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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第5章 帝都ラインバルド
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第15話 街の中で

【前回までのあらすじ】


レリーヌ牧場から帝都ラインバルドに到着したアルスは、ララたちに別れを告げ、一人街を散策するのだった。

 帝都ラインバルドは街の中心が小高い丘になっており、皇族が住まう城はここにあった。


 広大な敷地内に絢爛豪華(けんらんごうか)な装飾を施した宮殿や庭園を有していて、ここには皇族や高位の貴族しか入ることができなかった。

 周辺は厳重な警備が敷かれ、一般市民の立ち入りは固く禁じられていた。

 この丘を囲うようにして教会や円形劇場、大衆浴場などの娯楽施設があり、ここは一般市民にも解放されていた。

 このあたりには富裕層も多く住んでおり、高級感漂う衣服を(まと)う人々が行き交っていた。

 街の外周のあたりは商店が立ち並び、住居があるのもこのエリアだ。

 一般市民はこのあたりで生活のほとんどを占めている人が比較的多い。

 街の東西南北には門があり、夜になると閉鎖されて街の安全が保たれていた。

 また、大陸の中心部に位置するため、交通の中間地点でもあり、珍しいものが多数集まってきているところでもあった。


◇◇


 アルスは外周に沿って歩いていた。

 さすが交易の要衝(ようしょう)というだけあり、珍しい品を扱っている店が多く連なっていた。


「すごいなあ。さすが帝都というだけある」


 背中に2つのコブがある動物をつなげている店では、珍しい果物や織物を並べていた。

 頭にターバンを巻いた店主はしきりに手をパンパンと叩き、通行人の注目を集めようとしていた。


「さぁーさ、さぁーさ、砂漠の国ダルウィンの名物だよ。ここでしか買えないよー」


 少しいくと、今度は赤、青、緑に輝く石を多数並べて販売している店があった。


「ほぅらほぅら、ルマグアートの鉱山で採れた宝石だよ。ルビーにサファイア、エメラルド! 」


(今、宝石って言った? )


 アルスは自然とそちらに足をのばしていた。他の客も店を(のぞ)き込んでいた。

 日焼けした店主は集まった客1人1人に視線を移しながら、宝石の説明をした。


「みてくださいこのルビー! 赤々と燃え盛る太陽のよう! 」

「このサファイアも負けてませんよ! 青い海のような美しさ! 」

「エメラルドはうちの看板商品です! ほら、吸い込まれるような緑色でしょう」


 なるほど、宝石はあんなにもカラフルな色をしているのか。

 “宝石”を見つける参考にしないと。さすがに、この店には置いてないだろうけど……。


「どうだい? この小さいのでも買わんかね? たったの50シェルだ! 」


 商人は1cmにも満たないサイズのエメラルドを見せた。


「はあ? そんな小さいのが50シェルだと? ふざけるな! 」


「ほんとはもっと安くなるんだろ? 田舎の商人が高く見積もりやがって」


「バカにしてるのか! 」


 客たちは憤慨(ふんがい)して次々と店を後にしていった。

 その場にはアルスだけが取り残されてしまった。

 商人はありったけの笑顔でアルスに「どうだい? 」と見せた。

 アルスはしまったぞと思った。通貨のことがよくわからない。


「50シェル? それってどれくらいなの? 僕には今、これしかなくて」


 そういい、背中のバッグから銀貨を3枚出した。商人の目の色が変わった。


「ハン! お客さん、そんなんじゃあ足りないよ。

あと49シェルと97レル足りないってもんだよ。冷やかしは困りますよ。余所(よそ)をあたんな」


 商人は早口でまくしたてると、シッシッと手で追い返した。

 アルスは事態をすぐに飲み込めなかったが、どうやらお金が足りなかったらしい。

 都会ではそういうことがあるようだ。


◇◇


 気を取り直してもう少し進むと、紫のテントで作られた怪しい雰囲気の店があった。

 入り口は開いていたが、中は暗くてよく見えず、甘いお香の香りが漂っていた。

 通行人はあえて避けて通っているようだった。


 アルスも通りすぎようとした時、不意に中から「そこのあなた」と呼びかけられた。


「僕、ですか? 」


「そうです、そうです。ちょっと中までいらっしゃいな」


 アルスは仕方なく中に入った。

 床には幾何学(きかがく)模様をしたふかふかの絨毯(じゅうたん)が敷かれ、周りの棚には不思議な形の置物が多数飾ってあった。

 頭からフードを被った老婆が真ん中に座っており、老婆の前には透明な丸い玉が置かれていた。


「なんでしょうか? 」


「まあそこに座りなさいな」


 アルスは言われるままに座った。


「わしは長年占い師をしておる。おまえさん、この街は初めてなんだろう? 特別に占ってしんぜよう」


 老婆は目の前の玉に手をかざし始めた。アルスもつられて見るが、特に変わった様子はない。

 老婆の手が向こう側に透けて見えているだけだ。


「ふむ、ふむふむ。……おまえさん、旅をしているんだね? 」


「えっ」


 なんといきなり当てられたようだ。


「こりゃめずらしい。えー? おまえさん、エルディシアから来たのかい? 」


「……! 」


「ほう? ちょいとわけありかい? まあいいでの。わしは秘密を守る主義じゃし。

かくいうわしも、昔エルディシアにおったでの」


「えっ、そうなんですか!? 」


「ほほほ。おまえさん、随分(ずいぶん)わかりやすいのう。わしも若い時はあそこに暮らしておったんじゃよ。

占いの腕を買われて、ラオンダールで(あきな)いを始めたときに、一晩で滅んでしもうたのじゃ……。

あの時はつらかったわのう」


「…… 」


「おや、まだあるのう。

おまえさん、これから大切な人と出会うようじゃの。

それも1人だけでなく、何人も……。不思議な縁でつながっているようじゃ。

わしには、何のことだかわからんが」


「? そうですか…… 」


「人生とは不思議なものでな。

今までに出会ってきた人も、そしてこれから出会う人も、全て前世とつながりがあると言われておる。

いいことも悪いこともな。

だもんで、一度きりの人生じゃ。……大切に生きなさいよ」


「は、はい……。ありがとうございます」


 アルスはバッグから銀貨を取り出したが、老婆は「お代はいらないよ」と(かたく)なに拒否した。


「そうじゃ、おまえさん」


「はい? 」


「お偉いさんは午後から外出するようじゃ。行くなら今だ、と占いに出ておる」


「え? どういうことですか? 」


「わしにはわからん! 今日はもう店じまいじゃ。

それじゃそれじゃグッドラーック! 」


 老婆は強引にアルスを追い出すと、ピシャリと店を閉めてしまった。


「わわ、びっくりしたー。いきなり追い出すんだもんな。

まるでじーちゃんみたいな人だな。

それにしても、さっきのはどういう意味だろう? 店も閉められちゃったし、自分で考えるしかないか……」


 アルスはその場を後にした。


◇◇


 一方占い師は、閉め切った店内から、アルスが立ち去っていくのを確認すると、その場にペタリと座りこんでしまった

 目からは涙が溢れ出して止まらなかった。


「あああ、奇跡じゃ。奇跡が起きたのじゃ!

滅亡したと言われとった王家の方が、生きていらっしゃった……。

わしは幸せもんじゃあ。希望は失のうてなかったんじゃあああ! 」


お読みいただきありがとうございます。

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