第7話 狼牙
つたない文章ですが、最後まで読んでいただけたら嬉しく思います。
吼夜と獣が視線を合わせて向き合っている。
先に動いたのは吼夜であった。
両の拳を構えたまま前傾姿勢気味にゆっくりと間合いを詰める。
駆け引きはしない。
じりじりと近づいてゆく。
それに合わせて獣も構えをとって、間合いを詰めていく。
じりじりと、、、
お互いの間合いの円が触れ合った瞬間、二人が同時に前へと踏み込んだ。
しゃっっ!!
二人の速度は同じかに見えた。
だがしかし、獣の二歩分の踏み込む距離を吼夜は大きく一歩で踏み込んでいた。それと同時に全身の気を両の拳に集中させる。
「顎・狼牙っ!!」
一瞬で獣の鼻先まで間合いを詰めると、左の拳を相手の顎に目がけて下から突き上げた。撃ちつけた拳が獣の顎を軋んで歪ませる。更に、その刹那の瞬間、腰のうねりを乗せて右の拳を頭の上から高速で打ち下ろす。
神速高速の連撃。
これをくらった相手は、上と下から同時に切り裂かれるような衝撃を受ける。
それは、まさに鋭い牙で獲物を噛み千切る、狼の顎であった。
繰り出す技の種明かしまでされて避けれぬはずがない。
獣はそう考えていた。
しかし、その考えは吼夜の牙に否定される。
避けるよりも速く、吼夜の二つの拳が獣の頭を打ち抜く。
過去に味わったことのない衝撃。
頭蓋の中から脳を直接揺さぶったような衝撃。
意識を根っこから刈り取られる。
『がっ、、!』
喉元から絞り出すような言葉にならない音が口から漏れた。
一瞬だ。
ほんの一瞬、獣の意識が途切れる。
意識が繋がる瞬間、本能的に振り上げた右腕の爪を吼夜の頭部に振り下ろす。
吼夜は、それに反応して後ろへ小さく跳躍した。
しゅっ
獣の爪は、吼夜の頬を軽く掠めただけだった。
「、、、こいつをくらって動けるやつなんて初めてだ、、、」
言葉とは裏腹に吼夜も仕留められるとは考えていなかった。
手ごたえは確かにあった。
が、獣の奥に潜む深い闇、そこに棲まう得体の知れない何かを感じていた。
その証拠に、全身の薄い体毛がまだ逆立ったままだ。
「これで終わりって訳じゃないんだろ?」
吼夜が再び獣と視線を合わせる。
「君、本当にすごいね、、、」
獣も真っ直ぐと吼夜に視線を合わせる。
顎に噛まれた箇所が赤黒い痣となり、唇からは血が滲んでいた。
お互いに視線を合わせたまま動きが止まる。
風のない静かな夜だ。
二つの呼吸の音だけが、辺りに流れていく。
「ねえ、君もあの刀を狙っているのかい?」
獣が静けさに言を落とす。
「なんのことだ?」
「僕たちは、ダイマの刀が欲しいのさ」
「おっさんの刀?なんでそんな物が欲しいんだ?確かに業物には見えたけどよ」
「ふーん、、、何も知らないのかい?まぁいいさ。今日のところはこれで帰ることにするよ。ダイマってやつがどれ程の者なのか、元から様子を見るだけのつもりだったしね」
獣は、構えを解いて両の腕を下ろしながら、ゆっくりと後ろへ下がっていく。
「まてよ。逃げるのかよ」
「そう、逃げるのさ。加勢が来たら怖いからね。まさかダイマが君より弱いってことはないだろ?」
「おっさんは来ないぜ。それにまだ勝負がついてないだろ?」
吼夜は、獣を真っ直ぐ見つめたままだ。
「このまま続けたら、最後までいってしまいそうだからね。君は面白そうだからまだ生かしておきたいのさ。美味しいものは最後に食べたいんだ」
獣の中の幼い顔に笑みが浮かぶ。
「なんだと!?」
「あぁ、そうそう、僕の名前は、宙霧。君が死ななければ、近いうちにきっとまた会えるさ」
宙霧と名乗った獣は、軽く後ろへ跳躍すると、そのまま背後の深い暗闇へと消えていった。
気配はもう感じられなかった。
「縁起でもないこと言い残しやがって、、、」
ふぅ
吼夜は深く短く息を吐き出した。
「? 安心したのか?おれ、、、」
読んでいただきありがとうございます。
少しづつ更新していく予定です。
厳しくても構いませんので、感想をいただけたら嬉しく思います。




