六月六日に成り上がる
「作詞作曲、完成したよ。……流石に作詞は、友達に手伝ってもらったけど」
「流石は赤石さん、どれどれ……」
決戦の日まで3週間。手渡された譜面に目を通しながら、朗読する。
「音痴な声で歌わないで、歌詞が汚れる」
「赤石さん酷くない? でもいい曲だね、なんとなくだけどわかるよ」
「高下君に理解されてもなぁ……それじゃ、私はもう手を貸さないから。精々頑張るんだね」
「とか言いながら練習毎回聞いてくれるでんしょ?」
「君達が文芸部部室の近くで練習してるからでしょ……下手糞なドラム聞かされる身にもなってよ」
「大分マシになったと思うんだけどなぁ……」
練習を始めて1週間。僕の演奏技術もかなりまともになってきたと思うのだが……
「というわけで、めでたく曲が完成しました。はいみたきちゃん、これを先生に弾いてもらって、体で覚えるんだよ」
「うん! わたしがんばる!」
コピーしたそれを、みたきちゃんと六月六日さんに手渡す。みたきちゃんは早速それを弾こうとしている。この1週間で楽譜もある程度読めるようになったのは素晴らしいことだ。
「いよいよ曲か。……私は歌も歌わないといけないんだった、歌いながら弾くのって難しいんだよね、こりゃ本腰入れないと」
六月六日さんは緊張しながら、あーあーと発声練習をしている。
懐かしいなあ、赤石さんとカラオケ行ったこと。
「そうだ、カラオケ行こうよ。歌う練習にさ」
「私としては必死で練習した方がいいと思うけど……まあここんとこ練習ばかりで正直疲れてたからね、いい案かもしれない」
「からおけ! おうた!」
そんなわけで今日は練習をサボってカラオケへ行くことに。
楽器を片づけて、帰りの仕度をして教室を出ると、赤石さんと鉢合わせる。
「赤石さん、これからカラオケ行くんだけど、一緒にどう?」
「誰が行くか」
「つれないねえ、一年前には来てくれたのに」
フン、と鼻を鳴らして文芸部部室へ入って行く赤石さんを見ながら、本当は一緒に行きたかったんじゃないかなあなんて思ってみたり。
「らーらーららららー!」
「ふぅ! ふぅ!」
「じゃましないで」
「!?」
カラオケで、みたきちゃんの歌に合わせてタンバリンで合いの手を入れるも、みたきちゃんに邪魔だと言われてしまう。ひ、酷い……
「高下君合いの手しない方がいいよ、さて、私は何を歌うかな……あ、この曲配信されたんだ」
曲を検索する六月六日さん。見ると、デスナイト佐々木……彼女の好きなバンドの曲が配信されていた。
「前まで配信されてなかったの?」
「うん。マイナーだったからね。……皮肉だね、メジャーになって、にわかファンに弄ばれて、こうして私がカラオケで歌えるようになるんだから」
曲の番号を送信しながら、自嘲気味につぶやく六月六日さん。
「そうだね。メジャーになることは、悪いことじゃないよ。本当に良いものは、いずれメジャーになるんだよ。自分達の応援していたものが、メジャーになるなんて名誉なことじゃないか。僕達も、頑張ってメジャーになろうじゃないか。マイノリティの底力、魅せつけてやろうじゃないか」
「くろまくはきょくちょうだよ!」
「……そうだね。それじゃ、六月六日青光、歌います。曲はデスナイト佐々木で――」
カラオケの部屋の中、彼女の美しい歌声が響き渡る。
そして僕達は毎日のように練習した。
勿論勉強だって疎かにはしない。
僕も六月六日さんも、地の頭はいいんだ。
授業を真面目に聞いていれば、大してテスト勉強をしなくたって、それなりの点はとれる。
「よし、全教科及第点だ」
「私もだよ。赤点取らなくて本当に良かった」
テストを終え、返却日にテスト用紙を見てお互い胸をなで下ろす。
「すまねえよっちー、赤点取ったから漫才参加できねえよぉ」
「アホかお前は!」
「アホです」
「もうええわ、お前とはコンビ解消やわ、こちらの優等生と組ませてもらいます」
「えっ僕?」
バンドをすると決めた時は知らなかったが、即席でコンビ解消して再結成したあちらのグループのようにテストで赤点を取ると出しものには参加できないらしい。
まあ、学外の人間を連れてこようとしている僕達は、赤点取って参加取り消しになっても飛び入りで参加するつもりだったが。
「さて、これで勉強の心配は無くなった。残り少ないけれど、全力でやるか」
「そうだね。高下君も大分マシになってきたし、君の彼女も問題なさそうだ。すごいね、あの子は」
「すごいでしょ」
教室で六月六日さんと話していると、クラスの女子がこちらを見ながらため息をつく。
「ねえねえ最近六月六日さん声でかくない?」
「わかるー、マジうっさいわ」
「隅っこで高下君と大人しくしてろって感じ?」
本人に聞こえるように悪口を言うクラスメイトにムッとしながらも、心を落ち着かせる。
「言ってくれるね。あいつらの態度、変えてやろう」
「そうだね。手のひらくるくるさせてやろう。私達が、デスナイト佐々木になるんだ」
女子の挑発なんてスルーして、練習のために空き教室へ。
初めは不機嫌そうだった六月六日さんの顔も、今ではすっかりと活き活きしていた。
そして決戦の日。
講堂檀上の裏側で、手に人の字を書いて飲みながらスタンバイする僕達。
「続いてはエントリーナンバー9番、スリーピースバンドの『エターナルアタック』です!」
檀上の司会者が、僕達を呼ぶ。
「行こう、六月六日さん、みたきちゃん」
「うん」
「おっけー!」
楽器を持って、壇上に躍り出る。
「うわ、見てよあれ、六月六日さんじゃん」
「どうせ変なことして場を白けさせるだけでしょ」
僕達を嘲笑うクラスの女子。
「つうか誰だ? あのキーボードの子」
「結構可愛いよな」
学籍を偽造して参加させたみたきちゃんに反応する男子。可愛いだろう、あげないよ。
「ワン、ツー、ワン、ツー、スリー」
ギャラリーの多さに緊張して吐きそうになるも、何とかこらえて二人に目配せをして、スティックを叩く。
『成り上がれ、マイノリティー!』
六月六日さんのシャウトを皮切りに、僕達は練習の成果を見せつける。
大分マシになったリズム感で、ドラムを叩き続ける僕。
指の動きをマスターして楽譜通りに鍵盤を押していくみたきちゃん。
そしてギターを弾きながらシャウトする六月六日さん。
今ここに、エターナルアタックの攻撃が始まった。
:成り上がれマイノリティー:
作詞作曲 レッドストーンKYOKO
『成り上がれマイノリティー 認めさせろ我が想い
奉れマイソウル そして届け生きた証
ミーハーなファン達に別れを告げて
拒絶することが 正しいのかな
にわかでもにかわでもどっちでもいいけど
それでファンを辞めるって どうなんだろね
わからない わからない
自問自答する日々
そんなとき そんなとき
出会ったのが君でした
マイノリティーがメジャーになって
ミーハー増えても構わない
その中で本当のファン探そうよ
君と一緒に!
勝ち取るんだマイノリティー 進化しろマジョリティ
進むんだマイボディ トップ目指してゴーアヘッド!
周りの人はガキだと思って
閉じこもるのは いいことですか?
センスで人を判断するのって
正直センスが ないことだよね
わからない わからない
自問自答する日々
そんなとき そんなとき
笑ったのが君でした
個性はいろいろ十人十色
とやかくなんて言いません
だから私の個性も認めて
君にお願い!
歌え叫べマイノリティー 喉が枯れてもシンガソン
合いの手入れてマイダーリン そしてムードがラブロマンス
成り上がれマイノリティー 認めさせろ我が想い
奉れマイソウル そして届け生きた証
成り上がれマイノリティー 認めさせろ我が想い
奉れマイソウル そして届け生きた証
そして届け生きた証
君に届けこの想い!』
「……はぁ、はぁ……」
演奏を終えた瞬間、へたりこむ六月六日さん。
そりゃそうだ、あれだけシャウトしておまけにギター弾きながらアドリブで踊ってパフォーマンスしてたんだもの。
僕も全力で叩いたから汗だくだし、みたきちゃんもお疲れ様。
そんな僕達へのご褒美は、
「うおおおおおおおおおおお!」
「よかったぞー!」
「アンコール! アンコール!」
講堂に響く、割れんばかりの拍手と称賛の嵐だった。
成り上がったのだ、マイノリティーは。
作者がバンドやってた時に作った曲とは関係ないんだからね!




