森
気がつくとここにいた。
「ここは何だ?あの暗い場所からでたのか?」と思いつつも、辺りを見渡した。
何れもが見たことのない物だ。
茶色く太い物やそこに付いている緑の小さく薄い物。上には眩しく輝く何か、下には焦げ茶色の何か。
辺りから聞こえる様々な音、匂い。そして自分と思われる何か。
その何れもが真っ暗な世界には無いもの。
動揺、焦り、嬉しさ、感動、怖さ、興味、………………様々な感情が心にあった。
その多くある感情の中でも一番強い感情は、「興味」であった。
「興味」に引かれるままに、辺りの物に触れ始めた。
まず始めに触れたのは「自分」。
柔らかい何かに覆われていて、硬い部分もあり、温かくて、…………
その感触に浸っていると驚くべきことが起こった。
「思い出した」のである。
しかし思い出したのは自分がどういう存在であるかという事ではなく、自分は腕、足、頭、皮膚、爪、…………より構成された「体」を持っているということだ。
「思い出した」こにより、莫大な情報が頭に流れ込んでくる。
それは苦しいものではなく、むしろ体が満たされるような感覚である。
その感覚に浸りながら他の物にも触れてみる。
茶色く太い物は「ケデアの木」といい、それに付いていた緑色の薄い物はその葉であった。
俺が触れたらその名称以外にも様々な触れた物に関わる情報を「思い出す」。
例えば「ケデアの木」の場合、この木は家具用の木材として使われ、また森の奥地に群生するという情報も思い出す。しかし、思い出すのは良いのだが思い出した内容がわからない部分がある。この場合は「家具」や「森」にあたる。
それでも構わないので、それから様々な物に触れた。
とにかく「知りたい」からである。
暫くすると大きな動くものを見つけた。
ソイツは俺と同じように二本の足で立っている。が、大きさや形は違った。
ソイツには全身を黒の毛で覆われて、歯のどれもが尖っている。また、木のように太い腕に繋がっている手には長く鋭い爪、頭には二つの耳と思われる何か、そして尻の部分には丸く毛で覆われた何が付いている。
俺はソイツに触れようと近づいた。触れれば「思い出せるから」だ。
しかし、俺からソイツに触れる前にソイツが俺に触れてきた。
その手で俺をなぎはらったからだ。
吹き飛ばされた俺は近くの木に衝突して、止まる。
背中を強く打ち付けて、肺から息が強制的に吐かされる。
しかし、不思議なことに傷ついていない。
そして、ソイツ触れたことで「思い出した」。
ソイツは「巨大森熊ジャイアントグリズリー」という。
熊型の魔物で、肉食である。強靭な毛皮に覆われ、鋭い嗅覚を持ち、その豪腕で敵を凪ぎ払い攻撃する。
またこの素材は武器や防具に使われ、その肉は臭いがするが食べれる。
そして「思い出した」、俺はコイツを殺せる事を。
巨大森熊は木に寄りかかっている、敵にとどめを刺すために近づく。とどめの刺し方は決まっていてその爪で喉元を掻ききる事だ。何時もの狩りと同じだ。敵であるソイツに爪の先を向けた。
そして突き刺す。
巨大森熊の頭に疑問が浮かんだ。知らない間に右の腕が無くなっていた。敵に向けたものだ。何故だ?
疑問を抱えたままソイツを見る。
おかしい。
さっきまでソイツを見下ろしていたのに、今は見上げている。
なんで?…………
その疑問は分からないまま、巨大森熊は死んだ。
俺はコイツの肉を食べてみることにした。
何故なら、「知りたい」より「食べたい」の方が強くなった為だ。
ソイツにかぶり付いた。が、毛皮が邪魔をした。
ので、手刀で切り裂く。すると真っ赤な液体と肉が現れた。
これにかぶり付く。今度は成功だ。
肉の味は旨いか不味いか分からない。何たって比べるものが無いからだ。
顔に真っ赤な液体をベタリと付けながら、その肉を食べ尽くした。
中には紫色の石見たいな物が合ったのだが、それは俺が触れると消えてしまった。
いつの間にか先程まで巨大であった体は、今はその毛皮と爪そして頭のみとなった。
「食べたい」よりも「知りたい」が強くなったため探索する。
と言っても、辺りのまだ触れていない物に触れるだけなのだが。
上に輝いていた何かは、次第に輝き方を変え真っ赤になった。
そして消えた。
辺りは真っ暗に変わっていく。
それに俺は恐怖した。またあの暗い世界に戻ってしまったのだと。
しかし、違った。
上には前に輝いていたものよりも輝きは小さいが、小さな輝きがあった。
その輝きに目を奪われる。
「知りたい」は「眠りたい」に変わり、木を背にして目を閉じた。