1話 記憶が飛ぶ?
どうぞよろしくお願いします。
──俺は今、見慣れた天井を見上げ倒れている。
おそらく、剣道場だろう。しかし、俺は今かなり困惑している。
『タイシ!タイシ!大丈夫か!?』
名前を呼んでいるのは、男子剣道部主将の藤田孝也である。全国大会ベスト8で学力でもかなり高いレベルにあるらしい。正直羨ましい先輩である。
そんな鋭い目をした、憧れのムキムキボディーが俺の名前を呼んでいる。
大丈夫と言いかけたが、なぜか全身が痛い。
以前、藤田先輩からレインメーカーという名の普通のラリアットを受けたことがあった。それと同等以上の痛みである。
『いえ、大丈夫じゃないかもしれないです。助けて下さい、藤田先輩。』
『それは大変だ!保健室連れていくぞ!
さあ、俺の背中に!』
なぜか、アズマが割り込んで言ってきた。
『やっぱり大丈夫だ。』
食い気味で返す。
状況を見た感じ。多分、というか十中八九あそこに立っている憎き女子剣道部主将にボコボコにされたと思う。いたいけな少年を平気で殴る、オオサトハズキと名乗る猛獣に。
『軟弱ものが。』
猛獣はそう言い残して、そのまま女子剣道部の方に向かって行った。
大里葉月は見た目は普通の高校生なのだがとてつもないパワーを秘めている。こっちが竹刀を持っていても素手で平気で倒される。あれにはいつかリベンジを果たしたい。そう思っている日々である。
そんなことよりも、
『なんで俺は道場に?』
記憶ではまだ、HRの途中だった筈だ。
『なんでって… 普通に部活やるためだろ。大里に斬られて記憶でもなくなったのか?』
藤田先輩は困り顔で言った。
『俺の記憶ではHR中に女の子から告白されて返事を返す所だったんですが。』
『それは夢だ。問題ない。』
藤田先輩がハッキリと答えた。
さすが剣道全国大会ベスト8。人の心までバッサリと切れるのね。
確かに圧倒的非モテだけど傷付く。
『部活の間、俺普通に動いてましたか?』
『ああ、動いてたぞ。ちょっと変な動きだが。』
おかしい、まただ。
10年以上前に意識が無くなるといことがたくさんあったが、小学校に上がる頃にはその症状は無くなっていた。
しかしここ最近、意識が無くなっている中で行動していることが多い。放課後から記憶が飛び、気づいたら朝なんてこともザラだ。
と頭で考えていると、藤田先輩に問われた。
『帰るか?最近サボり気味で体調の方も悪そうだし。』
部活サボってたっけ俺。藤田先輩と戦ってたっけ俺。全く覚えていない。それ以上に体が痛い。
『今日は、帰って休みます…。』
まだ現代です。
次か、次の次には異世界に行くと思います。