第6話 神樹族からのお願い
【前回までのあらすじ】
アルスは王家に代々伝わるというダイヤモンドを渡される。
しかし宝石を手にしたとたんに、宝石は宝杖に姿を変える。
アルスは世界を救うために神に選ばれた“光の使者”だったのだ。
そこで世界中に散らばる5つの宝石を集めるため、ラオンダール帝国に協力を仰ぐことになった。
長老の後に続いて来た道を戻ろうとした時、アルスは誰かに呼びかけられた。
〈…ス。アルスさん〉
気のせいではなかった。確かに聞こえている。
しかし、誰の姿も見当たらない。
〈アルスさん。聞こえますか? 私は神樹族のアンジュといいます〉
「神樹族!? ……はい、聞こえます、アンジュさん。
あなたはどこにいるのですか」
アルスは周りをきょろきょろ見渡した。サラサラサラ……と風で葉がこすれる音がした。
〈ふふふ。私は今あなたの右隣におりますわ〉
「僕の、隣? 」
そこには太い幹のトネリコの木があった。いや、もしかして……。
「もしかしてあなたはこのトネリコの木ですか? 」
〈ええ、そうです。神樹族は“世界樹”を守るため、木の姿をしていますから。
あの宝石を手にされてから、私たちの声がはっきり聞こえるようになられたと思います。
あなたとお話ができて嬉しいです! 〉
「僕の方こそ、あなたとお話ができて、なんというか……すごく光栄です」
〈ふふふ。私だけじゃなくて、周りの木々もみんな仲間なんですよ。ほら、みんなも話したら? 〉
アンジュに促されてか、急に周りの木々が騒がしく枝を動かし始めた。
〈僕はオランジュです! 〉元気よく枝を振り、葉が何枚かヒラヒラと落ちてきた。
〈あたしはルージュよ〉礼儀正しそうな印象で、枝もシュッと伸びていた。
〈ジュノーです。よろしくどうぞ〉みんなから好かれる性格なのか、鳥が数羽集まってきていた。
〈ジュディです。ほんとにお話できるのね。夢みたい…… 〉恥ずかしがり屋のようで、他の木に隠れるように立っていた。
「すごい。本当に神樹族の方って、見た目は木なんですね…… 」
〈私たちと会話ができる人は限られててね。普通の人はまず聞き取れないみたいなの〉
アンジュが寂しそうに言った。
〈ほんと。話せるのってエルディシアの王様たちくらいよね。みんな優しくていい方ばかりだったわ〉
ルージュが過去を思い出しながら言った。
〈あれ、昔ここに来た旅の人も僕たちと話せたよね。あれどこの国の人だったかな〉
オランジュがうーん、とうなった。
〈そんな人いたの?私が生まれる前かなあ…… 〉
ジュディはどうやらまだ若い木のようだ。
〈ねえ、アルスさん。長老様に代わって1つお願いがあるんです〉
アンジュが言った。
〈長老様には2人のお子さんがいらっしゃるのですが、2人ともここを出て行ったきり戻ってこないんです。
双子の兄妹なんですが……。
空を旅する鳥さんたちに捜索をお願いしても、全然見つからないようなんです。
もし各地を旅する中でお会いしたら、ここに戻るように伝えてもらえないでしょうか? 〉
「わかりました。それらしい方を見かけたら、声をかけておきましょう」
〈ありがとうございます。あなたの旅に、光の加護があらんことを…… 〉
◇◇
アルスがその場を離れると、長老が少し先で待っていてくれた。
「すみません。神樹族の方々と話をしてました」
「みんな、いいやつじゃったろう」
長老がゆっくり歩みを進めた。
「はい、いい方たちでした! 」
「家についたら、昼食にしようかの。
その後は“白い森”を案内しようか。“白い森”のみんなも、お前と話がしたくてたまらんようじゃ」
アルスと長老は深い霧の道を戻り、長老の家に戻った。
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