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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第3章 亡国エルディシア
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第10話 塔に潜む闇

【前回までのあらすじ】


故郷エルディシアの中庭で神の加護を受けたアルスは、闇の気配のする塔に向かうことにした。


 塔の最上階へ行くには長い螺旋(らせん)階段を上るしかなかった。

 アルスは一段一段、足場を確認しながら登った。

 幸いにも崩落(ほうらく)の恐れはなさそうだった。

 階段を上がっていると、壁にはところどころ小さな出窓が設けられており、外の景色がよく見えた。

 眼下に広がるエルディシアの街。ここからみると緑の絨毯(じゅうたん)が広げられたかのようだ。

 それにしても、王家しか入れないというこの塔に、一体何が待ち受けているというのだろうか。


◇◇


 やがて最上階の扉にたどりついた。アルスは杖を構え、ゆっくりと扉を開いた。


 扉の向こうは円形の部屋になっており、真ん中に台座があるのみだった。

 台座の上には何も置かれていない。どうやらここは神聖な祈りの場だったに違いない。

 床には赤い絨毯が敷かれており、壁には先ほど中庭でみかけた太陽のような紋章と神話をモチーフにしたようなタピスリーがかけられている。

 壁際には1着の黒い甲冑(かっちゅう)が飾られている。

 アルスは用心深く部屋に入った。

 背後で扉がギイイ……と自動的に閉まり、こころなしか空気がズンッと重くなった。

 肌がビリビリと痛み、呼吸さえ容易(ようい)にできないような圧力がかかった。



「い ま い ま し い エ ル デ ィ シ ア 王 家 よ 」



 部屋中に太い声が響いた。視線を動かすが、特に異変は感じられない。

 アルスは声を強めて言った。


「僕は“光の使者”のアルスだ。この塔に残る闇を(はら)いにきた。どこにいる? ……姿を現せ! 」


 ガシャ、と金属が(こす)れる音がして、壁際の甲冑(かっちゅう)が動き出した。

 飾りではなかった。これこそが元凶(げんきょう)だったのだ。


 アルスは甲冑(かっちゅう)に杖を向けた。甲冑(かっちゅう)には翼を絡めた竜の紋章が付いている。


「エルディシアを滅ぼしたのは、お前か? 」


 アルスは問うた。

 ガシャ、ガシャ、と甲冑(かっちゅう)はなおもアルスに近づいてきている。

 右手には黒い剣を持っていた。


「誰の命令で動いている? お前はどこの国の兵だ? 」


「お 前 に は 関 係 な い 。 我 々 の 邪 魔 を す る 者 は 殺 す の み 。そ れ が 我 の 役 目」


 地の底から響くような冷たい声だった

 と、甲冑(かっちゅう)が剣を振り上げ斬りかかってきた。

 アルスはとっさに後ろに避けた。中央の台座が無残にも破壊されてしまった。


「台座が! 」


 アルスは体勢を立て直した。

 甲冑(かっちゅう)は安定した歩みで迫り、何度も斬りかかってくる。

 戦い慣れているというよりも、そのようにプログラムされている人形のような動きだった。


 アルスは距離を保つために壁際を逃げ回った。甲冑(かっちゅう)が後を追う。

 剣を振るたびに壁にかけられていたタペスリーがバッサリと切られ床に散らばった。


「なんとかしないと……。そうだ! 」


 アルスは杖を構えて祈った。

 床に散らばった台座の欠片が光に包まれながら宙に浮き、一斉に甲冑(かっちゅう)へ飛んで行った。

 ガガガガガッと甲冑(かっちゅう)にぶつかり、欠片が落ちると、甲冑(かっちゅう)はボコボコに(へこ)んでいた。

 こころなしか足取りが弱くなっている。


「無 駄 な あ が き を」


 アルスは続いて大きい欠片を投げつけた。

 欠片は剣にあたり、甲冑(かっちゅう)の手から剣が離れた。

 甲冑(かっちゅう)が剣を拾おうとしている間に、アルスは急いで床に落ちていた長めのタピスリーを拾い、甲冑(かっちゅう)の背後に回り込んで頭部に巻きつけた。


「ぬおおおおおおおお」


 甲冑は視界を奪われたのと、(わずら)わしさから暴れ出した。


「“アンクの光”!」


 アルスがとっさに杖をかかげると、カッと光が生まれた。


「がああああああ!」


 甲冑(かっちゅう)は動きを止め、(もだ)え苦しんだ。


「今だ!」


 アルスは杖を甲冑(かっちゅう)の頭部に当てた。

 ゴツッという鈍い音とともに金属の頭部に亀裂(きれつ)が走り、全身にまでビキビキビキと広がった。

 内部からドス黒い煙のようなものが立ちのぼり、(あふ)れ出してきた。


「ぐわああああああ!」


 甲冑(かっちゅう)は手や首をしきりに動かし抵抗していたが、やがて動きが止まった。

 光に包まれた甲冑(かっちゅう)は、砂のようにサラサラと消えていった。


 アルスは呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた。


「や……やった……。甲冑(かっちゅう)を倒した……」


 と、足元でズズズズズ…と地響きがした。塔全体が振動しているようだ。


「やばい! 塔が崩れる! 」


 アルスは急いで階段を降りた。


◇◇


 中庭へ走り込んだとき、背後で塔が轟音(ごうおん)をあげながら崩れ落ちたのが見えた。


「あああ……危なかったー! 」


 アルスはその場にへたりこんだ。

 今更になって甲冑(かっちゅう)と向き合ったときの恐怖が戻ってきた。

 膝がぐらついて立ち上がれなかった。西陽が傾き、中庭をオレンジ色に染めていた。


「あの甲冑(かっちゅう)がずっと支配していたんだ。

中に人は入っていないようだった。

どういう仕組みかわからないけど、何かに操られてるみたいだった。

でも、これでひとまず大丈夫だ」


 アルスは中庭の台座に近づいた。すぐに女性の声が心に響いてきた。


「ありがとう、アルス……。

あなたのおかげで、エルディシアも私も、ゆっくり眠りにつくことができます。

あの兵は、14年前にここを占領(せんりょう)したあと、ずっと立てこもっていたようです。

一種の執念(しゅうねん)のようなものでしょう。

これから先も、あのような敵があなたの前に現れるでしょう。

……いえ、あれ以上の敵というべきでしょうか。

どうか気をつけて」


「ありがとうございます」


「それでは、私はこれで。あなたに光の加護がありますように……」


 女性の声が消えた。

 その瞬間台座のヒビがビキビキと広がり、ついには崩れ落ちてしまった。役目を終えたのだろう。

 アルスは静かに祈りを捧げ、その場を後にした。


◇◇


 エルディシアの南側の城門から外に出た。

 後ろを振り返ると、夕暮れの中、鬱蒼(うっそう)(たたず)む廃墟の様相(ようそう)をしていた。

 目の前には草原の道が続いている。

 きっとここを行き交う人もいなくなってしまったのだろう。



「行こう、ラオンダールへ。皇帝陛下に会いに行くんだ」


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