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ハンデ戦

「なぁ次のレースはゆりの狙い目、どうせ盾のアークスだろ。私も盾買ってやるよ。前走の府中特別はなかなか強かったしな」 

 アルコールの入った怜は上機嫌で10レースのフリーウェイステークスの予想を語りだす。

 芝の1400メートル戦の準オープンだ。前走勝ち上がり馬が5頭いるなかなかの激戦レースだ。


「そうね。ここは盾さんのアークスで間違いないわね。前走アタマ差で勝った相手があまり強くないのが気になるけれどハンデ53kgならかなり有利よね。まぁ他の馬も基本的に斤量減ではあるんだけど」

 ゆりも怜の予想に同意する。一応不安点を挙げるあたりただ闇雲に盾剣騎手の馬から買いに行くわけでもないようだ。

「相手はルベールのドラゴンスレイヤーでいいだろ。東京は2戦2勝で休み明けも苦にしていないようだしな」

 怜は相手に1番人気馬を選ぶようだ。

「まぁ前に勝ったレースが三鷹特別ってのがなんか不吉だけどな。なんとなくだけどな」

 ゆりが怜をジッとにらむ。

「冗談だよ、冗談」

「まぁいいけれど・・・・・・。相変わらず堅い予想ね。まぁ私もそう思うんだけど・・・・・・」

 少々歯切れが悪い。何か気になる馬がいるようだ。

「晩春ステークス組が気になるのよね。同条件の準オープンで、しかも勝った馬強かったと思うのよ」

「ああ、ジウーズか。前走0.1差だしな。私も押さえておくかな」

「何、結局1番人気2番人気3番人気じゃない。少しは捻りなさいよ」

「いいんだよ。勝てば。それによく見てみなよ。どの組み合わせでも10倍越えだよ。悪くないと思うね。オークス前にドーンと馬連ボックスで勝負しておこうかな」

 怜は基本、人気馬中心に予想をするタイプだ。

 手堅く厚めに勝負してなかなかの好成績を上げているがそれ故に万馬券とは程遠い。


「私は相手にヴァリスを選ぶわ。前走の晩春ステークスではジウーズと0.2差だけどハンデ52kgで3キロ減なのよ」

「お、穴党ゆりちゃんの迷予想か。でもしょせん前走6着だぞ。近走もそんなに良くないんじゃない」

「それはそうなんだけど・・・・・・。でも左回り得意だし、末脚は折り紙付きよ。それにそんなに着順ほどは負けていないのよね。決めた!せっかくのハンデ戦だし相手はヴァリス厚めの馬連で行くわ」

 ゆりは8番人気から勝負するようだ。


「あのハンデ戦って何ですか」

 遥が尋ねる。

「レースには定量戦とハンデ戦があってね。定量戦は全部の馬が同じ斤量を背負って走るのよ。牝馬は2キロ減ね。それと違ってハンデ戦は直近の戦績の優れた馬がトップハンデとなって、そこから各馬のハンデが決まっていくのよ。成績が振るわない馬は軽いハンデで走れるから好走しやすいの。だから実力だけで予想できないから面白い反面、予想もしにくいのよね」

 ゆりが少し唸りながら遥にハンデ戦について説明する。

 まだ買う馬券に迷いがあるようだ。


「はぁー。競馬って素晴らしいですね」

 遥は感嘆した。

「実力に応じて楽になるなんて素晴らしいですね。これ人間界にも適用されないですかね」

 遥は競馬の世界って素晴らしいな、夢があるなとつくづく思った。 

「なーに、甘えたこと言ってんだ」

 怜は根性なしの後輩のこめかみをこぶしでぐりぐりとする。

「あ、ああっ。れ、怜先輩。これ、これ本当に痛い奴です」

 ゆりはそれを見ながら「それはともかく、騎手も若手の減量とかあるんだから私たちも少し仕事減らしてくれないかしら。若いからって会社はこき使いすぎよね」と思うのだった。


「ゆり先輩、ワイドは買わないんですか?」

 ゆりの馬券購入について行きながら遥は聞いた。

「うーん。あんまりねぇ」

 ゆりは「なんでこの娘、やたらワイド推しなのかしら」と思う。


「ワイドはね。たしかに当てやすいと言えば当てやすいんだけどその分オッズ、配当が安いのよ」

「安くてもいいじゃないですか。当たった方が良くないですか?」

「夢、そう夢がないわね」

 おもむろにゆりは遥を指さして言う。

「競馬はね、夢を買っているのよ。万馬券ガツーンと取ってみたいじゃない。大きな馬券獲って北海道の牧場へ旅行とかしてみたいじゃない?」

「あ、そういうのいいですね。北海道とか行ってみたいです」

 遥もそそられたのかちょっと目を輝かせる。

「負けたお金で何度旅行出来たかしらね・・・・・・」 

 それとは反対に「ふー」と軽くゆりはため息をつくのだった。

「あ、でもでもこのレースをドーンと取って次のオークスも自信あるんですよね。どっかーんと勝っちゃいましょう」

 慌てて遥はフォローに入るのだった。


 フリーウェイステークスが始まった。

 先手を取ったのはスパークスター。

 逃げて3勝している盾騎乗のアークスは控える形となった。

 ゆりはスプリント戦で連勝してきたスパークスターが逃げるのは仕方がないと思っていた。

 しかし盾騎手なら2番手でさっと交わす競馬をしてくれるであろうと思っていたが4番手での競馬になるとは思っていなかった。

「これは・・・・・・ダメなパターンかしら」

 ゆりは少しがっくりした。

 隣にいる怜も似たような表情だ。


 直線に入る。

 盾騎乗のアークスは最内の4番手でじっくり控えていたがサッと外に進路を取る。

 慌てずじっくり4番手のままだ。


「どう、楯さん伸びてくると思う?」

「いやぁ、基本逃げ馬だし駄目でしょ」

 ゆりの問いに怜も落胆しつつ答える。


 二人のガッカリ通りアークスは伸びない。

 徐々に外に外にと進路を取るが前に追いつく前に後続に飲み込まれそうになった。

 が、ここからアークスがジリジリ末脚を伸ばす。

 後続が伸びてくるかと思っていたが、それ以上にアークスの伸び脚がいい。

 盾騎手の完璧な進路取りだ。

 そのままアークスは先行勢を捕らえ、そして後続を押さえ差し切る勢いだ。


「ドラゴンスレイヤーはどこだ!」

「ヴァリスはどこ!」

 ゆりと怜は同時に叫ぶ。

 両馬とも最内に潜り込んでいた。

 怜が買った1番人気ドラゴンスレイヤーは絶好の中段待機から伸びきれていなかった。

「あーあ」

 怜が残念そうな声を上げる。

 大外スタートで最後方にいたヴァリスもなぜか最内に潜り込んでいた。

「え、なんであんなとこに」

 ゆりも驚嘆する。

 だがヴァリスは窮屈な最内から伸びてくる・・・・・・が離れた3着争いに終わった。


「なんで内行ったんだ」

「なんで内に行ったのかしら」

 また二人が同時に、今度は呟く。


「でも楯さんのコース取りは完璧だったわね。結構強引に外出していたけど、まさかあそこから差し切るなんて。単勝勝負だったわね」

 落胆しながらもゆりが盾騎手を褒めたたえる。

「そうだなぁ。あんなに見事に差し切るとは。似た位置からルベールは内へ行って盾は外持ってたんだよな。展開もあるけどやっぱり上手いな」

 怜も同意する。


 離れた3着は4頭の接戦だったが最内にいたヴァリスがクビ差で差し切っていた。

「ゆり先輩、やっぱりワイドで買っておけばよかったですね」

 遥が口を挟む。

「たしかにそうね。やっぱりワイド馬券は大事よね」

 ゆりはニッコリと遥に微笑みを返す。

 そしておもむろに遥の両こめかみにこぶしを当たるとぐりぐりし始めるのだった。


「あ、痛い。痛いです。怜先輩より痛いです。ちょっ、本当に痛いです」

 ぐりぐりされながら遥は「口は災いの元だなぁ」と痛感するのであった。

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