第8話 出発の朝
【前回までのあらすじ】
アルスは長老と共に、住民の住む“白い森”をみて回る。
世界樹の恩恵を受けた平和で豊かな暮らしを目の当たりにする。
その日の夜、アルスは不思議な夢をみた。
どこまでも続く草原。風が吹いてはアルスを通り過ぎていく。寝転ぶととても気持ちがいい。
そのとき、風が止み、どこからか声が聞こえてきた。
それは、直接心の中に響くかのような、老人の声だった。
『…ルス。アルス。聞こえるか』
「はい、聞こえます。あなたは誰ですか? 」
声の主はその質問には答えずに、話を続けた。
『光のダイヤモンドを手にしたようじゃな。ひとまず安心したわい。
本来持つべき者に返ったのじゃから』
「本当に、僕が持っていいものなのでしょうか」
『何をいっておる! あれはお前一人しか持てないものだ。
この世界は、じきに闇に飲み込まれるじゃろう。
我々の知らないところで、物事は急速に進んでいるようじゃ。
アシュヴァルトの外は何が起こるかわからん。
用心するといい。迷ったときは、その杖が導いてくれるじゃろう』
「はい……」
『これより南に、お前の故郷、エルディシアの遺跡が残っておる。
14年前の奇襲により、ほぼ廃墟になってしもうたがな。
今は植物で覆われ、見る影もなくなっているだろう。
ラオンダールへ行くのであれば、一度立ち寄ってみるといい。
かつて城には、聖なる神の像があった。
その像を見つけられれば、お前の旅の助けになるものが得られるじゃろう。
無事残っているかはわからんが……。
だが油断禁物じゃ。何が起こるかはわからん。用心していきなさい』
「ありがとうございます。エルディシアに行ってみます。
ところであなたは一体何者なんですか? 」
『無事を祈るぞアルス……。お前にしか、この世界は救えないのじゃ…… 』
ハッと目がさめると、窓の外が明るい。鳥のさえずりが聞こえる。朝だ。
「今の夢は……、一体? 」
◇◇
1階に降りると、長老が部屋にいた。
「おはようアルス。皇帝への手紙が書けたぞ。さあ、朝食を食べたら出発しよう」
長老は綺麗な紙でできた手紙をアルスに渡した。
「これを城の門番に見せなさい。中に通してもらえるはずじゃ」
「ありがとうございます。そういや、昨晩不思議な夢を見ました。
ラオンダールへ行くのなら、途中でエルディシアに寄りなさい、って誰かに言われました」
「エルディシアに!? ……そうか、それはもしかすると神様のお導きかもしれんな」
「神様のお導き? 」
「おまえに次なる行き先を示してくれているんじゃよ。
それもこれも、おまえさんが神に選ばれし“光の使者”じゃからな」
「エルディシアの城に神の像があるから、それを探すように言われました」
「神の像か……。王家が祈りを捧げていたものかのう。確か城の中庭にあったはずじゃ。
廃墟となった今、無事残っていることを祈るばかりじゃ」
◇◇
朝食のあと身支度を整え、アルスはアシュヴァルトの入り口で長老と別れた。
「おまえさんに会えて本当によかった。
また困ったことがあればいつでも来なさい。
我々森の住人も、神樹族も、おまえさんを誇りに思っている」
「ありがとうございます。お世話になりました。皆さんによろしくお伝えください」
「もちろんじゃ。
それと、これだけは守ってくれ。世間ではエルディシアは滅んだことになっている。
くれぐれもエルディシアの王家だと言わぬように。
誤解や混乱を招くだけでなく、悪事を働き、おまえを利用しようとする者もおるからの。
2つ目に、アシュヴァルトのことも多言しないこと。
ここに来れるのは選ばれし者のみ。ここに来たくても来れないやつの方が多いのじゃ。
ここの住人さえ、外の世界には滅多に出ない。
そして最後に、お前の親を殺し、おまえさんの目に傷をつけた男が、この世界のどこかにいる可能性がある。
もしどこかで出会って、おまえさんの正体が知られた時にゃ、地の果てまでも追いかけてくるじゃろう。
一体何が目的なのかはわからん。しかし相当の深い闇を感じるのじゃ。用心して行くように」
「わかりました、気をつけます。ありがとうございます」
「うむ。無事を祈るぞ、アルス。エルディシアまでは、半日ほど歩けば着くじゃろう。
おまえさんに光の加護がありますように」
◇◇
長老と別れ、元来た暗い森の道に入った。
しばらく歩いているとやがて道の先に光が見えた。
思わず駆け出した。
光の中に出ると、最初に来た時と同じ草原の道が広がっていた。
しかし、今では見える景色が違う。
「行こう、エルディシアへ。そこで神の像を見つけるんだ。きっとなにかわかるはずだ」
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