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第六十二話【サンテラスの夜】

  「こんばんは、客様」


  黒髪の男は、俺が近づいてくるのを見て、やっていたことを止めた。その顔には敬意も熱意もなく、その顔立ちに見合うだけの真剣さがある。


  ただの平民なら、貴族を見たら間違いなく尊敬の態度を取るはずだ。このことからも、彼が普通の平民でないことは、より確かなことである。


  しかし、敵対しているようには見えなく、なにしろ、お互いに警戒しているだけだ。


  「これは北の独特の方法でローストされた金角兎肉です。全バミアは、私の側からでしか味わえなく、この素晴らしい料理を見逃す手はありませんよ」


  少し気分を整え、彼は低い北方アクセントで紹介を始めた。


  ブースでは、黄金色に輝く肉が強い香りを放ち、見た目も匂いも人々の食欲をそそる。


  店主の言う通り、この料理は美味しいはずだ。


  しかし、この金角兎は何だろう?俺の記憶にはそんな生き物はなかった。


   覚えているのは、北地のウル森に生息する角兎という生き物だけだ。


  「いくらですか?」

  

  俺は尋ねた。

  

  「客様はサンテラスに着いたばかりでしょう?」


  「今回は、無料です」


  黒髪の男は俺を見て、一言ずつ言った。


  無料?貴族とはいえ、平民なら尊敬の念を抱くだけだが、そこまではしない。


  おそらく、彼も、何かを感じ取っていたのだろう。


  「私は確かに北の宝ーサンテラスに着いたばかりです」


  「でも、どうして?」


  俺の顔は真剣な表情になり、声も少し強まって問いかけた。


  普通の貴族のように振る舞い、疑問もあるだろうし、質問もあるだろう。


  「私は自分の目を信じています」


  「あなたは、恐らく大柄な方ですね?」


  「そして私は、あなたとの友情を頂きたいです」


  「それだけです」


  黒髪の男は焼き肉を手渡しながら、真剣にそう言った。


  友情?


  面白い、普通なら他人が俺の力を見抜くことはできないはずだ。


  人の強さは通常、彼の周囲の魔力の揺らぎを感知して知るものだが、俺は魔力を使うことができず、自分の中の膨大なエネルギーは今も、完璧にコントロールされているのだ。


  もしかして、体は強すぎて、感知できたのか?


  「なぜ、ここに来ます?」


  男は焼き肉をじっと持ち、傷だらけの目をした方を開けて俺を見つめ、言った。


  なぜ、俺は来たのか…………?


  征服するために来たのだ


  しかし、どうやらこれは言いできないことらしい。


  「この国が好きだから、ここに泊まっています」


  「それだけです」


  「何しろこの壮大な国を愛さない人はいないでしょうから」


  心の中で自分自身に突っ込みながら、微笑んだ。


  「そうなんですか」


  「この言葉を覚えていてほしい」


  男は焼き肉を握っていた手を緩めながら答えた。


  「もちろんです」


  俺は笑顔でそう言いながら、焼き肉を受け取った。


  黒髪の男は首を横に振り、自分の仕事を続けた。


ーーーーーーーーーー


  「アバドン、そんなに時間がかかったのかしら?」


  「不満だわ」


  レジーナは両手を腰に当てて俺をじっと見て、そして、俺から焼き肉を取り上げた。


  「あの人は普通じゃない」


  俺は、目の前の人が行き交う光景を見ながら言った。


  なにしろ、魔力を感じなくても俺の力を理解できる人間は、普通の人間ではない。


  それなら………敵なのか?それとも、ただの過客?


  北方で最も栄え、最も強力な都市であるサンテラスには、最大のチャンスがあり、そのために様々な種族や冒険者がやってくる。


  もしかしたら、道端の乞食が、手を振るだけで数千の軍勢を殺せる強者かもしれない。あるいは、街角の地味な黒髪の少女が、強力なSランク冒険者なのかもしれない。


  ここ、バミアの首都ーサンテラスは、無限の可能性に満ちている。


  「また何を考えているんだ?」


  「あの人は確かに普通じゃないわ」


  「この肉は金角兎だ」


  「金角兎は、普通の角兎と違って、かなり希少で強力だ」


  「その角から放たれる電撃は、Aランク以上の冒険者を簡単にノックアウトすることができる」


  彼女は俺を見て、レジーナは食べていた焼肉を持ち上げて言った。


  「そうなのか?」


  俺は銀髪の少女に顔を向け、小声で言った。


  もういい、どうでもいい。


  「面白い出会いだと思えばいいんだ」


  空に高く垂れ下がる明るい月を見るように首を揚げ、俺は淡々と言った。


  その頃、レジーナはすでに焼き肉を食べ終え、口の端を舐めていたが、口の脇にはまだソースが残っていた。


  俺は彼女を見て思った。


  意外に可愛いだな、、現在の様子では。


  「きれいになったわね」


  僕はポケットの中のペーパータオルを取り出して、ソースを拭き取った。


  「アバドン」


  「ン?」


  彼女は体を前に向け、黒いドレスは体とともに、彗星のような軌跡を空中に描く。


  「ありがとう」


  夜が更けるにつれ、街は人が少なくなるどころか、混雑するようになった。


  テイオン通りにはこんな話がある「夜こそ、一日の始まり」


  街を散策し、様々な光景を目にするうちに、その言葉の意味がわかってきた。


  夜になると、ほとんどの冒険者が外から帰ってきて、テイオン通りの酒場に集まってくる。


  道路脇では、二十歳くらいの青年が箱に入った品物を店に運び込み、隣では、帰宅するように店の扉を閉める女性、反対側では、明日に売るための獣皮の束を荷馬車から運ぶ屈強な男がいた。


  俺はレジーナを連れて、何気ない会話をしながら街を散策した。途中、レジーナが新しい店を見つけたら入って探したり、人間の武器屋にも入ってみたが、いいものは見られなかったけれど。


  その時、大きな看板が目に飛び込んできた


  「フレアイヤ酒場」

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