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祝勝会のお誘い

「小金井さん、今日はここまでにして帰りましょうか」

 ゆりが遥に声をかける。

「はい。グッズショップ寄ってからでもいいですか」

 遥は初めての競馬の記念に何か買って帰りたいと思っていた。

 憧れていた先輩に誘われての、この楽しかった非日常空間での思い出を形に残しておきたかったのだ。


「あれ、ゆり最終やんないの。今日はずいぶん諦めいいじゃん」

 怜が冷やかすように言う。

「いい女は引き際がいいものよ」

 今日はあまりいい馬券の買い方をしていなかったなと我ながら思いつつもゆりがすまし顔で言う。

 もう単に残金が危ないだけなのだ。


「小金井って、住んでんの武蔵小金井だっけ?」

 怜が遥に尋ねる。

「え、はい。怜先輩。そうですけれど・・・・・・」

 遥が若干の緊張をはらんだ声で答える。

 職場で厳しめに指導されているだけにプライベートでも上がってしまうのだ。

 難しい相手との商談などは時間を空けて同行してくれたり、同じ質問をしてしまってもきちんともう一度教えてくれるので優しい先輩なのはわかってはいるのだが。ポーカーフェイスなだけに心情が推し量れないのだ。

 ちなみに遥が会社で一番聞きたくないセリフは、怜にじっと目を見据えられての「3度目はないぞ」だ。


「よし。武蔵小金井で私の祝勝会とゆりの残念会をやろう。小金井には聞きたいこともあるしな」

 怜の宣言に、極力飲み会は行きたくない派の遥は大変戸惑うのだった。


「当然、怜の奢りよね?」

 ゆりが怜にしなだれかかる。

「引っ付くなって。どうせあんたもう金ないでしょ。出してやるよ」

 怜がゆりを両手で押しのけつつ答える。

「怜様ぁ。やっぱり持つべきものは気風のいい友人ね」

 そういうと、ゆりは嫌がる怜を尻目にさらに抱き付くのだった。


「私、最終レース買ってくるからあとでグッズショップで合流しよう」

 そういうと怜は馬券投票所に向かうのであった。


「小金井さん、私たちはお店に行きましょうか」

「は、はい」

 遥は飲み会という延長戦に気を揉みながら、ゆりの後を付いていくのだった。


「ねぇ、小金井さん。ちょっと憂鬱?」

 歩きながらゆりが遥に尋ねる。

「え、いえ。そんなことは・・・・・・」

 遥が語尾を濁しながら答える。


「まぁ厳しい先輩と飲み会は嫌よね。別に断ってもいいのよ」

 ゆりが遥に優しく微笑みながら言う。

「い、いえ。怜先輩がってわけではなく飲み会自体苦手なもので・・・・・・」

 遥が困り顔で答える。

 実際はちょっと迷っていたのだ。ゆりと仲良くなれるのなら着いて行ってもいいかなと。

 あまり人との集まりを好まない遥にしては珍しい感情だ。

 どちらかというと、仲の良さそうな二人の邪魔にならないかなとそちらの方が気になる。


「あの、お邪魔じゃないですか?」

 意を決して遥は言う。

「全然、全然。邪魔だと思っていたら最初から誘わないわよ」

 てっきりお断りされるかなと思っていたゆりは遥の意外な言葉に笑顔で答えるのだった。


「良かったわ。延々と怜に今日の馬券自慢されるかと思ってたら私も憂鬱だったのよ。小金井さん来てくれるなら嬉しいわ」

 憂鬱だという割に、奢りと言われた途端めちゃくちゃ喜んでいたよなと遥は思うのだった。


 グッズショップで遥は迷っていた。

 馬のキャラクターのボールペンは一本買うことにしたのだが、ぬいぐるみも買うか迷っていたのだった。

「うーん、ぬいぐるみ買うとか子供っぽいかなぁ」とは思いつつ買うのは確定していたのだが。


「あら、小金井さん。ぬいぐるみ欲しいの」

 ゆりが遥のそばに寄ってくる。

「あ、いえ。どうしようかなぁって。馬の名前付いているんですけど知らない馬ですし」

 遥は見た目だけで決めてしまっていいかなとも思っていたが馬名が付いているとどうせならその活躍ぶりを知っている馬が良いなと思ったのだ。


「三鷹さん。どの馬がいいですかね。選んでもらえると嬉しいんですけど」

 遥はゆりに1000円の小さめのぬいぐるみを見ながら尋ねる。

「私が選んでいいの。じゃあね。これ」

 ゆりは黒いメンコにシャドウロールを付けた鹿毛のぬいぐるみを選んだ。

 

「この馬はね、ウォーブロッサムって言って今一番強い馬なのよ」

 ゆりはぬいぐるみを手に取って自慢げに語りだす。

「3歳の時にね牝馬三冠制覇してさらにジャパンカップって日本の最高峰のレースを勝った凄い馬なのよ」

「去年もドバイターフっていう海外G1レースも勝って、天皇賞秋も勝ってもうG1レースを6勝しているの」

「日本競馬史上でも最強の一頭と言われる馬なのよ」

 ゆりはあまりの情報量にフリーズする遥を気にせず滔々と語り続ける。


「は、はぁ」

 遥は初めて聞く単語の羅列に戸惑うばかりであったが、ふと気づいた。

「三鷹さん、今牝馬って言いましたよね。牝馬って女の子ですよね。女の子が一番強いんですか」


「あら、よく気づいたわね。そうよ、競馬の世界は女子が結構強いのよ。実はちょうど来週のG1・ヴィクトリアマイルっていうレースに出走するのよ。たぶん、いや間違いなく圧勝するような馬よ」

「かっこいいですね。じゃ私この馬のぬいぐるみにします」

 そういうと遥はレジに向かうのであった。


 ちょうどその時、怜がショップへとやって来た。

 そしてひそひそとゆりに話しかける。

「どう、小金井。嫌がってなかった?」

「意外と乗り気だったわよ」

「そう、それは良かった」

 怜が安堵の表情を浮かべる。

「あなたも変なとこで繊細ね。心配ないわよ。あの子に結構好かれているわよ」

 それでも怜は「どうかなぁ」という表情をするのだった。 


 そんな二人の心配をよそに

「三鷹さん、怜先輩、お待たせしました」

 かわいいグッズを買えてご満悦の遥がニコニコ顔で駆け寄ってくるのだった。

そろそろ東京競馬場行きたいですけれど、早くて秋ですね。

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