9話 新たな不安と奴隷商
ーーーSIDE 王城ーーー
コンコン。
「何だ?」
「例の依頼の男が戻りました。」ドア越しに報告する。
「入らせろ。」
ガチャ、扉を開いて盗賊のリーダーの男が入ってくる。
「依頼が完了したんで、報告に参りました。」軽い口調で言う。
王は書類に目を通すのをやめ、リーダーの男の目を見る。
「確実に殺したんだな?」
「えぇ、間違いなく殺しましたよ。」そう言って、持ってた袋から焼けただれた頭を取り出し、王に渡す。
王は頭を受け取ると、全体を確認し、耳についてるピアスを見て納得したのか、リーダーの男に声をかける。
「確かにあやつの頭だな。しかし、炎斧を使うほど手こずったのか?」王は少し意外そうに聞いてくる。
「まぁ、腐っても召喚された奴ですしね。何やら武術もやってたみたいで。面倒なんで全力でやりました。」頭をポリポリ掻きながら言う。
「まぁ、よい。これで憂は1つ消えた。分かってると思うが、他言無用だぞ。」威圧感たっぷりに言う。
「もちろん、まだ死にたくないんで。関係ないんですが、城の女が随分変わりましたね?」圧に耐えるのがキツイので、別の話題に変える。
「分かればよい。前の女共は使い物にならなくなったのでな、全部売って、新しいのと変えたのだ。」これが当たり前のように王が答える。
うわぁー、エゲツない使い方したんだろうな。この城の奴らはちょっとイかれてるしな、俺も気をつけないと、すぐ殺されちまうな。リーダーの男は内心でヒヤヒヤしながら思う。
全くエリスの奴も無理を言ってくれる。死体を誤魔化す方の身にもなって欲しいもんだ。まっ、逆らった所で死ぬからあの場所での選択権は無かったんだけどな。そう思っていると、また扉をノックする音が聞こえる。
今度は何だ?王も少しウンザリしながら答える。
しかしこの来客は特別な物だったらしく、その人物が入ってくるなり上機嫌になった。
「久しぶりだなぁ。リューネ王。」王にタメ語で話すこの男を見て、リーダーの男の背筋が凍る。
それに気づいたのか、黒い鎧に身を包んだ白髪混じりの男性が声をかけてくる。
「んっ?お前キールの坊主か?久しぶりだな。王と仕事してるなんて偉くなったもんだ。」懐かしい顔にあって嬉しかったのか、無邪気に聞いてくる。
「お久しぶりです。ギルバートさん。小さい仕事ですが頂いてます。」
リーダーの男が今までに無いくらい畏まって答える。
それを聞いて、そんなに畏まらなくていいと、キールの肩を叩きながら言う。
「久しぶりだな、ギルバートよ。ずっと待っておったぞ、あの時の誓い果たしてもらうぞ。」王は目に力を込め、ギルバートを見る。
「分かってるよ、今回は最後まであんたに協力するさ、その為に来たんだからな。」ギルバートは悲しさを抑えこみ、王を見返す。
なにこれ?どうゆう事なの?何でこの男がここに来たの?突然の来客に驚き、怯えながらも1つの答えに辿り着く。まさか……。
「四滅を殺しに来たんですか?」
キールは意を決して聞いてみた。
「ちげぇーよ。あいつらは何もしなきゃ手を出してこないしな。今ん所は害はない。」
違うのか、なら尚更分からない。この世界で最強の男がなぜ王と手を組むのか。
「お前には関係ない。報酬を受け取って帰れ。」
考えていると王から声がかかる。
確かに深入りしても身を滅ぼすだけだ、キールは王とギルバートに挨拶をして、部屋から立ち去る。最後にもう一度釘を刺されながら。
「ここで聞いた事は他言無用だぞ。ギルバートが居る事もな。」
キールは頷く。
部屋を出た後、残りの報酬を貰い、城を後にする。門まで行くと2人の男が声をかけてくる。
「兄貴どうでした?がっぽりでしたか?」
見知った2人を見て落ち着いたキールは笑顔で言う。
「おー、がっぽりだったぜ、帰って祝杯をあげよーや!!」
2人の男は大きく返事をする。
ーーーSIDE 北の小国ーーー
泣き疲れて寝てしまった俺は、数時間後に目を覚ます。
目が覚めて辺りを見渡すとルーンがコクン、コクンと首を上下に振っていた。
「あの、ルーン。」
俺が声をかけるとビクっとして、目を覚ます。
「ぜっ、全然寝てないですからね。ちゃんと起きてましたから。」
苦しい言い訳だと思いつつ、笑うのを堪えながら大丈夫ですよと言った。
「起きたら呼ぶように言われているので、エリスさんを呼んできますね。」
そう言ってルーンは部屋を出ている行った。
正直に言えば、会うのは恥ずかしい。自分の感情をさらけ出して挙句泣いてしまったのだから。そんな事を思ってるとドアが開いてエリスが入ってくる。
「とりあえず出掛けるから3分で着替えろ。着替え終わったら下にこい。」
俺の気恥ずかしさ返せ!そう思ってしまうほどにサッパリしていた。
「3分は無理です、片腕だけで着替えるの慣れてないんで。」ちょっと悔しかったから反抗する。しかしこれがダメだった。
「確かにそうだな。なら私が着替えさせてやる。」そう言ってエリスは俺の服を破く勢いで脱がせ、あっという間にパンツ一丁にさせ、強引に服を着せる。
俺は乙女の純情を奪われたのだ!!
もう一つ問題があった。俺は3日寝てたらしく、上手く歩けなかった。それを伝えるとお姫様抱っこで下まで運ばれた。
ここに来てからの俺は完全にヒロインポジションにいるのだ!
それもこれも凛々しすぎるエリスが悪い!
下の階に行くとルーンが待っており、少し顔を赤らめてこっちを見てくる。
「まだ夜には早いですよ。程々にして下さいね。」
なんて言葉も付いて来た。
「あのー、エリスさん、このまま出掛けるんですか?」流石に無いと思いながらも聞いてみた。
「当たり前だろ?」何言ってんの?って感じで聞いてくる。
「自分で歩けるんで下ろして下さい。」このまま外に出るくらいなら、根性で歩く。そう伝えると下ろしてくれた。
「それで、何処に行くんですか?」ソファーに下ろしてくれたので、そのまま聞いてみた。
「色々買い物だ。お前のパートナーとかな。あとルーンと同じような話し方でいいぞ。」
パートナーって?武器の事かな?
エリスからお許しも出たのでタメ語で話す。
「じゃ、普通に話すわ。これからよろしく、エリス、ルーン。」
改めて言う。2人も頷いてくれる。
歩くのにも慣れたので、出掛けるタメに外に出る。
ドアを開けると、大きな庭になっていた。
てっきり宿屋に居ると思っていたが、普通に一軒家で驚いた。
森の中に大きな公園があるような場所で、一番端に家があり、大きい庭を挟んで林道がある。
こんだけデカイ庭があれば何でも出来るなーと思いつつ、林道に向かって歩いて行く。
林道を抜けると街に繋がっていて、抜けた先は住宅地らしい。住宅地を少し歩くと大きい道にでて、右に行くと、門や転移石、ギルドや武器屋などがあるらしい。
転移石はそのままの意味で、この石を使うとワープ出来るらしい。ただし、大きい街や、それこそ王城などは専門の番兵が居て、許可がないとダメらしい。ワープ自体は出来るがその先の番兵に捕まるのがオチだとか。
左に行くと、宿屋や飯屋、雑貨屋など多様な店が多いらしい。あと、この国の城も左に行く道にある。
「どっちに行くの?」俺はエリスに尋ねる。
「とりあえず左だな。付いて来い。」
エリスはそう言うと左に歩いて行き、少し行った所の大きい建物の中に入って行く。
看板などは出てなかったので、何の店か分からなかったが、付いて行く。
「いっらっしゃいませ。おやおや、こちらに戻られてたんですね。」
顔見知りらしく、エリスに親しげに話している。
「あぁ、ちょっと前にな。良いのは入ってるか?」
魚でも買うんだろうか?
でもこの男性が魚を売ってるとは思えない。
タキシード姿に白い仮面を被ってるからだ。しかも仮面には天秤が描かれている。
ってかこの世界仮面率たかいよなwシャイな人が多いの?ルーンを見ながら考えていると、何かを感じ取ったのか言ってくる。
「別に趣味で仮面被ってる訳ではないですからね。」
確信する。ルーンはエスパーだと。
アホなやり取りをしてると、エリスから声がかかる。
「こいつは奴隷商のテンビンだ。好きなの買ってやるから選べ。」
2つの意味で衝撃だった。顔に名前が書いてある奴隷商にも、その奴隷商から奴隷を買うことも。
「なんで奴隷買うの?」テンビンの方はスルーして聞く。
「ギルドの仕事は1人じゃ大変だからな。それにお前は適当にパーティ組んで仕事すんのも無理だろ?だから、奴隷だ!」
ドヤ顔で言ってるよこの人。
「ギルド入るのも初耳なんだけど?それにエリスとルーンが居るじゃん。」
そもそもこの2人が居れば負ける事はないと思うし。
「見捨てないとは言ったけどな、ずっと一緒に居てやる事も出来ないんだよ。私達もやるべき事があるし。」エリスはちょっと申し訳なさそうに続ける。
「だから絶対に裏切らない仲間を与える。お前なら奴隷だからって酷い事しないだろ?
ギルドに入るのは金の為だ。稼がなきゃダメなのは何処も一緒だろ?」
確かにその通りだな。エリスもルーンも強いから、仕事は多いのだろう。それに知らない人とのパーティなんて絶対無理だしな。
一度信じるって決めたんだし、従う事にしよう。
「ずっと一緒じゃないのは寂しいけど、分かったよ。最高のパートナー探すよ。」
エリスとルーンが頷く。
「それではこちらへどうぞ。」
テンビンがそう言って部屋の奥へ案内してくれる。
驚いた事に奴隷達はみんな綺麗で、ちゃんとした身なりをしていた。
エリス曰く、テンビンが売る奴隷は一級品で、買った人からの評価も高いのだと。しかし誰でも買える訳ではなく、正しく天秤にかけられる。名前と仮面と理念が一致した完璧な奴隷商らしいw
そんな事に感心しながらも奴隷達を見て行く。そして一際目を惹く奴隷を見つける。
身長190cmほどの筋骨隆々なまるでゴリラの様な奴隷を。
「お目が高いですね。そちらゴリラの亜人でして、戦闘に関して言えばピカイチですよ。」
まんまやないけ。確かにゴリラの耳見たいのが付いてるけど、さすがにゴリラと四六時中一緒に居るのは辛いので、スルーする。
エリスとルーンは目を輝かせながら見ていたが。
一通り回って端まで行くと、扉があったので、開けて中に入ってみる。
「あっ、そちらは。」テンビンから焦った声が聞こえる。
中に入るとどこかで見たような顔まで隠れたローブを着ている人が座っている。
ローブの人も気づいたのかこっちを見て目が合う。
「どしました?大丈夫ですか?」
追いついたエリスとルーンが声をかける。
だが俺には声は届いてなかった。
胸が締め付けられる。
ローブの人は俺のせいで酷い目にあった、王城に居た女性だった。
明日は投稿出来ないかもしれません。