閑話 イツカノドコカ
白衣を羽織った若い男性が手元の端末で様々なデータを閲覧しながら真っ直ぐ延びる廊下を一人歩いている。
「ちょっと待って下さい!――室長」
少年の後方から同じような服装の若い女性が少年に追い付こうと小走りで向かってくる。
「呼び捨てで良いっていつも言ってるじゃないですか――さん」
室長と呼ばれた少年は端末から顔を上げずに返事を返す。
少年に追い付き横に並び歩く女性は困った顔で少年に注意した。
「研究所の幹部の上に自分の直接の上司に向かってタメ口なんか使えませんよ!」
女性は自分の端末を脇に抱えながら少し怒った口調で反論する。
「俺はちゃんと仕事してくれればそんなもんどうでも良いって思ってるんですけどね、皆俺より年上なんだし」
少年は端末を操作しながら立ち止まらずに歩き続ける。
「年齢なんかで差別化するのは百年以上前の話です!今は完全な実力主義です。その点から言えば室長は初頭教育修了時点で当時制御困難だった新エネルギーである〈魔力〉の制御方法論、使用法、更には〈魔力〉を仮想空間内でプログラムし現実空間に既知のエネルギーとして発現させる〈術式〉の開発までさせて」
話が長くなりそうな女性に、ここで初めて少年は顔を上げて質問し話を中断させた。
「あー俺の過去は別にどうでもいいんで、それよりも遮断実験の経過観察のレポートは上がってきてます?」
いきなり質問され、思考が空白にされたのか女性は少年の眼を見詰めて数度瞬きすると、問い質された内容が理解できたのか慌てて端末に目を落とした。
「え?あ、はい。密封した循環環境内での個体保有魔力の変化のレポートは各実験の全ての物が届いてます」
再び自らの端末に目を向けた少年は、小さく頷くと女性にレポートの送信を頼んだ。
「僕の端末に送っておいてもらえますか?一通り目を通したら調整事項を送信しておきますから」
少年は室長室とだけ表示された扉の前に立ち止まり扉の左側にある生体認識装置に左の掌を翳して解錠作業を行った。
女性は端末を操作してレポートを纏めて少年の端末に送信するとこれで大丈夫です、と言いながら開いた扉をくぐり女性の方を見ていた少年にニコニコと微笑みかけた。
「はい、届いてます……」
「……」
「入ります?」
「はい!」
無言でこちらを見詰め続ける女性に根負けした少年が女性に入室するのか問い掛ければ女性は嬉しそうに返答し直ぐ様少年の脇を抜けて先に部屋に入っていった。
「はぁ…」
少年はひとつ溜め息を吐いて扉を閉めた。




