1. 神様のクシャミで爆散した
「いらっしゃい」
客に指刺されたバゲットの値段を口にし、硬貨を受け取る。
指定の品物を渡してから次の客の対応へ移った。
朝靄の中、パンを売り始めてかれこれ5日。
ゴザを敷き、竹のテーブルの上には、手製のカゴに入れられたパン。
1番人気の柔らかな食パンはすでに売り切れ、──残すはバゲットが数本。
それも、今現在、並んでいる客をさばけば売り切れるだろう。
手元では竹カゴを編みつつ、硬貨が乗せられた金額を確認し、指定されたバゲットを風魔法でふよふよと漂わせる。
客が受け取ってから硬貨を自分の方へ引き寄せた。
何もなくなったテーブルの上へ、「本日売り切れ」の立て札を出す。
黙々と竹カゴを編んでいると、太陽がまぶしくなりはじめる。
隣りのスペースに台車が停まった。
「なんでぇ、今日はもう売り切れかいな。水売りは?」
「おかげさまで。水ならあるが……う、うむ。氷もオマケしておこう。今日は暑くなりそうだ」
「お〜ありがとぉな。ほれ、鉄貨2枚」
「いや、金はいい。それよりまた寝ててもいいだろうか?」
グイッと差し出された水筒を隣の露天売りから受け取り、クリーンの魔法と共に氷水を生成する。
手渡した相手は豪快に笑って承諾してくれた。密かにホッと安堵の息を吐く。
今し方作り終わった大きな竹カゴへ、出していた荷物を全て仕舞う。
使っていたゴザを露天売りの後ろの方へ回し、まとめた荷物ごと世話になる。
「美形は大変だぁ〜」
「変質者より物取りが怖い」
「いや、その顔なら売り飛ばされちまうぞ」
「はぁー…………それは……確かに困るな」
頼むから売るなよと軽口を叩いてから、パン売りのアザミは瞼を閉じる。
睡魔と共にこれからをアザミは考える。
異世界に飛ばされてからは1週間。
金はある程度貯まった。
しかし、寝床がだいぶ不安ではある。
地に足つかないこの生活を、何とかしないといけない。
微睡の中で、アザミは、次に目覚めたら何をすべきかの候補をしぼり、束の間の休息に身を任せた。
元々、魔法研究者として生計をたてていた男が、なぜこんなことになったのか。
────ことの発端は、ある神様のうっかりから始まった。
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異世界にブッ飛ばされた
魔法使いが
モーニングカフェ「アザミ亭」
をはじめるまで
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「爆散? したのですか????」
『そうなのだ。すまんなのだ。』
「私の魔法理論に間違いが────」
『違うのだーっ!!!!(泣)』
森にある湖手前の開けた場所。私の声をさえぎるよう、金色の古代文字が空中へ浮かび上がる。
なんでも、私の実験をのぞきみていた神様が、誤ってクシャミを一発かましたら、木っ端微塵になったんだとか。
自身の崇める神様曰く、自分の元の肉体はすでに骨すら残らず消え失せてしまったと。
勢い余って魂と記憶だけコチラの異世界に飛ばされた現在。混乱している思考を置き去りに、何とか金の文字を読み解く。
奇跡的にココに着地しただけで、同じことをしても再現性はなく、場所が遠すぎて故郷へは戻せないと謝罪された。
急ぎでこさえた依代──神の創りしカラダはこの異世界に適応している。らしい。
濃い赤紫のサラサラとした長い髪。切れ長の目は琥珀色。うすい褐色の肌。見慣れたスッとした鼻筋。薄い唇。大体は一緒か? おそらく。
疲れた顔をした少々痩せ型の男。
水面にうつる姿は確かに自分だ。
魔塔所属を表す、深緑のローブまで再現されていた。
ただ、ポーチは腰にあるが、マジックバッグであったはずなのに、ただの袋に成り下がっていた。
ピアス、腕輪や指輪など、魔道具の類が一切ない。魔石製品がないのはものすごく落ち着かない。
私は手をかざした── 素手だ。ああ、結界の魔術式を編み込んだはずの、黒竜の翼で作ったグローブがない。
かざした手から、水、火、風、土、と基本的な原始魔法を繰り出す。
お次はフワッと全身を清浄な風で綺麗にしてみる。クリーン魔法は──少々不安定だが、複合魔法もOK。
植物に向けての鑑定は一応機能はしている。
翻訳魔法、────言葉は相手がいなければ、わからん。
それならばと試してみたが、簡単な術式ですら発動しない。なるほど。だから魔術式で発動するような、魔道具類が排除されたのか。
『アザミ、えっと、もしも〜し。何をしてるのだ?』
「我が神よ。召喚魔法や魔術式はダメですが、この世界は魔法が使えるのですね」
『さ、察しが良すぎるのだ。そうなのだ。』
「翻訳魔法は使えるのですか?」
『それは……ゴニョゴニョ…………ハッ! そうだ、我が加護を与えるのだ。「げんごちーと」をつけてやるのだ。ていっ!』
「おお。ありがたき幸せ。──神のご慈悲に感謝します」
膝を折って祈りを捧げる私の身体に、金の粉が降りかかる。直接の加護など、神殿の偉い方でもそう受けられるものではない。
消え失せた元の生活とカラダは仕方ない。
神様だって間違いはおかす。
不幸中の幸いは家族がいなかったこと。自分がひとり世界からいなくなったとて、困るような国には住んでいなかったのもある。研究の引き継ぎを弟子達に任せれば、アチラは何とでもなるだろう。
そこら辺は神殿経由で、神様側から信託を出してくださるとのことで、あまり心配はしていない。
友との今生の別れは寂しいが、遠くで元気にやっているくらいの心持ちで、これからはお互い暮らしていくしかない。
翻訳魔法は神の加護付き。
生活に必要な魔法は大体使える。
魔法使いの自分なら、コチラの世界でも何とかなりそうではある。
『──それじゃ、達者で暮らすのだ!』
「はい。世界は違えど、我が神の健やかなる日々を、これからもお祈りしております」
いくつか神様の説明を受けてから、別れを告げ、ポツンと湖のフチに取り残された。
風が通った先で、夕陽に染まりはじめた水面が揺れるさまに、束の間見入る。
「こんな大自然を堪能するのは、果たしていつぶりだろうか。スー、ハァ……。それにしてもこの森は魔素が濃いな。素晴らしい」
故郷と違い、凶悪な魔物はいない。ダンジョンもない。冒険者ギルドもない。
異界から召喚された勇者や聖女のような使命も、自分にはない。
魔道具類はないが、大体は似たような文明だという、異世界「すろーらいふぷらんK地区」。
まずは人と出会うため、私は神様に示された光る道を頼りに、最初の一歩を踏み出してみた。
細かいところ気になる方用①-通貨目安-
お金は1 → 1エィ単位
〈硬貨1枚分のエィ換算〉
穴銅貨5
銅貨10
穴鉄貨50
鉄貨100
穴銀貨500
銀貨1000
穴白貨5000
白貨1万
小金貨5万
金貨10万
エメラルド特殊金貨100万〜
ルビー特殊金貨1000万〜
※金貨に埋め込まれた宝石の数により、値段が違う。見栄えのロマン硬貨。
一応、硬貨の設定はあるんですけど、本文上での説明は省きます。神様からの説明があったと思ってください。
次話以降は金額「エィ」の方で表記。
何が何枚とか書くのもチェックも大変で、間違える気しかしないので!(byズボラ作者)




