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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校3年(前) クールな彼女(いじめられっこ)
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クールな彼女は蜘蛛が苦手

 こんにちは、高下中です。

 中学3年生になりました。


 中学3年生になって変わったことと言えば、


「よろしく、赤石さん」

「よろしく」


 赤石さんと同じクラスになったことでしょうか。

 まあ、ほとんど会話してないけど。




「受験かあ、中高一貫校を選んでおけばよかったかも」

「がんぶれーど?」

「それは銃剣ね。もっと上の高校目指したいし、塾に行かないとね」

「かみひこーき?」

「それはじゅ……じゃなくて、ごめんねみたきちゃん、またみたきちゃんと遊べる時間少なくなりそう」


 いつものようにみたきちゃんとの帰り道、ため息をつく。

 中学受験は失敗しても地元の中学に行けばいい話だが、高校受験は失敗できない。

 僕は六月六日さんの一件で悟ったことがある。

 それは地位のある人間の言葉ではないと、なかなか皆耳を貸さないということだ。

 だから僕は自らの生き様を認めさせるために、いい地位につきたいという漠然とした目的を持つことにした。

 いい地位を手に入れるためにはいい会社。

 いい会社にに入るためにはいい大学。

 いい大学へ入るためにはいい高校だ。

 いい高校へ入るためには、勉学に一層励まなければならない。



 というわけで、僕は塾へ行くことになった。

 中学からもそれなりに近いし、目指す高校への合格者もそれなりに多い。

 みたきちゃんと遊ぶ時間は減ってしまうかもしれないが、一時の辛抱だ。

 そしてとある放課後、今日が塾デビュー。

 中学受験の時は独学でやっていたので、塾通いのマナーもわからぬままに

 授業5分前に教室へ入る。

 教室を見渡すが見知った顔はいない。

 心細さに耐えながら空いている一番前の席に座る。

「えと、今日から塾通うことになったんだ。よろしく」

 二人用の長机なので隣に座っている女の子に挨拶してみるも、

「……」

 スルーされてしまった。

 なんというか、昔の赤石さんを彷彿とさせる女の子だな。

 しかも眼鏡かけてないから、見た目で冷たそうな感じが伝わってくるよ。



 周りを見てみると、喋っている人間は一人もいない。

 皆教科書やノートを広げて予習復習に励んでいるようだ。

 しばらくして講師が入ってきて、最初の授業が始まる。

 流石にいつも中学で習っている勉強とはレベルが違う。

 更に授業中に喋っている人間なんて皆無。学校の勉強とはやはり違う。

 しかしまだ空気に慣れてない僕はどうしても目の前のホワイトボードよりも周りが気になってしまう。

 隣の女の子をチラッと見ると、物凄く授業に集中していた。

 邪魔しちゃ悪いので、僕も頑張って集中しよう。



 最初の授業を終えてトイレに行くと、同じ授業を受けていた男子が話しかけてくる。


「よう、新入りか?」

「うん、よろしく」

「感想はどうだったよ」

「ちょっとギスギスしてたかな」

「はは、だろうな。お前も志望校は本街だろ?」

「うん。よくわかったね」

「そりゃ俺達のクラスは本街の対策クラスだからな。つまり全員ライバルってわけだ」


 なるほど、塾に入るときに志望校を聞かれてこのクラスに割り当てられたが、そういうことか。


「ちなみにこの塾の合格率ってどれくらいなの?」

「確か50%くらいらしいぜ。俺かお前か、どっちか落ちるかな」

「ははは、どっちも受かるように頑張らないとね」


 談笑しながら次の授業のため教室へ入る。


「おう、折角だから隣座ろうぜ。丁度俺の隣用事で帰ったし」

「あー、ごめん、前の方がホワイトボード見やすいし、元のとこに座るよ」

「お前のためを思って誘ってやったのに……お前の隣に座ってたあの女、感じ悪いだろ」

「あはは」


 人のよさそうな彼の誘いを断るのは少し気がひけるが、同じ席に座る。

 実を言うと、なんとなく隣の女の子が気になって仕方がないのだ。


「ねえねえ君、どこの中学出身なの?」

「……」


 僕も随分ナンパ者になったなあとしんみりしながらも、隣の女の子と世間話をしようとするも、

 ノートを見直しているようで全く反応してくれない。

 それにしても良い意味で言えば整った、悪い意味で言えば人間味のない顔立ちだなあと彼女の横顔を眺めながら思っていると、彼女がこちらを向き、


「気が散る。向こうの席行ってよ」

「……」


 心底嫌そうに、僕を睨んで凍りつくような声でそう告げた。


「よし、それじゃあ授業を始めるぞ」


 しかし直後に講師が教室に入ってきて授業が始まる。

 このタイミングでは席は移動できない。

 彼女は忌々しそうにホワイトボードの方を向いた。



 授業のことなんて頭に入らない。

 ただただ気まずい。今まで生きてきてこれほどはっきりと拒絶されたのは多分初めてだ。

 彼の言うとおり彼の隣の席に座っていればよかったなと縮こまりながら授業を受けていると、

 ふと小さな蜘蛛が机に乗っているのを発見。蜘蛛はよちよちと机を移動し、


「……」


 隣の彼女の制服にへばりつく。


「あ」

「……」


 彼女にそれを言った方がいいのだろうか、でも授業中だし、

 話しかけ辛いしどうしようと彼女の制服を歩く蜘蛛を見つめているうちに、授業が終わる。

 基本的に一日に授業は2つで、後は自習室で勉強するなり帰るなりだ。

 教室の皆が帰り支度を始めたり、自習室へ行ったりする中、隣の彼女は立ち上がってまだ座っている僕を見下ろすと、


「さっきから何なの。嫌がらせなの? 人をじろじろ見てさ」


 またも僕に文句を言う。蜘蛛は服から彼女の首のあたりに移動していた。


「いや、その、蜘蛛がね」

「は? 蜘蛛が何か?」

「その、蜘蛛が、君の首に」

「……」


 指摘されて、彼女は顔色を青ざめさせながら首の辺りを触る。

 しかし不幸なことに、触りどころが悪かったようで蜘蛛は彼女の手で潰れてしまった。


「……」


 へしゃげた蜘蛛のついた手を見て、顔から冷や汗を流し始める彼女。


「ベ、ベツニワタシハクモナンテキニシテナイカラ、ソンナコトデイチイチミナイデ」


 僕を向いてそう言うも、強がっているだけなのが丸わかりだ。

 真顔ではあるが顔はぷるぷると震えているし、目の焦点があっていない。

 そして彼女はダッシュで教室を出ていき、すぐ側の女子トイレへ駆けこむ。

 やがて洗面所で水を流す音が聞こえた。


「ははは! あの女に一杯喰わせるとは、お前やるな!」


 笑いながら先程の男が話しかけてくる。


「いや、僕は何もしてないんだけどね」

「謙遜すんなよ兄弟。いやあ、あの女の動揺する顔なんて久々に見たぜ」

「知り合いなの?」

「んあ? まあ、そんなとこだが……っと、そろそろ帰らねーとテレビ始まっちまう、お前どっち方面だ? 俺下りの方なんだけどさ、方向一緒なら途中まで一緒に帰ろうぜ」

「僕も下りだよ。じゃあ一緒に帰ろうか」


 帰り支度をして、男と一緒に教室を出る。


「……」


 すれ違い様、トイレから出てきたさっきの彼女と目が合う。

 物凄く睨まれた。


「あの女はな、俺の幼馴染なんだよ」

「へえ、そうなんだ」


 夕暮れの中、男と共に塾を出て歩き出す。男はため息をついて彼女の話をしだす。


「昔から可愛げはないわ性格は悪いわで友達なんてできたことないんじゃねーの、小学校の頃は家が近いって理由で無理矢理あいつとチーム組まされたりして散々だったぜ。中学は女子校行ったからこれであいつからも解放されると喜んでたらまさか塾で一緒になるなんてな。あーあ、しかも同じ高校目指すのかよ。いやんなるぜ、志望校変えようかな」

「はは、ところで名前は?」

「名前? 郡山氷雨こおりやま・きさめだよ。冷たいあいつにピッタリな名前だろ?」

「いや、君の名前だよ」

「あ、俺か。俺は煉獄燃れんごく・もゆる。あいつと正反対だろ?」

「僕は高下中だよ。これからよろしくね」

「おう、よろしくな。っと、じゃあ俺の家こっちだから、じゃあな」


 煉獄君と別れ、僕も自分の家へ向かう。

 それにしても煉獄君のあの態度、何かひっかかるんだよな。

 漫画か何かで、似たような人間を見た気がするんだ。

 と、ここで携帯電話がメールを報せる。差出人は……



『高下君聞いてよ、彼氏がブラックコーヒーは墨汁みたいなもんだって言うんだよ、あの苦さがたまらないのに……お子ちゃまだと思わない?』


 転校して半年が経っても交友関係があるのはいいことかもしれないが、ノロケメールばっかり出さないでくれよと六月六日さんのメールを見ながらうなだれるのだった。

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