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酔いどれ遥

「だいたい、お二人は信念が足りない。お前たちの善臣愛はそんなものか!」

 酔いどれた遥は二人に説教を始める。

「え、私は豊さんのファン・・・」

 とゆりが言いかけるのを遮り遥は話を続ける。

「ちょっと西の豊とか言われて調子に乗ってませんか、あの方」

「いや、東の方はともかく武さんはその言い方はされてないと思うんだけ・・・」

「悔しかったら黄綬褒章取ってから言え!」

「今年あたりに頂けるんじゃないかしら・・・」

「関東リーディングも取ったこともない癖に!!!」

 目が座った遥は滅茶苦茶なことを言う。

 「こいつ酒癖悪いな・・・、取引先と飲みに行くときは要注意だな」と怜は心の中でつぶやく。

「そうだ!怜先輩取っていたビジネスホテルキャンセルしてください」

「え?なぜに?」

「ちょっといい温泉宿にしましょう、私、宿探します」

 そういうとスマホを手に取り検索を始める。

「ちょっと怜止めてよ、予算予算、予算オーバーは困るわよ」

 ゆりが小声で怜の袖を引っ張る。

 たしかに今の遥ではいくらの宿を取るか想像もつかない。

「あー、小金井さん、もう遅いですし宿は明日でもよろしいのではないかとぉ」

「こういうものは思い立ったが吉日なんです、あ、ここどうです?一人一泊5万円です、お得じゃないですか?ここにしましょう」

 目の座った遥は宿の予約を取り始める。

「おい、ゆり。ちょっとさすがにしんどい、ちょっと時間稼げ、私が宿探してプレゼンする」

 怜がゆりを肘で突っつき小声で指示を出す。

「あー、小金井さん、小金井さん。いいお宿も素晴らしいですけどその予算を善臣さんの馬券に回すってのはどうかしら」

「はっ・・・さすがはゆりさん。そうですよね」

 自分の献策が遥の心を動かしたようでゆりはホッとする。

「どうせ菊花賞勝つんですから、馬券も大勝利間違いなし。一泊二食付き10万でいい宿探しますね」

 顔を真っ赤にしたまま、にっこり遥が微笑む。

「おい、馬鹿か、時間稼げって言ってんだ。てめぇ、火に油注いでるんじゃねぇ」

 小声で怜がゆりを非難する。

 えー私が悪いの?とゆりは嘆息する。

「お待たせしました、小金井さん。こちらのお宿でいかがでしょう」

「え、ずいぶんとちゃちではありませんこと?」

 「このぉ」と一発殴りたい気持ちを押さえて怜はビジネスモードで続ける。

「小金井様、こちらのお宿は京都駅から一駅。近いですからね。競馬場で勝利の余韻にゆっくり浸れますよ」

「たしかに、それは大事ですよね」

「それに温泉も見てください、女風呂も結構広くていい感じじゃないですか?お食事は京都駅で私が良いお店探させていただきます、移動に時間をかけずにのんびりいたしましょう」

「あー、いい感じですね。なら怜先輩にお任せします」

 そう言うと遥は酔いが完全に回ったのかテーブルにバンと突っ伏すと寝てしまうのだった。


「ふぅー、やれやれ、こいつに酒飲ませるのヤバいな」

「いや本当、困ったものね」

 二人はホッと肩をなでおろ・・・その時・・・遥が跳ね起きる。

「ヒッ・・・」

「明後日のグリーンチャンネルカップは柴田善臣騎手のショウナンライシン単勝最低は1000円買っておいてください、確勝です!」 

 そう言うと遥はバンっとまたテーブルに突っ伏してしまうのであった。

「え、脅かすなよ、コイツ。ところで強いのその馬」

「ウーンどうかしらね」

 スマホでゆりは戦績を調べ始める。

「福島3勝クラス勝って前走リステッドのジュライステークスでいきなり2着の4歳牡馬。底は見せていないけど左回りに良績無いわねぇ、二桁人気かもね」

 困った表情を浮かべていると・・・

「ベ、ベルダーイメル・・・の去年のグリーンチャンネルCを思い出せ、しかもライシンは名門・大竹厩舎所属・・・」

 また遥が跳ね起きて、昨年斤量60kgで2着に激走した馬の名を告げそしてまた突っ伏した。

 「なんだったんだ」と二人は顔を見合わせる・・・

 怜は遥のほっぺをツンツンする。

「さすがに完全に寝落ちしたみたいだな、あーでもコイツ連れて帰んなきゃ、面倒くせぇ・・・」

「宿代よりはタクシー代の方がマシね、そろそろ帰りましょうか」

 二人はどっと疲れたぁという表情をする。


 10月6日東京競馬場、メインレース・グリーンカップチャンネル。

 ゆりと怜は東京競馬場だ。

 遥は二日酔いならぬ三日酔いで自宅で競馬だ。

「なぁメイショウライシンどうすんべ?」

「一応単勝1000円だけ勝っておこうかしら、11番人気だけど。10万の宿に比べたら安いものよ」

「そうだな、お遊びとしちゃ面白いか、来たら新幹線代は浮くけどな」

「そう上手くいかないのが競馬よ」


 ショウナンライシンは好スタートながら中盤後につける。そしてそのまま後方へ。

「福島じゃ前につけていたからちょっとこのメンバーだと分が悪いのかもね」

「まぁ甘くはないか」

 ショウナンライシンは後方2-3番手のまま直線に入る。

 伸びてはいるが、脚色は他馬より少しいいかも程度だ。

 だが残り300mから脚が切れ始める。

「あら、意外といいね。でも前の馬多いし、交わせないかな」

「結構やるけどちょっと厳しそうね・・・んん?」

 馬の脚色もいいが名手の手綱さばきがいい。

 内で巧みな進路を取る。スルスルという表現以上の物はない、残り100で最内に進路を取り、右ムチ一閃!

 鞍上の指示にこたえてショウナンライシンは先頭に躍り出てそのままゴールを駆け抜けるのであった。

「あれ、勝ったわよね?ゲームみたいなカッコいいレースだったわね」

「ちょっと上手すぎて見とれちゃったな・・・っておいおい、単勝何倍だよ」

 凄い単勝取っちゃったなとゆりと怜が顔を見合わせる。

 遥からのLINEメッセージの着信が鳴る。何度も鳴る。


「すげぇな、何回送ってくるんだよ。テンション高そう、早く見てやれよ」

「そうね、電話しちゃおうかしら」


 2週間後に控えた菊花賞を前に柴田善臣の劇的勝利を見て遥の三日酔いも吹き飛んだようであった。

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