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オークス その3

「え、2着馬ですか」

 二人の視線に気付いた遥が両手を下ろす。

「そんなの・・・・・・どっちでも良くないですか?」

 不思議そうな表情で二人を見る。


「お前はお得意のワイドだからどっちでもいいかもしれないがこっちは馬連なんだ!」

「そうなのよ、どっちが2着かは死活問題なのよ」

 怜とゆりは必死だ。

 7番人気横浜成彦騎乗のルーンキャスターは二人とも押さえていたが、13番人気ルーンジェイドなんか当然のごとく押さえていないからだ。


「はぁ馬連で買う人は大変ですねぇ」

 若干見下し気味に遥が二人に言う。


「こいつ、意外に調子に乗りやすいタイプだな」と怜はいっちょ軽く締めとくかと思ったとき

「遥ちゃん、ねぇどっちか教えてよ」

 半分泣き出しそうな表情でゆりが遥の肩を揺さぶる。

「ねぇねぇ」

 なおも執拗に問いただす。

「内にいたルーンキャスターがアタマ一つくらい先着でしたよ。はい、ゆり先輩大丈夫です」

 気圧された遥が答える。


「おまえさ、明日給料日なのになんでそんなに必死なんだよ」

 怜が冷静にツッコむ。明日25日は給料日だから本来は余裕のはずだ。

「この前、ずーっと売り切れてたフィットネスのゲームソフトが売っていたから思わず本体ごと買っちゃったのよう」

「おまえさ、いい年齢なんだからもうちょっと計画的に金使いなよ。身ィ滅ぼすぞ」

 怜がツッコミではなく純粋に忠告する。

「あと今年は春物の洋服買いすぎたのよ」

「その派手な帽子とか妙なもん買いすぎなんだよ、都築俊子さんかよ」

「えーかわいかったのよ」


 ちょうど電光掲示板に着順が表示される。

 遥の言う通リアルサウンド、ルーンキャスター、ルーンジェイドの順に4-16-7の表示を見て改めて怜もホッとする。

「いや最後にゆりがルーンキャスター買っとけって言ってくれて助かったよ」

 怜があまりない胸をなでおろして言う。


「ところでさ、遥はどんな馬券買ってたんだ。リアルサウンドとルーンキャスターのワイドか?」

「そうよ、当たったんでしょう。そろそろ教えてくれてもいいじゃない」

 怜とゆりに言われて、遥はニコニコと馬券を二人に見せる。


「リアルサウンドとルーンジェイドのワイドか。ワイドとは言えよく13番人気と一点で行ったな」

「凄いわね、遥ちゃん。まさか3000円一点買いだとは思わなかったわ」

 怜とゆりの賞賛にエヘヘと満面の笑みを遥は浮かべるのだった。


「せっかく三人とも勝ったんだ。今日はこれまでにして払い戻しして帰るか」

 怜が提案する。

「そうね。遥ちゃん初の当たり馬券おめでとう。初めての馬券でそんなの当てるなんて大したものよ」

「だなー。5万近く儲かったのか。大人しそうな面して結構えげつない馬券買ったな」

「じゃあ初の当たり馬券を払い戻しに行きましょうか?」

 ゆりと怜は確定はまだだが混雑するのが目に見えている払い戻し機に早めに向かおうとするが、遥は動かない。


「どうしたの?」 

「あの、もったいないんでこのまま馬券持ち帰っていいですか」

 遥は初の当たり馬券を感動のあまり記念に取っておこうと思ったのだ。


「それはダメよ」

 即座にゆりが却下する。


「気持ちはわかるけどね。競馬はギャンブル。勝った証は払戻金そのものよ」

 えー、という顔で遥が抵抗する。

「当たり馬券は払い戻して、はずれ馬券はちぎって投げ捨てる、それがマナーよ」

「ゴミ巻き散らかすなよ」と怜は思った。まぁそんなことはいつもしていないことは知っているのでツッコまなかったが。


「でもせっかくだから記念撮影して帰りましょう」

 ゆりが提案する。

「そうだな、それはいいかもな。どこで撮影する」

「電光掲示板に確定の文字そろそろ出るんじゃない?掲示板がバックに入るように取りましょうよ」

「それはいい証拠写真だな、よし、いくぞ遥」

 二人は遥を引っ張るようにスタンドからコースの方へと向かって行くのだった。


 まだ人は多いが電光掲示板が映りこむ位置に移動する。

「ほら、急げ画面消えちゃうぞ」

 怜に急かされて遥は慌てて馬券を取り出す。

 そしてカメラマンを買って出た怜に向かって笑顔だかなんだかわからない表情をする。

 遥は被写体になるのに慣れていない娘なのだ。


「なんだ、その半端な表情は。まぁいいや。せめてピースサインでもしろ」

 怜に言われ、遥は右手に初めての当たり馬券を持ち、左手で頼りないピースサインをする。

 それをみて怜は「はい、チーズ」の声をかけつつスマホのシャッターを押す。

 念のため、と言いつつ何枚か写真を取ってもらったが遥の表情は堅い、どこかこわばっている。


「怜、私もいい?」

 そういうとゆりは、遥の隣に立ち自分の当たり馬券を取り出した。

 遥の身長に合わせるように少し腰をかがめて、遥に寄り添うと二人の馬券が真ん中に来るように促す。

「遥ちゃん、おめでとう」

「はい、ありがとうございます。凄くうれしいです」

 ゆりが隣に来て緊張がほぐれたようだ。

 すっかり柔らかい笑顔になった。


「なんだ。かわいく笑えるんじゃん」と思いつつ怜が二人を写真に収める。

「いい写真になりそうだな」そう思いつつスマホを横にしつつシャッターボタンを押すのだった。

 

「では、改めて払い戻し機に行きましょうか」

「はい」

 今度は遥も素直に従って付いてくる。


「でも、その前に・・・・・・」

 そう言うと3Fにゆりは向かう。

 着いたのは立派な中央インフォメーションだった。

「遥ちゃん、馬券を貸して」

 言われるがままに馬券をゆりに差し出す。

「ここで払い戻しするんですか?」

 なんかイメージと違うなと思いつつ遥は尋ねる。

「違うわよ。ここで馬券のコピー取れるのよ。どうせならデータだけじゃない方がいいでしょう」

 よくこんなことまで知っているなと思いつつ、遥はゆりの心遣いに感謝するのだった。


 無事、馬券も払い戻し3人は帰路に着く。

 結構長い一日だったな、と遥は改めて思う。

 府中本町駅へと続くフジビューウォークを歩いていると遥のラインが着信した。

 怜からさっき撮った写真が送られてきたのだ。

 我ながら垢ぬけない写りだなぁ、と思う。


 でも、最後の一枚はとても良い写真だなと思わず立ち止まって見入ってしまった。

 抜けるような青い空に、緑のターフが映り込む。

 そしてゆりと遥、二人の笑顔。


 我ながらとてもいい写真だな、と思う。

 そしてとても素敵な一日だったなと思う遥なのだった。

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