第10話:成長
家へ戻り、家事を済ませると、いつも通り三人とセノ爺は食卓を囲んだ。
食事の最中、ふと思い出したようにメアリーが口を開く。
「そういえばセノ爺〜、メディーレさんって知ってる〜?」
その言葉に、セノ爺の手が一瞬だけ止まった。
だが、すぐに何事もなかったかのように食事を再開し、静かに答える。
「ええ、知っていますよ。彼女がこの街に来た時のことは、よく覚えていますから」
「街に来た時のこと?」
メアリーが首を傾げる。
しかし、その問いには答えず――
「彼女に会ったのですか?」
逆に問い返した。
「会うどころか、毎日お話聞かせてもらってるよ!!」
ジェシカが明るく答える。
「そうですか」
セノ爺はわずかに頷いた。
「彼女は物知りです。あなたたちにとっても、良い勉強になるでしょう」
「……ただ、失礼のないようにしてくださいね」
『はーい!!』
三人の声が揃う。
セノ爺は小さく咳払いをすると、話題を変えた。
「ところで。明日の実戦ですが――」
その一言で、三人の空気が引き締まる。
「蜘蛛型の個体は、もう相手にならないでしょう。次の段階へ進みます」
「え? まだ三回しか戦ってないよ?」
ジェシカが驚く。
「三回で十分です。それに」
わずかに目を細めた。
「弱い相手に時間をかけている余裕はありません」
その言葉は、どこか重かった。
「早く強くなりたいしね〜」
メアリーが軽く言う。
「いい心がけです。では今日は、しっかり休んでください」
食事を終えた三人は、その言葉に従い早めに床についた。
――そして翌日。
三人は朝食を終え、セノ爺の運転する車に揺られていた。
「今日の目的地は、少し遠くなります」
その言葉通り、車での移動は数時間に渡った。
車は、荒野にぽつんと佇む巨大な建造物の前で止まった。
「ここは……?」
ジェシカが呟く。
「城です」
セノ爺が答える。
「かつて、とある貴族が別荘として使っていた場所です」
「なんでここだけ残ってるの〜?」
メアリーが辺りを見回す。
「元は森に囲まれていましたが……」
セノ爺は、荒れ果てた大地を見渡す。
「今は、この通りです」
風が、乾いた音を立てて吹き抜けた。
「この中に、次の相手がいます。Dランクの個体です」
三人は頷き合い、それぞれ武器と灯りを手に取る。
ゆっくりと、城の中へと足を踏み入れた。
重い扉が、軋む音を立てて開く。
内部は、完全な廃墟だった。
赤いカーペットは色褪せ、瓦礫と破片が無造作に散らばっている。
「すぐ奥です」
セノ爺の言葉に従い、視線を向ける。
そこにいた。
巨大な角を持つ、鹿のような獣。
その獣が、ゆっくりとこちらを向く。
「……よし」
ジェシカが低く言う。
「まずは角だね」
「そうね〜」
二人は同時に駆け出した。
一瞬で間合いを詰める。
振り下ろされる刃。
――断ち切られる角。
左右、ほぼ同時だった。
獣は何が起きたのか理解できず、体勢を崩す。
「そこだ……」
リーファの声。
直後、銃声が響く。
弾丸は正確に腹部を貫いた。
巨体が揺らぐ。
「今だ!!」
ジェシカが叫ぶ。
「今日は私がやるね!!」
「どうぞ〜」
メアリーが一歩引く。
振り下ろされた剣が、獣を真っ二つに裂いた。
コアは砕け、獣はゆっくりと溶けていった。
「やったー!!」
三人の声が重なる。
自然と手が上がり、ハイタッチが交わされた。
その様子を後方で見ていたセノ爺は、言葉を失っていた。
(いつの間にこれほど強くなったのですか…これなら想定より早く独り立ち…いや、三人立ちできるかもしれません)
「三人とも、お見事です」
ようやく声をかける。
「完璧な戦闘でした」
「でしょ!!」
ジェシカが得意げに胸を張る。
「調子乗りすぎ〜」
リーファが淡々と突っ込む。
「いや、三人とも、本当に素晴らしかったですよ」
セノ爺は穏やかに微笑む。
「今日はここまでにしましょう」
「やったー!!」
三人は揃って声を上げ、車へと向かう。
セノ爺はその背中を見つめながら――
静かにエンジンをかけた。




