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第1章 第18話 告白

「……っていうのは冗談だ」

「冗談には聞こえなかったけど……」



 突然腕を胸に引き寄せられての告白。並の男ならその魅力的な感触に心を囚われてしまうが、俺はそう甘くない。



「父さんが言ってたんだ。男が胸を触る時は、故意か恋だけだってな」

「えーと……なにを言ってるのかな? わたしは蓮司くんに、恋、してるんだよ……?」



 ふふふ……甘いな龍華。俺は馬鹿だが馬鹿じゃないんだ。



「そんなことで彼女ができるなら、俺はとっくにモテモテだっ!」



 顔も名前も知らずに優しくしてくれたのが初めて? 当たり前だ。そんな状況そうそうないんだから。



「というわけでお前は俺に嘘をついているっ! いやさては偽物だなっ!? 本物の龍華を返せっ!」



どうやら桂来学園にいる内に頭がよくなってしまったようだ。まだ1日しか経ってないけど。



「……はぁ。やっぱり嘘苦手だ……」



 俺に正体を暴かれたからか、龍華の偽物が大きくため息をついて腕を放した。



「……ねぇ、なんでまだ胸に腕押し付けてるの?」

「いや幸せだったから……」



 くそ、だめだったか……。もう少し言うの後でよかったかもしれない……。



「まぁいいや! 本体は男かもしれないし! いいから正体を現せっ! 全部嘘だったんだろっ!?」

「全部、じゃないよ。助けてくれてうれしかったのは事実だし、告白されたら……本当に付き合っても、よかったかもしれない」


「うるせぇ偽物っ!」

「……それと。現実に変装とかありえないからね?」



 そうなのか……? え、いやだったら……!



「俺と付き合ってくださいっ!」

「ごめんそういう打算的なの無理……」

「くそがっ!」



 じゃあなんで一度夢見させたんだよ……。こっちだって本気じゃなかったけどさ……。



「で? 俺をいじりたかっただけ?」

「ううん。……今から言うことは全部真実。それだけは、信用して?」



 つまり……ここからが本題……ってことか。



「斬華のこと、どう思う?」



 いや違うっぽいな……。何がしたいんだ……?



「別に……合わないなーとは思うけど。ほら、委員長タイプ? はどうもな……。友だちだけど」

「ふーん。わたしは嫌い。とってもね」



 その答えはとてもシンプルで、とても衝撃的なもの……ってわけでもないか。姉妹で仲がよくないなんてよく聞く話だ。それに、そんな気もしてた。



「双子だよ? 姉妹の序列なんて本来ないはずなんだよ。それなのに姉だからってえらそうで……! なんでわたしまで入試で0点とらされなきゃいけないの。絶対あれだよ、わたしの方が頭いいのわかってるから負けるのが嫌でこんなことしたんだ。ほんと嫌……。わたしのやることなすこと全部文句つけてくる……!」



 小声でぶつぶつと呪いの言葉を漏らす龍華。



「ノブレス・オブリージュなんてだいっきらい。わたしはみんなじゃなくて、わたしの大事な人だけ守れればそれでいい」

「ごめん、話が見えてこないんだけど」



 別に愚痴を聞くくらい構わないが、たぶん龍華はそういうことを言いたかったんじゃないと思う。



「ごめん……一人で盛り上がっちゃった」

「いいよ、後で聞く。それで?」

「少なくとも現時点で。わたしの大事な人は、蓮司くんだけって話」



 ……? それって……。



「告白?」

「違うよ? まだ入学したばっかで蓮司くんしか友だちいないよーって話。入学した直後にできた友だちとは長続きしないってよく言うよね」


「悪いけど俺に常識は通じない。知らないからな」

「説得力あるね。悪い意味で」



 ははは、と短く笑うと、龍華は顔を下に向け、つぶやくように言う。



「……わたしは、斬華に勝ちたい。わたしの方が上だってわからせたい。そのためには手札がほしいの。他の人にはない、わたしだけの手札が」

「……それが俺って話か?」


「うん。付き合ったら蓮司くんのその常識外れな発想が、わたしだけのものになるって思った。……ごめんね、騙すようなことして」

「いいよ別に……買い被りすぎだと思うし」



 俺は別にすごくない。ただみんなが思わず考えてしまうところで何も考えられないだけだ。普通に欠点じゃん。



「謝りついでにお願いさせて」



 龍華は再び俺の腕をとり、今度は。俺の手をやわらかな指で包み込んだ。



「わたしはあなたを独占したい。それが叶うなら付き合ってもいい。だから……お願い。わたしに力を貸して。代わりに蓮司くんだけは、必ずわたしが守るから」



 そう口にした龍華の瞳には、先ほどの迷いの色がない。正真正銘ただの本音だと、その全身が証明している。だがな、



「ごめん嫌だ! それ絶対付き合えないパターンじゃんっ!」



 そんな嫌々告白されたら誰だって断れないし、付き合わなくていいから力貸すよってなる流れになってしまう。



「あぁ……そだね、ごめん。そこまで考えてなかった」

「それにだ。龍華だけのためなんてたぶん俺にはできない。龍華も斬華も同じ大切な友だちだから」



 そう。全部龍華のためなんてのは無理な話。でも。



「今俺の近くにいるのは龍華だけで、俺は今。このイベントの必勝法に気づいている」

「必勝法……!?」



 龍華の瞳に期待の光が灯る。そんなにすごいことでもないんだけどな……。



「たぶんこれは誰でもすぐに気づけるものだ。ただ実行できないだけで……いや。だからこその生徒会全員集合だったのかもな」



 苦手な説明をしながらスマホを操作し、この学校の全ての人の連絡先が載っているアプリを開く。



「今からやることは俺1人じゃできないことだ。だから俺を助けてくれ。それでいいだろ?」



 龍華にこの発想はできないかもしれない。だが俺にできないことは龍華がやってくれる。結局だいたいのことはそんなもんだ。



 俺はアプリの中から1人の先輩の連絡先をタッチし、電話をかけてこうお願いした。



「永夢さん、5000万ポイント貸してくださいっ!」

「いいよ~」



 これがクラス替えゲームの必勝法。先輩からポイントを借りるだ。

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