第1章 第19話 契約
「さ~入って入って~」
「おじゃまします!」
「おじゃまします……」
つい数時間前にも訪れたA組棟の一室に俺と龍華は訪れていた。
「さっすが永夢が見込んだ男だよ~。こ~んなに早く最適解の一つに辿り着くなんてね~。しかも五千万ポイント! 予想外に予想外を重ねられたよ~。さすがの生徒会でも5000万はギリギリ! いや~きっついな~」
相手はもちろん永夢楠さん。とっても楽しそうにニコニコしてコーヒーを飲んでいる。だがその顔に、出会った当初の鋭さが戻った。
「で、そっちの子は?」
その目線の先には、緊張した面持ちで構えている龍華がいた。
「俺の代打の……」
「代理人の翠川龍華です。先程は用意していただいたお茶も飲めずに申し訳ありませんでした。そしてこれからは外村蓮司の意思表示をわたしが代理いたします」
うーん、よくわからない言葉。龍華に言われるがままにそう決めたが、これが永夢さんにどう映るか……。
「その代理人と言うのは、法律的な意味で捉えていい?」
「いえ、単純に蓮司くんに話をする時はわたしを通してほしいということです」
「オッケーそれが正解。もし今のに頷いてたら色々悪いことできちゃうところだった。あぶなかったね~」
本当になんだかわからないけど、好感触っぽい?
「でも残念だな~。これじゃあ蓮司くんの突飛な発想が見れないよ。貸すのやめちゃおっかな~」
「……それならそれで構いません。他の方のところに行くまでです」
「それで交渉権を得たつもり? 甘いよ」
いやだめっぽい! なんか知らないけどバチバチしてる!
「それじゃあさっそく契約といこうか。はい契約書。作ってきたんだよね~」
そうだ、わざわざ長時間自転車を漕いでここに来たのはそんな理由だった。
「……交渉が先では?」
「この条件以外で呑むつもりはないよ。嫌なら他の方のところに行っては?」
「…………」
龍華が冷や汗を流しながら契約書を受け取る。俺も見てみるが……全然わからん。
「龍華……」
「要約するとね、
1.蓮司くんが生徒会選挙に永夢さん推薦枠として出ること。
2.契約締結後即5000万ポイントを貸し出す。
3.イベント終了後1日以内に5000万ポイントを返済すること。
4.返済不能になった場合、永夢さんに服従する。
ってことみたい」
なるほど……返せなくなった場合奴隷か……。でも利息0で金貸してもらえる……。
「いいじゃん! さっそくサインを……」
「馬鹿っ! だめに決まってるでしょっ!?」
ウキウキでサインをしようとしたところ、龍華に割と思いっきり手を叩かれてしまった。
「なんでっ!? 別に使い込んだりしないって! そっくりそのまま返せばいいんだろ?」
「問題はそこじゃない! 即ポイントを貸し出す、っていうのがまずいのっ!」
何がまずいんだろう。そっちの方がありがたい気がするけど。
「もし凧さんがいきなり5000万ポイントをゲットしたとしたらどう思う?」
「うらやましーなーって思う」
「そう。どうやって手に入れたのか聞くでしょ?」
「そんなこと言ってないが?」
「そこで先輩から借りたーって言ったとしようか。そうなったら間違いなく荒れるよね」
「まぁみんなポイントはほしいはずだよ」
「そうなったらまずいの。5000万ポイントっていうのは、いきなりA組に上がれる額でしょ?」
「だから5000万借りることにしたからな」
「でもここで蓮司くんが5000万ポイントを手にしたとしたら、ラインは5100万ポイントになる。そしてできあがるのは、ポイントを増やす方法を知った上のクラスたち。何としてでも上にあがりたい人たちは、さらに多額のポイントを借りて順位を上げる。そうなると今まで5000万で1位になれたはずなのに、気づいたら5000万では足りなくなってくる。物の価値の上昇。つまりはインフレだよ。たぶん収入が増えることのない学校でのね」
「ひとっつもわかんねぇな」
「物価の上昇……いや。こうなるとインフレとは別の問題が大きいかな。先輩から借金ができなかった人は、学校を通した借金をするしかなくなる。そうなると1月1割の利率。つまりは返済ができなくなる。下手したら1年生全体が借金まみれだよ。それは治安の悪化に直結し、テント生活のわたしたちはダイレクトに被害を受ける。寝込みを襲われポイントの奪取なんかも考えられるよね。だから物とお金の価値はそう簡単に変えるわけにはいかないんだよ」
「ひとっつもわかんねぇなぁっ!」
「……どんでん返しは終盤に起こるからかっこいいよね?」
「なるほどわかった!」
ようするに、だ。
「あんたは悪事を企んでるっ!」
「そうだよ?」
龍華の推理によって導き出された仮説は、あまりにも素直に認められた。
「あのさ~……こっちだって慈善事業じゃないんだよ。それなりのメリットがないとさ。前に賭場を営んでるって言ったでしょ~? お金がなくなれば人はギャンブルに走る。つまり蓮司くんにお金を貸すと、回り回って永夢が儲かるんだよ~」
「でも生徒会って……あれでしょ? 学校を良くする的な……」
「その通り。頭が全ての学校で、頭を求める機会を与える。これ以上ないくらいの生徒会活動だよ~」
「でも馬鹿な人は……」
「桂来学園では生きられない。ちょっと今さらすぎないかな~?」
「…………」
ようやくわかってきた。桂来学園での生き方が。それならそれでいいや。
「つまりあんたが落ちぶれようが、守ってくれるものはないってことだよな」
「そうだけど~ふふ。もしかして永夢に一矢報いれるとか思っちゃったりしてない~?」
「龍華、翻訳」
「勝てるもんなら勝ってみろこの馬鹿って意味」
「くそがっ! 馬鹿にしやがってっ!」
「えぇ……」
なぜか永夢さんが引いた顔をしているが、とにかく。
「この契約を受けよう。その時点で俺たちの勝ちだ」
俺は既に、勝ち方をわかっている。




