Case.1.5 その後の時空捜査係室にて
「……以上で、報告を終わります、係長」
「ご苦労だったな、倉橋。あと、水野が言っていたように、身体検査を受けておけ」
「はい、判りました」
倉橋さんが自席に戻って来た。俺は倉橋さんに声を掛けようとした――正にその瞬間。
「……水野。警視総監がお呼びだ。本日の午後伺うように、との事だ」
――絶対、狙ってタイミング潰してるでしょう、係長?
俺はしれっとした顔で、係長の方を向いた。
「……判りました。後ほどお伺いします」
椅子に座った倉橋さんが俺を見上げた。
「水野君、警視総監と顔見知りなの?」
「あー……、俺がっていうより、親父がってトコかな」
「へーそうなんだ……」
彼女の口調はいつもと変わらなかった。まるで天気の話でもしているかのような。
――ああ、やっぱり、いいよなあ、倉橋さん。
異世界に飛ぶ彼女は、人を見る目がある。逆に言えば、立場で人を見誤るようでは、こちらの常識が通用しない異世界で無事ではいられない。
彼女の目に映る『俺』は、『同僚の水野 圭吾』。ただ、それだけだ。
俺の親父が何してるのか、とか全く関係なしに『俺』を見てくれる。まあ親父の事彼女が知っても、『そうなんだー』の一言で済ますんだろうけどな。
親父の威光から逃れたいと常々思ってる俺にとっては……彼女は貴重な存在だ。
小柄で可愛らしい見かけとは違い、精神的には物凄くタフだ。でなきゃ、こんなきつい仕事できないだろうしな。いつも、さらさらのストレートヘアを後ろで一つにまとめてるけど、あのゴム外してみたいよな、と密かに思ってる。
(……そうは言っても、バックに『魔王』が控えてるんだよな……)
係長の東郷 秀一。バリバリのエリートが何でこんな弱小部署に、と始めは思ったが……倉橋さんと同じ、『異能者』だと知って納得した。
『係長の方が異世界に飛べばいいんじゃありませんか? 何があるかわからない世界に、女性一人で飛んでいるなんて……』
そう聞いた俺に、係長の眼鏡の奥の瞳が光った。
『……倉橋には、行方不明になった家族がいる。彼女が異世界に飛ぶのは、家族を探す目的もあるからだ』
通常、行方不明者の品物に残された、本人の波動形態を分析し、波動ソナーで探索、居場所を突き止める、のがセオリーだが……波動は時間がたつにつれて薄くなっていく。十年以上前に行方不明になった家族の波動は……分析できるほど残っていないだろう。姿かたちが変わっていることもある。やはり、倉橋さんの家族を探せるのは……倉橋さんしか、いない。
彼女が望んで異世界に飛ぶなら、それはそれでいいんだが……。
(本人の知らぬ間に……ってとこか)
係長も倉橋さんのことを、おそらくは大切に想ってる。ほとんど表情には出てないが、倉橋さんが無事に戻ってくると、心なしか頬が緩むしな。
――彼女が向こうに行ってる間は、係長にも負担がかかってるから、少しキンとした印象があるが。
自席で書類を確認している係長を、盗み見た。冷静な顔。このポーカーフェイスが崩れる時があるとすれば、やっぱり倉橋さん絡み、なんだろう。
(倉橋さんは、当分恋愛関係結ぶ気ないって公言してるしな)
自分の家族を見つけてからじゃないと、人との絆を深められない。彼女はそう思ってるから。
(係長も辛抱強いと思いますが……俺も結構なモンですよ?)
俺は心の中で、宣戦布告を告げながら、機器の調整のため、調整室へと向かった。




