10話 新しい名前
前半は奴隷の子の視点です。
扉が開いて、男が中に入ってくる。私はまだ調整中だから、売りには出さないと奴隷商の男が言っていたが、気が変わったのだろう。
それもそうだ、この世界の女の奴隷はほぼ、夜の営みに使われる。加えて奴隷を買うのは貴族や領主など力がある人。そういった人間は、加虐性が強く、初物を好む。特に王国内の貴族などはその趣向が強く。ゆえに、処女じゃない奴隷は値段が下がる。加えて私の身体には傷跡がいくつもある、粗悪品を良くした所で価値はしれているのだから、さっさと売ってしまえば手間賃も浮く。
きっと私も次で最後だろう。処女でもなく、身体が綺麗でもない奴隷は買値も安いが売値も安い。売ってもたいした金にならいのだから、徹底的に使われ壊され、殺される。他人の奴隷を殺すのはマズイが、自分の奴隷なら罪には問われない
大体の奴隷はこうして、最後を迎えていく。
何度も何度もそれを見てきた。
最初は頑張って抗ってみようと思った。力には負けまいと、屈さないと。辛くても苦しくても前を向いてさえいれば、希望はあると。
だけど、そんな事は無かった。現実は残酷なだけだった。だから全て諦めて受け入れた。
私は入ってきた男の方を向くとその男と目が合う。
王城で罪を被せられた、あの少年だった。
なぜ罪を着せられたのかは知らないが、冤罪なのは明白だ。私達はこの少年に何もされてないのだから。
目が合った少年は顔を青くし、自分の胸を鷲掴みにしながら、言ってくる。
「ごめん。本当にごめんなさい。俺のせいで、あんな酷い目に合わせてしまって。」
少年は苦しそうな声で言いながら頭を下げる。
「別にあんたのせいじゃない。」
奴隷に頭を下げる事には驚いた。だがこの少年も奴隷を求めてるのだと思い出し、嫌気がさす。だから冷たく返した。丁寧に対応しようが、雑にしようが死ぬのだから。
「俺のせいだよ。」
少年は苦しそうに続けた。
「俺がもっとしっかりしてれば、ちゃんと考えていれば、君達はあんな傷つかずに済んだんだ。」
相変わらず青い顔で今にも崩れそうな感じで言ってくる。
多分彼は勘違いしてるのだろう。暴力や性行があの日だけの物だと。全く何も知らない。それなのに謝ってると思うと腹が立ってくる。自分も奴隷を欲してるくせに。
だから言い返す。
「あんたがいくら考えようが、あの状況は変わらない。何を気取ってるか知らないけど、あれが私達奴隷の日常だから。」冷たく、冷たく言う。
少年は少し驚きながらも黙ってしまう。
そこで、1人の女性が話しに入ってくる
「やっぱり奴隷の方達でしたか。」
その言葉に反応した少年が問う。
「ルーンは奴隷って知ってたの?何で教えてくれなかったの?」戸惑いながら聞いている。
「ヒムロ君は彼女達が奴隷なら罪を感じませんか?」
当たり前の事を言っていた。奴隷なのだから、罪を感じる必要はない。ましてや彼も被害者なのだから。しかし彼の返答は意外だった。
「関係ないよ。王の部下だろうと、奴隷だろうと、彼女達が傷ついたのは俺のせいだよ。」だから、ごめんと。
彼の謝罪を聞いてふと思う。何で全部を諦めて受け入れた私が怒っているのだろう?と。
何でもいいなら彼の謝罪など、適当に受け流し相手になどしなければいいのに。
自分でも訳が分からなくっていると、彼の言葉が続く。
「良かったら俺と来ない?君も今まで頑張って戦ってきたんでしょ?」
「何を、何を言ってんの?頑張って戦ってきたから何?私を見なよ。」そう言ってローブを脱ぐ。
「頑張ったんじゃない。戦ったんじゃない。
そんな物は無駄だって、諦めて受け入れただけ。これが現実なの。」
私は彼に体の傷を見せる。そして続ける。
「あんたは奴隷が欲しいんだろ?なら私の許可なんて要らない。無理矢理連れて行けばいい。女としての価値なんてないけど。」
冷たく、諦めを孕んだ口調で言う。
「分かった。そうするよ。」そう言うと少年は背の高い女性の方へ話しかける。
「エリス。この子にするよ。」
「お前ここに来た意味分かってねーだろ?あの子に戦わせんのか?」
「望まない限りは戦わせない。そのぶん俺が強くなるから。」
「はぁー。分かったよ。ただな飼い殺しにすんのは優しさじゃねーぞ。」
2人が話してる間にもう1人の女性が話しかけてくる。
「あの子も辛い思いをしてるんです。それだけは分かってあげてください。」少し悲しげな顔で言う。
心底どうでも良かったので無視をする。奴隷を買う人間にまともな奴なんて居ないんだから。
俺はこの子を買う許可をもらうと、テンビンさんの所に行き、色々と教えてもらった。奴隷の扱い方やこの世界での立場など、聞けば聞くほど、あの子は頑張っていたのだと思う。
多分あの場で何を言おうと、あの子は受け入れないと思った。なら側において、行動で誠意を示そうと。エリスはちょっと不満げだったが仕方ないだろう。
次に奴隷紋の制約を決める事になる。細かく設定できるらしいが、興味はないので、大まかな物だけ決める。
『主人を裏切らない事。』
『許可なく人を殺さない事』
『自分で命を絶たない事』
とりあえずこの3つだけにする。ちなみに破ろうとすると体が動かなくなるらしい。奴隷紋怖い。
「後は名前を決めて頂くだけですね。」テンビンはそう言う。
「名前ってないの?」ちょっと驚いたので聞き返す。
「あるにはありますが、本当の名前を持ってる奴隷は稀ですので。」
ほとんどが一番最初の契約時に名前を捨てさせるらしい。なぜ、捨てさせるのかは聞きたく無かった。
「それに彼女は特殊な奴隷ですので。恐らくないと思われます。」
そう、彼女はこの世界で言う所の人間ではない。
亜人と魔族のハーフなのだ。
魔族は人と殆ど見た目が変わらないが、頭に角が生えている。
亜人はもともと獣人と人間のハーフで両方の特性を持っている。耳と尻尾が生えてる意外は普通の人と変わらない。
獣人はまんま獣人だ!体型が人型なだけで、後は殆ど獣なのだ。
ちなみに最初に見たゴリラは亜人らしい。しかも女性だと聞いてビックリしたw
「名前ってあるの?」話しは聞いてただろうが訪ねてみる。
「ないです。」なぜか敬語になったが、素っ気なく返された。
やっぱり無いのか。
「じゃぁ、雪でいい?」
「ユキ?分かりました。」
「うん。その髪が雪のように白くて綺麗だから。あとさっきみたいに普通の話し方でいいよ。」笑顔で言う。
「あんたも物好きだね。」これまた素っ気なく返された。
「ってかお前人の名前決める前に自分の名前決めろよ。」エリスが突っ込んできた。完全に忘れてた。
しかし新しい名前かぁー、いざ考えると難しい。ダメだとは思いつつもユキに聞いてみる。
「何か俺も名前変えないといけなくて。何かない?」
「……得意な武器わ?」意外にも答えてくれる。
「槍かな!ずっとやってたし!」
「じゃ、ランスでいいんじゃない。」相変わらず冷たいが、悪くないと思った。
「ランスか。うん、槍の名前を持つ人か。ピッタリだな。」とてもしっくりきたので嬉しかった。
「これからよろしくね。ユキ。」そう言って手を出す。だがユキはその手を握り返してはくれなかった。
ユキがメインヒロインです。ハーレムにはしません。




