい混じりに言う。
「し、仕方ねぇだろ、普段料理なんかしないからな……」
俺は思わずどもってしまったが、この際料理のスキルがないのは認めよう。
「まぁ言ってオレらも料理するのって調理実習の時くらいだけどよ!」
「でも今から1人暮らし始めろって言われても飯作るのくらいは出来るかもなぁ」
雅人と涼太は自信満々そうに俺を見てにやけていた。全く……俺がいくら料理がからっきしダメだからって調子乗りやがって……
つか2人共面倒臭かったのか、バンダナとエプロンつけたまま箸構えてるぞ?料理は逃げないんだから普通に制服で食べればいいのに……
「ほらほら!冷めないうちに早く食べようぜ!いっただきま––––––––––––」
ガッシャァァァァン!!!
調理器具が床を転がり、それに続いて誰かが倒れる音が空気を凍らせた。
俺たちだけでなくクラスメート全員が一斉に音のした方を向く。
「海斗ーっ!!大丈夫かぁーっ!!」
「……あれ息してなくね?」
問題が起きたのは隣の2班。メンバーの1人である海斗が身動き1つもせずにうつ伏せになって倒れていた。他のメンバーも駆け寄り、騒ぎを聞きつけた緑川先生もやって来る。
「どいたどいた……あら大変、本当に息をしてないわ」
いや先生、脈当ててあっさりと言わないで下さい怖いです。
「とにかくあたしゃ救急車を呼んでくるから……」
「先生!私が行ってきます!」
学年のマドンナと呼ばれている俺たちの女神美優が名乗りを上げて急いで教室を出ていく。足腰の悪そうな緑川先生に代わって率先して行くなんて……さすが美優、心遣いが身に沁みるぜ。
「他のみんなは自分の班にお戻り。誰か––––––––」
「「ぎゃぁぁぁーっ!!!」」
先生が何か言いかけたところで今度は別の叫び声がした。あれは……純平と騎士か?いつの間に美優の班に来てしかも2人揃って倒れてるぞ……
「純平!騎士!どこに行ってたかと思ったらお前ら……」
「陸人……やべぇよ、こいつら息してねぇぞ…………」
同じ班の陸人と春樹が純平と騎士の首に手を当て戦慄する。
それから徐々に家庭科室中にどよめきが流れていくのが分かった。
なんか…………マズくねーか?
「あんたたち落ち着きな!」
その時緑川先生が張り詰めた声でぴしゃりと言った。一瞬の沈黙の後、その場にいた全員が落ち着きを取り戻していく。
「まずは救急車の到着を待つ。お話はそれからよ」
5分後、犠牲者3人が担架で運ばれ近くの病院に緊急搬送された。
しかしこれはあくまで恐怖の幕開けに過ぎなかったのだ…………