22話 重い思い想い
エリス達との修行から1ヶ月がたっていた。朝のランニングと筋トレは大分楽にこなせるようになっていた。驚いた事に雪は俺のペースに着いてこれるようになっていた、筋トレはまだ半分ぐらいだが、凄い成長の速さだと思う。エリス曰く。亜人の血も入っているから当然だどか。
そうなると雪も一緒に午後の実戦訓練をやると思っていたが。エリスとではなく、ルーンとやる事になった。理由としては魔法主体で戦うなら、ルーンの方が上手く教えられるからだと。
ーー午後SIDE ルーン、雪ーー
「それでは実戦の訓練を開始しましょう。」
私も実戦訓練の許可が下りた。奴隷の時には考えられないくらい体が良く動く。まるで自分の体じゃないような感覚だ。やっと許可が下りた。ランスと一緒ではないが、少しでも前に進めた気がして嬉しかった。
「うん、お願い。ルーン。」
やる気には満ち溢れている。私が強ければ強い程ランスの手助けになるんだから。
「まずは私に魔法を打って下さい。」
ルーンは来い!!と言わんばかりに手を広げている。少し緊張する。人に向けて魔法を放つのは初だ。
私は集中し、雷の矢をイメージして、ルーンに放つ。
雷は速度、威力共に高く、私の中ではかなり使いがってがいい。
雷の矢は3本になり、ルーン目掛け物凄い速さで飛んでいく。
「中々良い速さですね。でも。」
ルーンはそう言うと足元から土の壁を精製し簡単に雷の矢を防いでしまう。
「速さも威力も悪くありません。でもまだ足りません。一発の威力が上がればそれだけ早く敵を倒せます。後は動きながら魔法を使うのにも慣れましょう。」
ルーンにそう言われ考える。魔法は心と連動してるらしく、強い気持ちが強い魔法を打つ秘訣だとルーンは教えてくれた。私にとっての強い気持ちはランスの役に立ちたい事だ。それを思い。もう一度ルーンに魔法を放つ。
先程よりかは雷の矢は大きくなった。でもまた簡単に防がれてしまう。
「ユキちゃんも私に一発入れられれば合格ですよ!ランス君とどっちが早いか競争ですね。」
明るげに言っているが、かなり厳しいと思う。ルーンは質が違う。それに相手の心を読めるから、次に放つ魔法がバレる。でもそのルーンに魔法を当てられればかなり強くなっと自信が持てる。
「私も頑張るから。」
そう呟きルーンに向かう。
最初はさっきと同じ雷の矢。
それを放ち、すぐさま横に駆け出す。
ルーンが土魔法で防ぐ。
今度は別の角度から放つ。
それも防がれる。
雷は駄目だと思い。風魔法に変え、切れる刃物のイメージを浮かべ斬撃を飛ばす。
だがまた土魔法で防がれる。
「かなり固いな。」
1人呟く。どうすれば突破出来るか考えていると、ルーンが魔法を放ってくる。雷の矢ではなく雷の槍だ。
私に防御するすべはないので、全力で回避する。
何とか回避し、ルーンを見る。私の足元はなぜか水溜りになっている。
マズイと思い抜け出そうとしたが、遅かった。私の足は凍っていて、その場から動けなくなっていた。
「少し痛いですが我慢して下さいね。」
ルーンは笑顔で言いながら、私に雷の矢を放つ。威力は低くしてくれただろうけど、私の意識を刈り取るには十分だった。
どのくらい気絶していたかは分からないが目を覚ますと、ルーンに膝枕されていた。
「起きましたか。大丈夫ですか?」
私が起きたのに気づいて声をかけてくれる。
体が少し痺れてる気もしたが、問題はなかった。
「うん。大丈夫。」
膝枕なんて初めてだったけど、ルーンの膝は暖かくて気持ち良かった。今度ランスにしてあげよう。
「今日はここまでにして、残りの時間は魔法の組み合わせを覚えましょう。」
「組み合わせ?」
「そうです。単発で終わるのではなく、次を考えて組み合わせるんです。さっき私がやったのは、雷の魔法をユキちゃんに回避させ、着地点に水溜りを作り、その水を使って瞬時に足を凍らせて動きを止めました。次に繋がる魔法を使う。それが組み合わせると言う事です。」
なるほど。さっきはルーンの思うがままだったのか。でも私が使える魔法は少ない。水と魔はまだ使えない。魔はまだ早いからと教えてもらってないが、水はいまだに駄目だ。どうしてもイメージしようとすると悪い記憶が浮かび、上手く行かないのだ。
「雷と風でも出来る?」
「出来れば水も使えるといいんですが。先程の凍らせる事も水があったから、通常より早く行えましたし。難しいのは分かってます。でも水はランス君の大きな助けになります。頑張って克服して下さい。」
ランスの助けになるか。私が1番望んでる事なのに。
それでも私が水の魔法を使える気配は一向に無かった。でも今出来る事を頑張るしかない。2つの魔法だけでも役に立てるようになろう。そう思い、ルーンとの修行に励むのだった。
ーー午後SIDE ランス、エリスーー
修行開始から1か月が経ったが、今だにエリスに一発入れられてない。おしい時もあったと思うが、進歩している気がしなかった。
正直舐めていたのかも知れない。もっと早く出来ると思っていた。でも現状はこの有様だ。俺は少しづつ少しづつ焦っていた。
「おい、次の一本やるぞ。」
エリスから声がかかる。
「分かった。」
短く返事をし、槍を左手に構える。
俺はエリス目掛け駆ける。
間合いに入ると突きを放つ。
あっさり躱されるが、これは囮だ。
エリスが反撃してくる、腹に向かってのパンチだ。
これを氷の壁を出現させ防御し、もう一度突きを放つ。今度は三段突きだ。
しかし、一段めで槍を掴まれてしまい、そのまま後方に投げ飛ばされてしまう。
素早く受け身をとり、今度は魔法主体で攻めていく。
槍を創りだし、それを飛ばす。前は出来なかったが、今は2本までなら自由に動かせる。
まぁ、エリスには全然通用しないが、これも次の為の一手だ。
エリスに向かって行ってた氷の槍は素手で簡単に壊されてしまう。
どうなってんのあの拳。
それでもめげずに槍を飛ばす。壊されては創りを繰り返していく。
「そんな柔い槍じゃ、私には届かねーぞ。」
無駄だと分からせる為か、エリスが声をかけてくる。
「そんなに柔くはないと思うんだけどね。」
エリスの拳がおかしいのだ。
そんな言い合いをしながらも槍を飛ばし続ける。痺れを切らしたエリスが間合いを詰めてくる。
俺が創った槍を粉々にしながら、どんどん距離が詰まっていく。
かかった。俺は足に溜めておいた魔力を使い、エリスの周囲を氷の壁で囲む。視界は奪った。俺は囲われてるエリスの頭上へとジャンプし、素早く3本の槍を創り、一本は手に持ち突きを繰り出す。残りの2本はエリス目掛け降らせる。少しのラグはあるが、実質三本の槍で同時に突かれているようなもんだ。囲いも広くはない。奇襲にもなっている。
「とった。」
流石のエリスも対応出来ないだろう。
「甘いな。」
エリスはそう言って最小現の動きで2本の槍を避け、俺が持つ槍だけを破壊した。
空中に長くて滞在できる訳ではないので、俺の身体はそのまま流され、エリスの頭上から過ぎてしまう。
俺が着地した頃には氷の壁は破壊され、エリスは俺が創った槍を持ちながら、笑顔でこっちを見ていた。
「さっきのは悪くなかったが、まだまだだな。」
それだけ言うと槍を俺に投擲してくる。
壁を作るのは間に合わないので、全力で躱す。一本目はギリギリで回避出来たが、2本目は左肩に当たってしまう。もちろん尖ってない方だ。
尖って無くても滅茶苦茶痛い。しかも肩が動かせなくなってしまう。もう使えるのは足だけだ。
「やり過ぎちまったな。今日はここまでするぞ。」
本当ですよエリスさん。でもやめる気はない。
「まだ大丈夫。出来るから。」
俺はそう言うとエリスに向かって駆け出す。
もちろん万全の状態でもキツイのに、今の状態でエリスに一発入れるのなんて不可能だ。でも思ったより、時間がかかってしまってる現状では時間の猶予はあまりないのだ。
しかしいくら無理した所でエリスに一発入れられる訳はなく。呆れられこの日の修行は終わるのだった。
俺も強くなってるとは思う。でも届かない。今の修行だけでは足りないんじゃないかとも思う。でもエリスに言った所で聞いてくれない。ってかエリスもエリスだ。
雪も身体がついてきて魔法も大分使えるようになった。実戦の訓練だって始めたんだし、そうそう危険な事なんて無いと思う。
俺が言い出した事だけど、条件が厳し過ぎると思う。エリスに一発入れる人なんて相当な強者だ。あのリーダーの男でも無理なんじゃないかとさえ思える。そこまで強くならなくてもギルドの最初の仕事はこなせるだろうし、仕事をこなしながら強くなって行ってもいいんだから。何でこんな厳しい条件にしたのか理解出来ない。半年たってもクリア出来なかったらどうするつもりなんだろうか?
午後の訓練が終わり、風呂に浸かりながら内心で愚痴っていた。少しイライラもしていた。このまま時間だけが過ぎて行くのは困る。早く稼がなきゃいけない。早く強くならなくてはいけない。俺はあの時雪を優先した。でもそれは間違った選択だったのかも知れない。そう考えてしまう程、心に余裕は無かった。
自分で決めた思いは想いを重くし、俺の心にのし掛かる。
風呂から上がるとご飯が出来ていた。思ったよりも長湯してしまったらしい。今日の料理当番は雪だ。雪はこの1か月本当に頑張ったと思う。修行もそうだが、文字に家事もほぼ完璧にこなせるようになっていた。最初の時から比べれば2歩も3歩も前に進んでいる。
「ランスどうしたの?」
どうやら雪の事を凝視してたらしい。
「雪は凄いなと思って。」
本当に凄いし、頑張っている。
「私より、ランスの方が凄いよ。」
普段なら嬉しい言葉だが、今の俺にはキツイ。
「そんな事ないよ。全然ダメダメだよ。」
だって修行の成果は出てないんだから。
ユ 「ランスがダメな人だったら私は今も死んだように生きてるだけだった。」
ラ 「俺はダメな奴なんだよ!!」
言った瞬間ハッとなる。思ったより強い口調で言ってしまっていた。
ル 「馬鹿ではありますけどダメではないですよ。」
エ 「そうだな。ダメではないな。」
気になったのか、エリスとルーンも会話に入ってくる。
ラ 「ルーンなら分かるでしょ。」
心が読めるんだから。
ル 「気持ちは分かります。でもランス君が決めた事ですよ。」
ラ 「そんなの分かってるよ。」
ル 「なら自分を卑下する必要はありませんよ。ランス君も頑張っています。」
ラ 「足りないんだよ。全然。」
エ 「足りないから修行してんだろ?」
ラ 「その修行も足りない。」
エ 「今で十分足りてる。増やす気はねぇーからな。」
ラ 「エリスならそう言うと思ったよ。」
エ 「お前どうしたんだ?」
ラ 「ルーンに聞けばいいでしょ。」
エ 「あぁ?何か思ってる事があんならテメーで話せよ。ルーンを使うんじゃねぇ。」
ラ 「別に。今日はもう寝るね。おやすみ。」
俺はそう言って自分の部屋に戻る。せっかく雪が作ってくれた料理もほとんど手をつけずに。エリスは追ってくると思っていたが、ルーンに止められたのか、部屋に来る事はなかった。やってる事は思春期の子供そのものだ。自分で空気を悪くしておいて、気まずくなったら逃げる。いつも間違ってるのは俺なのに。
布団にくるまり考える。エリスが修行の時間を増やす気がないのなら、自主的にやるしかない。寝る時間を削ってでも。
私は少し戸惑っていた。あんなランスは見たことなかった。明るくて馬鹿で気を使ってくれて、優しくて自分の事より、他人を優先する。私にとっては太陽のような人が。今日は凄く曇ってみえた。もうすぐ降り出してしまいそうな雨。雨が降って風が吹き、嵐になってしまいそうな。そんな状態にみえた。
「ユキちゃん。ランス君をお願いしますね。」
考えているとルーンから声がかかる。
「ランスはどうしたの?」
あの場面で能力を使わないルーンではない。きっと彼女はランスの心が分かっている。
「それは教えません。エリスさんにも言いません。今度はユキちゃんの番ですよ。」
私の番?少し首を傾げているとエリスが話しに入ってきた。
「何で私にも教えねぇーんだよ!」
私もそれは思う。エリスは知っておいた方がいいだろう。ランスに関わる時間は長いのだから。
ル 「エリスさんは今のユキちゃんなら仕事を出来ると思いますか?」
エ 「出来るだろうな。ランスも強くなってるしな。」
ル 「ではランス君がそうお願いしたら、仕事をさせますか?」
エ 「……考えてやってもいい。」
ル 「それではダメです。そう言われても絶対に許可しないで下さい。」
ユ 「何で?ランスは仕事したいはず。」
ル 「ユキちゃん。これは2人の為なんです。どっちかが妥協をしては行けません。何度か言いましたが、私達は居なくなります。その後ランス君を支えるのはユキちゃんです。その為には強くならなきゃダメです。2人でどんな困難も突破出来るように、片方だけが強いのではなく。2人で強くなるんです。だから、エリスさんは今の条件を曲げないで下さい。」
ルーンの言葉に私もエリスも反論はなかった。この決断を下すのは辛かったと思う。彼の心が考えが分かるから、本当は助言でもして彼を助けてあげたいだろう。今後の事も見据えている、ルーンに頼らず私がランスの心を理解してあげないと行けない。
あの時はランスが救ってくれた。だから次は私の番。
食事が終わり部屋に戻ると、ランスは布団にまるまり寝ていた。さっきの事があったが、丸まって寝ている彼を可愛いと思ってしまう。
ルーンは言っていた、2人で困難を突破出来るようになってほしいと。
私はランスの頭を撫でながら1人呟く。
「必ず強くなって隣に立つから。待っててねランス。」
私はこの時まだ知らなかった。ランスが考えていた事を、その願いがとても優しく、辛く、苦しく、重い物だと言う事を。
遅くなってすいません。暫くはこのペースになってしまうかも。




