クールな彼女は足をひっかけられる
「いやー、難しかったな。お前どうだった?」
「僕はまあ、そこそこ解けたよ」
「俺はかなり解けたぜ」
とある休日、塾で模擬試験を終えて帰り支度を始めていると、煉獄君が話しかけてくる。
模試の出来が良かったのか、随分と上機嫌で、その側をすたすたと通り過ぎる郡山さんには目もくれない。
今日は特に問題なく帰れそうだと思っていたのだが、
「……っ」
「ちょっと郡山さん、こんなところで何こけてんの?」
「はっずかしー」
気が付けば郡山さんが床に転げていた。
立ち上がってパンパンと服をはらい、何事も無かったかのように帰っていく郡山さん。
ああ見えてドジっ娘なのかなと思ったが、
「……あの女子が、足をひっかけてた」
一部始終を見ていたのか煉獄君がそう呟く。
よく見ると彼女を笑った女子は彼女と同じ中学の生徒だ。
他の学校の、それも女子中のいじめなんて流石に僕には解決できない。
その悔しさにもやもやとするも、
「ったく、くだんねーことしやがって」
煉獄君の発言をはっきりと聞きとる。
彼女に蜘蛛を投げつけた煉獄君が、筆箱を盗んで捨てた煉獄君が、彼女が筆記用具を貸してもらえないのを笑っていた煉獄君が。
自分の関係ないところの嫌がらせを見て不快になる。
やはりデジャブだ。漫画かアニメか小説かは忘れたが、似たような話をこの間見た気がするんだ。
それが思いだせれば、煉獄君と郡山さんの問題も解消できると思うのだが、思い出せない。
「んじゃな、模試の点数で勝負しようぜ、負けた方がジュース奢りな」
「うん、それじゃあね」
煉獄君と別れた僕は、その後みたきちゃんの家へ。
「あ! やっときた!」
「お待たせ」
家の前で猫を触っているみたきちゃんが僕に気付いて駆け寄ってくる。
今日はみたきちゃんとデートの予定なのだ。
「小学校の頃は、あんな悪戯なんて無かったんだけどねえ。精々雪合戦くらいか。まだ良心が残っていたのか、それとも関わるのも嫌だったのか」
「???」
その辺を歩きながら呟くが、みたきちゃんは首をかしげるばかり。
中学生、高校生になるにつれいじめというのは陰湿になっていくのだろう。
みたきちゃんへの直接の被害があんなものですんだのは、幸運な事だったのかもしれない。
「みたきちゃんはもし小学校の頃僕がいなかったら、ずっと一人ぼっちだったのかな」
「あたるくんいなくなるの?」
「ならないよ」
直接いじめを受けるより無視されたりする方が辛いと言う人がいるけど、
実際どうなのだろうか。僕にはわからないや。
「僕もそのうち苛められるんだろうなあ、変わり者だし」
というか六月六日さんの時に嫌がらせを既に受けていたし、今でもスクールカーストは低い方か。
赤石さんがいなければ、どうなっていたのだろうか。
情けは人のためならず、中学一年の時に赤石さんと関われてよかったよ。
「そんなのぜったいゆるさないよ!」
「ありがとう」
みたきちゃんなら本当に僕が苛められている時に駆けつけて、ヒーローのように敵をなぎ倒しそうだ。
数日後、模試の結果が返ってくる。
全国偏差値は65。塾内偏差値は58で50人中12位。
まあまあといったところか。数学は得意だが英語は苦手。
やはりちゃんとした模試は参考になるね。
貼りだされた塾内ランキングを眺める。総合トップは……
「っざけんな!」
がんがんと地団駄を踏む煉獄君。
総合トップには、郡山さんの名前があった。
勉強できるんだろうなと思っていたけど、やっぱできるんだ。
当の本人はランキングに興味はないのか、定位置に座って見直しをしている。
そして煉獄君の順位は50人中42位。かなり下の方だ。
「……悪い、今日は帰るわ」
ジュースを奢るどころの話ではない、すごく不機嫌そうに塾を出て行く煉獄君。
成績が悪い時にこそ奮起しないといけないのに、授業をサボっちゃ駄目だよ。
それはともかく、今日は郡山さんの隣に座っても彼に文句は言われないなと彼女の隣に座るが、
「……何で隣に座るの」
「僕は目が悪いから、前の席座らないと」
「だったら眼鏡かければいいじゃない」
彼女に文句を言われてしまうのはご愛嬌。
けれど僕は別に彼女に嫌がらせをするつもりはない。
むしろ僕と彼女の後ろに座っている、この間彼女の足をひっかけた女子が、
また何か悪さをしないかと注意しているくらいだ。
隣に座ってるだけで授業だって真面目に受ける。
特に何もなく授業が終わる。
すぐに教室から出ようとする彼女であったが、
前回同様に、彼女と同じ中学の女子が足をひっかけようとする。
「ってえええええ!」
「へ?」
「ご、ごめん! 」
しかし、それを見越した僕は郡山さんよりも早く女子の足にひっかかり、わざとらしく盛大にこける。
目当てとは違った人間がこけてしまったことで申し訳なさそうな顔になる女子達。
そうだ、それでいい。それで罪悪感を感じることで、郡山さんへの嫌がらせが緩和されてくれればいい。
女子中のいじめを解決なんて僕にはできない話だけど、こうする事で陰ながら訴えかけることはできる。
「うん、よそ見してた僕も悪かったよ、それじゃ」
おぼつかない足取りで教室を出る。
誤算があるとすれば、演出のために派手にこけた結果、滅茶苦茶足が痛いということか。
帰ったら母親に診てもらおうと塾を出て遅いペースで歩いていると、
「馬鹿じゃないの」
気づけば隣に郡山さんが。随分と不機嫌そうだ。
「何の事?」
「私の身代わりになったつもり? だったら大きなお世話よ、あんな二番煎じ、私はひっかからなかった」
「いや、あれは無関係な僕が転ぶことで罪悪感を感じさせようっていう作戦でね」
「大きなお世話。私は別に気にしてない。……足大丈夫なの? まだ開いてる診察所あるけど」
僕の足を心配してくれるのか、優しいところあるんだね。
自分の事はどうでもいいと言う割に他人の心配はする。
何だか自分を見ているようだ。
「大丈夫大丈夫、歩けるし。……大きなお世話ついでに聞いてもいいかな、いつ頃から苛め受けてるの?」
今なら、少し突っ込んだ質問をしても答えてくれるだろうかと思い切って聞いてみる。
彼女はこちらを睨みつけるが、すぐにばつが悪そうな顔になり、うつむく。
「……小学校高学年の時からよ。あの男……煉獄含む男子達に、冷たい女だの、性格ブスだの言われて、色々嫌がらせとかも受けたりしてね。男はなんて馬鹿なんだって女子中に行ったのが間違いだった。男の目の届かない女子の方が遥かに陰湿だったわ。大丈夫、後1年耐えればいいだけの話。共学の高校なら、今よりはきっとマシになる……これで満足? 惨めな女の話聞いて楽しい?」
目に少し涙を浮かべながらこちらを睨みつける彼女。
「辛かったんだね」
彼女の悲痛そうな表情を見ていると、僕が思っている以上にいじめというのは深刻なものらしい。
「ははは、あの男50人中42位だって? あいつと同じ高校に行く羽目になるんじゃないかって思ってたけど、その心配は無さそうね。……ねえ、高下君って言ったっけ? 何で私に構うの? ……ひょっとして、私の事が好きとか?」
色々とカミングアウトしてヤケになっているのか、そんな事を言いだす郡山さん。
「いや、その」
「だよね、そんなわけないわよね。私みたいな不細工好きになる人なんて」
「落ち着いてよ」
今まで色々と溜めこんでいたのだろう、マシンガンのようにぶつぶつと話しながら虚ろな目で涙を流す。
「えと、その、郡山さん。デートしない? 気分転換に」
「……本気?」
どうにか彼女を落ち着かせようと僕の口から出たのは、そんな軟派な発言。
ごめんよみたきちゃん……。




