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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第3章 亡国エルディシア
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第9話 帰還

【前回までのあらすじ】


アシュヴァルトを後にしたアルスは、故郷のエルディシアに寄ることにした。


 昼を過ぎ太陽が西に傾き始めた頃、長い森の道を抜けたアルスの目の前に、城壁と思われる壁が見えた。

 ところどころ破壊され、いびつな形で残っている。

 追い討ちをかけるように植物が地面から()い上がってきており、(おお)い尽くそうとしていた。

 それはまるで、かろうじて城壁の役目を果たしているかのような風貌(ふうぼう)だった。

 ぽっかりとアーチ状のトンネルのようになっている部分があり、ここから中に入れそうだった。


「ここが、エルディシア。僕の、故郷…… 」


 アーチをくぐると無残な光景が広がっていた。街の面影はなく、全体的に膝までの高さの草に覆われていた。

 地面は石畳(いしだたみ)が続いているが、隙間(すきま)から草が生え、ところどころに焼けた木材やレンガが転がっているほか、足のかけた椅子やガラスの破片、食器などが散乱していた。

 かつて栄えていた国は、破壊の限りをつくされ、植物に飲み込まれ、自然に(かえ)ろうとしていた。


 そのとき、誰かに見られている感じがした。

 とっさに背中の杖に手を伸ばし、固唾(かたず)()んで様子を(うかが)った。


「……誰か、いるのか? 」


 ――返答はない。風で草がさらさらと揺れている音がするくらいか。

 アルスはアシュヴァルトの長老が何度も「用心しなさい」と言っていたのを思い出した。


 少しして、特に異変も感じられなかったので、アルスは城があったあたりを目指した。

 民家が並んでいたであろうところは、家の骨組みやレンガが多少残されてはいるが、どれも一階部分しかなかった。

 壁は無残にも壊され、損傷が激しく、人が生活していた気配さえなかった。

 どこもかしこもそんな様子で、人の気配どころか、生き物の姿すら見られなかった。


◇◇


 やがて広場らしき場所についた。

 中央に円形の水場のようなものがある。どうやら昔は綺麗な噴水だったのだろう。

 水源を絶たれたのかこの14年の間に水は干上がり、噴水の周りに施された美しい彫刻は風化して欠けていた。


「きっとここにみんな集まっていたんだろうな…… 」


 アルスに当時の記憶はなかったが、かつて多くの人が暮らしていた国であるのは(うかが)えた。

 街は綺麗に整備され、何不自由なく暮らしていたのだろう。

 なぜ、一夜で滅ぼされてしまったのだろうか。


◇◇


 やがて白い石で積み上げられた大きな建物があった。

 左右には背の高い塔がのびているが、先端部分は崩壊していた。

 中央の門は()びて丸い穴がところどころ開いており、右半分は床に倒されていた。

 誰かがむりやり開けようとして壊したのだろう。

 ここが城で間違いなさそうだ。


◇◇


 中に入ると天井は崩落し、ところどころ青い空がのぞいていた。

 陽の光がさしこみ、内部がよく見えた。

 足元には瓦礫(がれき)が散乱している。その下にはかつて絨毯(じゅうたん)が敷かれていたのだろう、赤くくすんだ織物が広がっていた。

 両側の壁も壊され、外の景色が見えた。植物がここにも侵入してきていた。

 2階に上がる大きな階段が正面に備え付けられていたが、それも下半分しか残っておらず、上に上がることはできなかった。

 1階の階段の奥には通路があった。両側はかつて美術品が並べられていたのだろう、絵画や焼き物が床に散乱していた。


◇◇


 通路の先を進むと、城の外に出た。

 どうやら中庭のようなところらしい。綺麗に区画されたような庭は、花壇や樹木が整然と並んでいたようだが、そのどれもが枯れるか自然の脅威(きょうい)侵食(しんしょく)され、面影すらなかった。


 その庭の中央に、大理石の彫刻で人物を(かたど)ったものが安置されていた。

 これも破壊され、足元しか台座に残されていない。

 胴体や顔は近くに転がっていた。どうやら男性像のようだ。

 台座の正面には太陽のような紋章が()られており、周りには何やら文字が刻まれている。

 風化して消えているものもあるが、見かけない文字のため解読はできなかった。

 台座の手前にはお供え物を添えられるような受け皿があった。


「これが神の像に違いない」


 アルスは杖を取り出し、自ずと祈りを捧げた。

 するとそれに呼応するかのように、当然杖が光りだした。


「うわっ」


 アルスは思わず後ずさった。

 杖は宙に浮き、どこからか女性の優しい声が聞こえてきた。


「あなたが、この杖の新しい持ち主ですか?」


「は、はい……。アルスといいます」


「アルス……。なんと、14年前エルディシアに生まれた王子ではありませんか。

ここはエルディシア王家に代々守られたきた、最高神アンクを(まつ)るほこらです」


「……最高神、アンク? 」


「この世界を()べる創造神です。

私はこのほこらの精。あなたの杖を通して、語りかけています。

あなたが来るのを、ここでずっと待っておりました。

そして、あなたが無事なことも、風の便りで聞いていました。

王家の方々は毎日ここで祈りを捧げておりました。

そしてアンクの光の加護が、この国を守っていました。

悪しき者の侵入を(こば)む、光の聖壁(せいへき)を築いていたのです。

しかし、聖壁(せいへき)はいともたやすく破壊され、一晩のうちに国は滅ぼされてしまいました」


「そんなことがあったのですね……」


「時間がありません。アルス、私はあなたに神の加護を授けます。

闇を消し去る光の力です。悪しき存在はこの杖により消滅するでしょう」


 宙を浮く杖に、天からまばゆい光が降り注いだ。

 杖はゆっくりとアルスの手に戻った。


「これで大丈夫です。杖は光の力を宿しました。

これからもあなたを守り、導いてくれることでしょう。

1000年続いた王家の者で、この杖を手にした者はあなたと初代しかおりません。

ダイヤモンドはこの杖が眠りについている時の姿。だれも真の力を発揮できずにいたのです。


この14年で、エルディシアは無残な姿になってしまいました。

……私の役目もじきに終わるでしょう。ここも長くは持ちそうにありません。

しかし、“闇の気配”がまだどこかに残り続けているようです。

エルディシアを滅ぼした、闇の力が……。

お願いですアルス。どうかその闇を消してください。

さすればこの国も、静かに眠ることができるでしょう」


「“闇の気配”? ……それはどこにあるのですか」


「この庭の先に、王家しか入ることが許されない、特別な塔があります。

そこだけ()ちずに今も残っている。その最上階から禍々(まがまが)しい気配がするのです」


 アルスはそちらを眺めた。確かに、奥に1つだけ高い塔が立っていた。


「わかりました。あそこにいる何者かを消せばいいんですね」


「はい。でも気をつけてください。闇の力は、あなたが今までに感じたことのない邪悪(じゃあく)なものです。

簡単に心を染められ、悪行に走るものも少なくありません。

どうか、あなたに光の加護がありますように……」


 女性の声がふつと消えた。

 それと同時に、ほこらの台座にピキッとヒビが走った。


「もしかして、闇の力に(おか)されているのか……? 早く行かないと! 」


 アルスがふと台座の裏側を見ると、確かに読める文字でこう走り書きがされていた。


“天空より”


「なんだろうこれ。“天空より”? ここだけ他の文字と違う感じだ。

でも今はそんなことよりも、塔を目指そう。この国に残り続ける闇を晴らすんだ」


 アルスは塔へ走り出した。もうじき陽が暮れる。その前に。

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