第17話 城へ
【前回までのあらすじ】
街中で兵たちに追われていた少女・リンを助けたアルスは、セイガでの再会を約束する。
また、占い師からの言葉の意味を理解し、城に急ぐのだった。
アルスは街の中心部へ向かっていた。
賑やかで雑多な商店のエリアとはうって変わり、道幅も広くなり、大きな建物が増えてきた。
この世界で一番の蔵書数を誇るという図書館。古文書の研究もさかんだという。
各国から集められた珍しい収蔵品が自慢の博物館。今の時期は『エルディシア-1000年の軌跡-』という企画展が開催されているようだ。興味をそそられる。
隣には2000人を収容できるという円形の劇場。夜になると歌劇を楽しめるようだ。
そしてラームズが言っていた教会らしきものも見えた。
2本の大きな塔が天高くそびえ、窓にはステンドグラスがはめこまれており、陽の光が内部に差し込むようになっていた。
教会の前は広場になっており、一休みできるようなカフェも店をだしていた。
噴水のそばでは音楽隊が優雅な曲を奏でており、観客もちらほら集まっている。
このエリアは一般市民よりも華麗に着飾った上流階級の人が多いようで、馬車に乗っている人は大概が貴族だった。
◇◇
道を渡り、さらに中心部へ向かうと、城のふもとにやって来た。
このあたりからさすがに兵が多く配属されている。
城に向かう入り口は全部で3箇所あり、賊の侵入を防ぐために周りに城壁が築かれてる。
その入り口は厳重に警備が敷かれ、門番はもちろんのこと、城壁の下にも、上の城壁塔にも兵がいる。
ただでさえ近づく者がいない中、全視線が入り口に近づくアルスに集中しているのを感じた。
少しでも怪しい行動を起こせば、直ちに捉えられるに違いない。
そんな圧力がかかっている中、門番の1人に声をかけた。
「すみません」
「何用だ? 」
兵は槍を片手に持ち、冷静に低い声で返事をした。
アルスはバッグから例の手紙を取り出した。
「僕はアシュヴァルトの長老様の使いです。
長老様より手紙を預かってまいりました。皇帝陛下に、ぜひお読みになっていただきたいのです」
「アシュヴァルトの長老の使いだと? 」
「おまえはアシュヴァルトから来たのか? 」
門番たちが問うた。
「そうです」
「おい、そいつは何者だ? 」
向こう側から兵がかけつけてきた。アルスは焦る気持ちを抑えながら言った。
「お願いです。どうしても、皇帝陛下に読んでいただきたいのです。この世界に、危機が迫っているんです!
エルディシアなき今、お力になれるのはラオンダール帝国の皇帝陛下しかいないのです」
「ふーん……。おい、これを中へ」
「はっ! 」
兵は門の向こう側にいた別の兵に手紙を渡した。
軽く経緯を話したあと、その兵は足早に奥へ走っていった。
「ここで判断を下せぬので、一度中で確認してもらう。しばし待つがよい」
「はい……」
◇◇
しばらくして、兵が戻って来た。門番の兵に小声で話をしているようだ。
やがて門番がこちらに視線をむけた。
「中に入れ、アシュヴァルトの使いの者よ。皇帝陛下が謁見を許可してくださったそうだ。
くれぐれも変な真似はするなよ」
「あ、ありがとうございます! 」
アルスは兵の後ろについて敷地内に入った。
城門をくぐると、馬車が1台通れるほどの細い道が、蛇行を描きながら丘をあがり、城に続いていた。
地面は石畳で、途中で道が分かれていたり、さらに門が構えられていたりしていた。
敵が侵入した際に、迷わせた上に攻撃ができるといった利点があるようだ。
途中、ラインバルドの街が一望できた。街を囲う城壁の向こうは、平原がどこまでも続いている。
この城は地上から見るよりも随分高い場所にあるようだ。
◇◇
やがて、立派な城の前についた。城の前は広場になっており、兵や馬車を揃えるには十分な広さだ。
正面の門には獅子のエンブレムが施されている。
事前に話が通っているのか、あらかじめ待機していた別の兵が入れ替わりで案内してくれるようだ。
門番が扉を開けてくれ、アルスは兵に連れられて中に入った。
エントランスは床も壁も白で統一されており、アーチ状の窓や柱には金細工で装飾が施されていた。
装飾となじむように甘美な彫刻が配置されており、天井には神話時代を描いていると思われる豪華な絵画が描かれていた。
正面には階段があり、左右に分かれて2階へ行けるようになっている。
階段には赤いカーペットが敷かれており、階段の手すりにも獅子の装飾が施されている徹底ぶりだ。
「皇帝陛下がお待ちだ。こちらに来なさい」
兵は正面の階段を左側から上っていった。アルスもそれに続いた。
2階には3つの扉があった。真ん中の扉を進むと通路になっており、奥へ続いているようだ。
両側に絵画が飾られており、アーチ状の窓からは城の中庭や、他の建物も見えた。
塔がいくつか見える他、兵の宿舎や教会なども見られた。外から見る以上に内部は広いようだ。
◇◇
やがて装飾がふんだんに施された、重厚な金色の扉の前で兵が止まった。
どうやらここが謁見の間だと、アルスは自然に察した。
「くれぐれも粗相のないようにな。陛下は忙しくしておられる。手短にすませ」
扉が門番に開けられる。アルスは中に入った。
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