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ダート競馬 その2

「二つ目の間違いは芝の華やかなレースを勝つのは怜みたいな奴よ、私はそうじゃないわね。そしてね、ダート馬でも華やかな馬はいっぱいいるのよ」

 ゆりがちょっと真剣な表情で遠い目をして言う。

「私、高校まで日陰で地味ぃーに生きていたメガネっ子だからね」


「え、そうなんですか。美人だし結構人気者だったんじゃ・・・・・・」

 意外そうに遥が言う。

「私、大学デビューみたいな感じかしらね。それまで化粧っけなかったからね。まぁ随分周りの扱い変わって落ち着かなかったわ。今は少し慣れたけどね」


「まぁ怜とかは小さい頃から見た目も良くて運動神経も良かったからいつも場の中心にいたわね。ああいう感じのがオークスとか鮮やかに勝つ華やかなタイプなのよ」

 遥はゆりが怜をそんな風に思っていたことにも驚いたが、小さい頃からという言葉が気になった。

「お二人はそんなに長い付き合いだったんですか」

「ええ、家が近所でね。幼稚園から一緒なのかな。よく遊んだし、男子からもよく庇ってもらったわね。まぁあいつは小五の頃、山奥に引っ越しちゃったけどね。まぁ付き合いはそれなりに続いていたんだけどまた大学でバッタリって感じかしら」

 ゆりが少し昔を思い出しながら語る。


「まぁ実は私、怜が行くっていう大学狙っていったから。ってこれは本当に内緒ね」

 唇に人差し指を軽く当ててゆりがウインクする。

 遥は大学デビューって割にこういう所作が様になっているところがやはり美人の器なのだろうなと思った。


「怜がかつて桜花賞とオークスの二冠に輝いたヴェガなら私はダート戦で2勝をあげてなんとかクラシック戦線に乗ったホクトヴェガかしらね。GI馬に例えるのもおこがましいけれど」

 かつて二冠馬ヴェガやユキノオトメなど錚々たるメンバーの中で影が薄いながらもクラシック戦線に喰らいつき秋にはエリザベス女王杯を制した名馬に思いを馳せる。


「ホクトヴェガは人気薄で芝のエリザベス女王杯勝ったのも凄いんだけど、古馬になってからが本当に凄いのよ。元々ダート適性は高いといわれていた馬なんだけれど今の馬齢で言うと6歳かしらね。そこでダート重賞8連勝するような凄い馬だったのよ」

「6歳って言うと馬だと結構高齢ですよね」

「そうね。芝のクラシック戦線で好走していた馬がまさかダートで鬼のように強くてのちに砂の女王って呼ばれるようになるなんて誰も思わないわよね。私もそんな風になりたいと思うわ。まぁ大沼ステークスあたりのダートのオープン戦くらいは勝てるようには頑張りたいわね」

 ゆりは控えめなのかなんなのかよくわからない目標を遥に語る。


 そんな叩き上げの強い牝馬がいたことに遥は衝撃を受けた。

「かっこいいですね。私もそんな強い馬のようにになりたいですね」

「そうね。見習いたいわね」

 ホクトヴェガの壮烈な最期を遥に言わないこと、後で知るだろうがここで言わないのはゆりの優しさだ。

 本当かどうかはわからないが、元々地味に生きていたところがゆりと気の合う要因なのかなと思う。

 まぁあちらは、みにくいアヒルの子が白鳥でしたってパターンで普通に地味なだけの自分とは違うよなと遥は思う。


「ところで怜先輩、山奥に引っ越したって言いましたけどどこ引っ越したんですか」

 遥も遥で普通でない。唐突に話を変える。

「え?国立」

「いやいや、ゆり先輩。国立ってそんなに遠くないじゃないですか。小金井市からもすぐですよ」

「三鷹市民としてはね。黄色い中央線が走っていないエリアは山奥なのよ。でも安心して。遥ちゃんの住んでいる小金井市は武蔵小金井行きの黄色い中央線が走っているから都会よ」

「その理論で行くと立川行きありますから手前の国立も都会なのでは?」

「国立行きがあれば認めざるを得ないんだけどない、からね」

「はぁ」

 府中の件と言い妙な偏見持ってるなぁと遥は思う。

 冗談だろうと思うが。

「ちなみに言っておきますけど、今年の春のダイヤ改正で三鷹より西の黄色い中央線は全部なくなりましたよ。当然武蔵小金井行きもなくなりました」

「え・・・・・・」

 ゆりと遥にジト目で見られていたたまれなくなった。

「ちょっと馬券買ってくるわね」

 と自動券売機へと駆け出すのであった。

 

 ゆりが8頭しかいないからと馬連総流し馬券を買って帰ってくると同時に丹沢ステークスが始まった。

 1番人気バハムートセンキは積極的に前に行くレース運びで直線に入ると同時に先頭に立つ。

 ゆりの推す2番人気ヘビーノバはじっくりと中団に構える。

 バハムートセンキは直線に出ると同時に先頭に立ちそのまま押し切る構えだ。

 突き放しはしないものの他の馬を寄せ付けない力強い走りだ。

 後続は追いつけそうで追いつけない。ヘビーノバも前が詰まったわけでもないだろうが窮屈なレースで伸び悩む。

「え、何。伸びないの?」

 ゆりががっかりとした表情を見せた残り300メートルで最内に進路をとりようやく伸び始める。

 鞍上・川賀の剛腕が唸りバハムートセンキに届くかという勢いかと思ったが微妙に伸び悩む。

 そしてダート戦では初めての1800メートルを超える距離だがゆりの予想に反し特に問題なくバハムートセンキが押し切って見事一番人気に応えるのだった。

 ヘビーノバは微妙な着差の4着に終わったのである。


「何なのかしら。あれ、もしかして8頭立ての癖に詰まったの?信じられないわね」

 前が詰まっていたかは微妙だがゆりはヘビーノバの微妙な進路取りにご立腹の様子だ。

「あれぇ、ゆりちゃん負けちゃったのかなぁ」

 顔をいい感じに赤くした怜がゆりの肩に手をかけニタァという表情で声をかける。

「あんた、随分飲んできたわね」

「ま、ま。鶏もも買ってきたからほら食え、食え」

 フジビュースタンドからから離れた日吉ヶ丘まで健脚を飛ばして買ってきたようだ。

 不満そうだがゆりはそれを奪い取ると消化不良のレースを忘れるためかむしゃむしゃとほおばる。


「あ、これ凄くおいしいです」

 遥もやわらかい鶏肉にむしゃぶりつく。

「そうか。ここの鶏モモ最高だろ」

 怜も二人を見て顔を真っ赤にして上機嫌ですこぶる満足げだ。


「これでゆりちゃんの馬券当たってれば最高だったのにねぇ」

 うざい感じに肩に腕をかけて再び絡んでくる怜にゆりは「こんなのに憧れていたなんて絶対言えないわね」と思うのであった。

やっと50000字行きました。

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