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オークス その2

新型コロナはない設定です

「しかし・・・・・・凄い人数ですね」

 馬券を購入しスタンドに戻ってきた遥は思わず驚嘆した。

 幸い三人はスタンドに席を確保できていたのだが、眼下に広がるコースの手前まで埋め尽くされた人の山に圧倒されたのだ。


「そうね。今日は6万人以上いるんじゃないかしら」

 ゆりが遥に答える。

「そんなにいるんですか・・・・・・」

 今日はこの前来た土曜日に比べて人が多いなぁと思ってはいたが、オークスという本日のメインイベントを前に集まったこの人数・・・・・・

 遥は改めて競馬というものは凄いものだなと痛感するのだった。


「まぁ来週のダービーは10万人以上来るからね。かわいいものよ」

「え?このば、倍ですか。これ以上入るんですか」

「まぁ、なんとかなるものよ、何事も」

 遥の驚愕の表情にかわいいなと思いつつゆりは答える。


「ほら、遥ちゃん。これからファンファーレよ」

 出走馬がゲート前で輪乗りをしているうちにスターターがゆっくりと赤い旗を振る。

 そしてファンファーレの生演奏が始まる。

「生演奏なんですね。ちょっとびっくりしました」

「そうよ、海上自衛隊の音楽隊が演奏しているのよ」

「また凄い人たちが演奏しているんですね」


 ファンファーレに、観客の手拍子が重なる。

 そして荘厳なファンファーレの演奏の終了とともに観客たちの歓声が競馬場いっぱいに鳴り響くのだった。


 歓声とともに新聞を振り回すなど、皆ハイテンションな様子に遥はたじろぐ。

 しかしゆりと怜は静かに腕を組んでファンファーレを見守っていた。

 怜はともかく、ゆりはこういうのでテンションが上がりそうなので意外ではあった。


「皆さん、ノリノリですね。でも先輩たちは冷静なんですね」

「うん?まぁ人それぞれだからな」

 怜がクールに答える。

「日本ではこういう文化だから野暮になるからあまり言いたくはないのだけど、競走馬はとても音に敏感で繊細なのよ。だからあまり騒いだりしない方が馬に対する礼儀だって超大先輩に教わったのよ」

 ゆりが続けて言う。

「まぁこれだけの歓声に耐えられる馬こそが精神的にも強い良い馬とも言えるのかしら?まぁ仕方ないのかしらね。遥ちゃんはそんなに気にしなくていいわよ」

「いえ、私も先輩たちの流儀に合わせようと思います」

 あまりスポーツはやらない遥だが、人間でもスタート前はシン・・・とした静かな間があった方がいいのかなと思う。


 そして各馬が順々にゲートに収まっていく。

 ところどころ立ち止まる馬もいるが皆、この大舞台に参戦するだけあっておおむね順調だ。

 そして一番人気リアルサウンドが悠然とゲートに入っていく。


「遥ちゃん、リアルサウンドが勝ったら63年ぶりの無敗の二冠馬よ。私たちいいレース見に来たわね。ところでどの馬買ったの?」

 買い目を教えてくれない遥に、レースの寸前でまた尋ねたが

「内緒です」

 かたくなに遥は買い目を教えてくれないのだった。

 

 そして大外18番枠に最後の一頭、エルドラドゲートが収まる。

 いよいよ81回目のオークスの幕が切って落とされるのだ。

 

 戦前の予想通り桜花賞3着のスマイルアゲインがじんわりと前に出て逃げに出る。

「あれ、ディアーコ結構思い切って前に行ったな。距離適性あるとみたかな?」

 桜花賞4着馬・ハンドレットソードが前目に付けていったのをみて怜が呟く。

 

 各馬が第一コーナーをゆっくりと回っていく。

「ルーンキャスターもしっかり前につけたわね」

 ゆりもトライアル・フローラS勝ち馬が外からすっと好位につけたのを見守る。

「怜、これは先行勢とリアルサウンドとリボルトの差し馬の勝負かしらね」

「そんなに早いペースでもなさそうに見えるからそうかもな。五分の勝負だな」

「でもリアルサウンド、内で窮屈そうじゃないですか」

 遥が少し不安げに言う。

「まぁ府中は直線長いから心配ないわよ。松川騎手桜花賞でも完璧な騎乗だったしちゃんと仕掛けどころで抜け出してくるわよ」

 

 ゆりは「遥ちゃん、リアルサウンド買ったんだな」と思いつつ安心させるように言う。

 まぁリアルサウンドが来ないと自分も困る立場ではあるのだが。

 「3千円、全部複勝とか買ったのかしら?」と思ったが「いいや、違う。何買ったかわからないけど絶対ワイド馬券だな」と思い直すのだった。


 逃げたスマイルアゲインをルーンキャスターとハンドレットソードが追いかける展開で第4コーナーを迎える。

 一番人気リアルサウンドはじっくり中段やや後方に構えたままだ。

 4コーナーを回りきったところでスマイルアゲインのリードがほぼなくなり、ハンドレットソードが交わす勢いだ。

 ようやく2番人気リボルトが大外へ持ち出し追撃態勢をとる。

 しかし一番人気リアルサウンドは後方のまま動かない。

 リアルサウンドがようやく外に出そうとしたところで・・・・・・

 後ろから来た川賀騎乗のサイヴァリアが進路をふさぐ形となった。


「おい、川賀。なんか私に恨みでもあるのか」

 思わず怜が憤る。

 いくら直線の長い府中といえどリアルサウンドの位置はやや後方すぎる。

 思わずゆりも「えー」という表情をする。

 

 無敗の桜花賞馬のピンチ!と思われたが残り200の手前からようやく進路を確保し抜け出しを図る。

 だが先行勢の勢いは止まらない。

 いったん抜け出したハンドレットソードは直線力尽きたが代わりに2000mの忘れな草賞を勝って参戦した人気薄ルーンジェイドが先頭に躍り出る。

 そして内からはルーンキャスターが先頭を狙う。


「おいおい」

 怜はこれは波乱か、という表情だ。

「松川ー、ゆけー!」

 今日はだいたいクールだったゆりも我慢できず絶叫する。


 このまま先行勢で決まるのか!と皆が思った瞬間、遂にリアルサウンドの末脚に火が付いた。

 残り150mあたりから猛然と追撃する。

 ルーンキャスターもルーンジェイドも必死に抵抗して差は縮まり切らないが・・・・・・

 ゴール寸前、ギア全開のリアルサウンドが桁の違う末脚でようやく差し切ったのだった。


「松川、よくやった!」

 怜が絶叫する。

「松川騎手、冷や冷やものよ」

 ホッとした表情でゆりも言う。


 結果としてリアルサウンドを63年振りの無敗の二冠馬に導いた松川騎手の奮闘が光るレースとなった。


「ところでよく見てなかったんだが2着はルーンキャスターとルーンジェイドのどっちだ?」

 視力自慢の怜だがリアルサウンドに夢中でよく見ていなかったのだ。

「え、外の方にいたルーンジェイド?」

 勝ったリアルサウンドも凄かったが、2着3着の鍔迫り合いも激戦だったのだ。

「いやいや、ルーンジェイドなんか持ってないぞ」

「そんなの私も買ってないわよ」


「ねぇ遥ちゃんはどっちが2着か見ていた?」

「おい、どっちだった?」

 ゆりと怜が遥に声をかけて横を向いた時・・・・・・


 そこには両手をまっすぐに突き上げてニコニコしている遥がいたのだった。

リアルサウンド(デアリングタクト)

エルドラドゲート(サンクテュエール)

スマイルアゲイン(スマイルカナ)

ハンドレッドソード(クラヴァシュドール)

リボルト(デゼル)

サイヴァリア(リアアメリア)

ルーンキャスター(ウインマリリン)

ルーンジェイド(ウインマイティー)

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