第5話 光のダイヤモンド
【前回までのあらすじ】
長老は14年前に実際にできた出来事を語った。
アルスはエルディシア王国に生まれた王子だということ。
その国は異国の兵により一晩で滅ぼされたこと。
アルスと母親は、命からがらアシュヴァルトまで逃げのびてきたことを……。
長老の長い話が終わった。
話を聞いていたアルスは、涙が頬をつたう感覚で我に返った。
長老が静かに言った。
「これは14年前に実際に起きた出来事じゃ。
お前の母親は、この“青い森”で最期をとげた。今我々がいる“世界樹”の前でな」
「まだ……信じられないです。僕が王家に生まれただなんて……。
物心ついてから、ずっとじーちゃんと羊の世話をしたり、畑で野菜を作ったり、村に売りに行ったり……。
これからもそれが当たり前だと思ってた。……だって僕は、普通の人間だから」
無意識のうちに左目の傷に触れた。
「この傷も、怪我をしてついたのかと思ってた。……気がつけばできていたから。
じーちゃんも何も言わないもんだから、なんとも思わなかったけど、まさか、見知らぬ男につけられた傷だなんて……」
「ある種の宣戦布告じゃろうな。
その男が何を思ってあの行動に出たのかはわからん。
エルディシアが滅んだあとじゃが、『予言』が伝えられなくなったことで、案の定各国で騒ぎが起き始めた。
我こそが由緒正しき預言者だと宣い、デタラメを言って人々を混乱に陥れる者があらわれたり、最後に告げられた『予言』を拡大解釈する者も現れ始めた。
その中のひとつに【汝 いかなる時も 己を信じよ】というのがあってな。
ある国の王は暴君ぶりを発揮し、民を苦しめ始めた。己こそが神だ、正義だと言ってきかなくなりよった。
他の国では、民衆が暴動を起こしたこともあった。……じきに抑えられたがな。
またある国の王は、エルディシア王家の生き残りを探して、各国に使者を派遣し始めた。
国は滅んでもどこかで生き延びていると信じているようじゃ。
『予言』がなくなったことで、人々はよりどころがなくなり、不安に駆られたのじゃ。
しかしこれも敵の思惑だとしたらと思うと、わしは気が気でないのじゃ。この世界は今非常に不安定だ。
この隙をつけ込まれると、またどこかの国が滅ぼされてしまうのではないか、とな。
……さて。お前さんに真実を伝えた。それともう一つ、渡したいものがある」
長老がなにやら合図をすると、白い服をきた人が2人、森の奥からやってきた。
手の平に収まるサイズの黒い箱を持っていた。
「開けてみなさい」
そう促されて開けてみると、まばゆい光が溢れ出た。思わず目を細めてしまう。
光がひくと、箱の中には透明に輝く石が安置されていた。
「これは……? 」
「これは神話時代に、天に住まう神が地上に与えたもうた宝石“ダイヤモンド”だ。
代々エルディシア王家が守り通してきたものじゃ。
お前の母は城から逃げるときにこれを持ち出し、お前と一緒にわしに預けたのじゃ。
それは王家に伝わる大切な宝石だからというのもあるが、もう一つ理由がある」
「もう1つの理由? 」
「さっき話の中で男から逃げるときに急に光が出たといったじゃろう。
あれは、偶然この宝石がお前に触れたことで起きた光。つまり宝石がお前を次の持ち主に選んだのじゃ。
母親はそれに気づき、我々にお前を託した時、『最後の希望』だと言った。
これは、正統な王家の血を引くお前が持つものなのじゃ」
「……僕が? 」
「そうじゃ。この宝石は“光のダイヤモンド”と呼ばれている。
これはエルディシア王家にしか扱うことができん代物でな。
王家に伝わる文献によると、持ち主にふさわしくない者が所持すると、あまり長生きができんようじゃ。
しかし、お前さんなら大丈夫。さあ、手にとってみるがよい」
アルスはおそるおそる両手で宝石に触れた。
するとまばゆい光を発し、宝石はみるみる細長く形状を変え、螺旋を描き、杖の姿になった。
「なんと! 宝杖に姿を変えた! 」
長老が声をあげた。一陣の風がブワッと吹き抜けた。
「……宝杖? 」
「な…なんということじゃ。
古くからのいい伝えによると、宝石は安置し、祈りを捧げるだけでその加護を得るという。
しかし宝杖に姿を変えるというのは聞いたことがない。
あるとしてもエルディシア王家が誕生した1000年前の話じゃ。
もしかすると、おまえはエルディシア王家のみならず、神に選ばれし“光の使者”なのかもしれん」
「”光の使者”? 」
アルスはだんだん頭の処理が追いつかなくなってきた。
「この世界を救うために生を受けた者のことじゃ。
神よりもたらされし宝石が宝杖に姿を変えたとなると……。
想像以上に、事態は深刻なのかもしれん。
エルディシアが滅亡したのも偶然ではない。
この世界は、確実に闇に支配されようとしておるようじゃ。
……アルス。お前に大事な任務を伝える。
この世界には、ダイヤモンドと同じような宝石があと5つある。
お前には、その5つの宝石を見つけてもらう」
「5つの宝石を? 」
「そうじゃ。ダイヤモンドの他に、ルビー、サファイア、エメラルド、トパーズ、アメシストがある。
この5つも天よりもたらされた神聖な宝石で、各国の王族が代々所持してきていた。
エルディシアでダイヤモンドを守ってきたようにな。
しかし、何千年もの歴史の中で行方が知れなくなったものもある。
さらに宝石には1人1人持ち主が決まっている。おまえと同じ”光の使者”じゃ。
5つの宝石とその持ち主を見つけ、合計6つの宝石をあわせたとき、聖なる力が生まれると聞く。
この世を脅かす闇がいかなるものかは見当がつかん。
しかし、その杖はお前を導き、闇を消してくれるじゃろう。
ずいぶんと長い旅になるだろうが、これはお前にしかできんことじゃ」
「僕にしかできないこと……。わかりました。僕、やります!
5つの宝石と、その持ち主を探せばいいんですね。
宝石は、どの国にあるんですか? 」
「ありがとうアルス。
わしが知っているところで言えば……。
ルビーは東の果ての火山の国にあると聞く。
サファイアは北の氷で閉ざされた国に。
アメシストは西にある城壁で囲まれた国に。
エメラルドとトパーズは行方がわかっておらん。
そして、持ち主じゃが、必ずしも王家とは限らんようじゃ。
こればかりは、宝石が決めることじゃからな。
しかし、宝石と結ばれておるがゆえに、必ず出会えることじゃろう。
そうじゃな……。まずはここから南にあるラオンダール帝国へ行きなさい。
そこで皇帝に謁見し、この世界に危険が近づいていることを伝えるのじゃ。
あの国は軍事力も経済力も申し分ない。
理解してもらえれば、宝石探しを手伝ってくれるやもしれん。
この世界の運命がかかっておるのじゃし、むこうに不利もないはずじゃ。
……よし、わしが手紙を書こう。
『アシュヴァルトの長老の使い』として、おまえを遣わせば、皇帝とも会えるじゃろう」
「ありがとうございます! 」
「……しかし、用心してほしい。
先ほど、王家の生き残りを探して各地に使者を派遣している国があると言うたが、ラオンダール帝国のことじゃ。
おまえさんのところにも兵が来なかったかの?」
「そういや、近くの村に来たというのを聞きました。
じーちゃんは、兵にみつかってほしくないようで、誕生日に僕を追い出したようなもんだけど……」
「ほっほっほ! あいつも乱暴なことをしよるな。じゃが、それしか方法がなかったんじゃろう。
ラオンダール帝国はこの世界で一番大きな国じゃ。
エルディシア王家を見つけ、自国で保護したとなると、神を味方につけたようなもんじゃ。
他国も下手に手出しはできん。これから勢力を拡大する上でも有利になる。
そういう思惑があるのじゃろうな」
「つまり、僕を軍事利用するつもり? 」
「そういうことも考えられる。協力的でもあるじゃろうが、反面危険な部分もある。心得ておきなさい」
「はい! 」
「それでは、家に戻ろうか」
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