表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第4章 レリーヌ牧場
13/133

第12話 対話

【前回までのあらすじ】


道を聞こうとレリーヌ牧場に立ち寄ったアルスは、一晩泊めてもらえることになった。

夕食をいただくことになったが、娘のレリーヌはアルスにきつく当たってばかり。

アルスはレリーヌと2人で話をすることにした。

 アルスは部屋の前に立ち、1度深呼吸をしてから、コンコンコンとノックした。


「だれ」


 すぐに扉の向こうから返事が返ってきた。


「僕です、アルスです。……レリーヌさんと、話がしたくて」


「ハア? なんであんたが来るのよ? わけわかんないんだけど。向こう行って」


 案の定、不機嫌な声が返ってきた。


「それが、そうもいかなくて…… 」


「なんで? 」


「あの、ちょっと話をしませんか。すぐ出て行くんで。

僕、同じ年の人と話をしたことがなくて」


「…… 」


 しばらく返事がなかったあと、キィと扉が細く開き、レリーヌの顔が見えた。


「ちょっとだけならきいてあげるわ。でも終わったらすぐ出てってよね」


「ありがとう。お邪魔します」


 レリーヌの部屋はシンプルで小綺麗にされていた。

 ベッドや小さな机が置かれている以外は、特に家具らしいものはなく、まさしく“寝るための部屋”といった印象だった。


「じろじろ見てんじゃないわよ」


 レリーヌは腰に手を当てて立っていた。まだアルスに警戒(けいかい)を解いていないのだ。


「いい部屋だね。僕の家よりも綺麗で広いや」


「あんたさあ、ほんとはどこに住んでるの? 」


 レリーヌはベッドの端に座り、腕組みしながら聞いてきた。

 アルスは床に座り、レリーヌの目線よりも低い位置から話始めた。


「僕はラオンダールの北にある家に、じーちゃんと2人で住んでるんだ。

野菜を育てたり、羊たちを飼ったりしてて、時々旅人や近くの村へ売りに行って生計(せいけい)を立ててるんだ」


「なーんだ。思ってたよりも近くじゃん。

てか、お父さんやお母さんは? なんでおじいさんと2人きりで住んでんの? 」


「両親は僕が小さい時に死んでしまったんだ。

一緒に住んでるじーちゃんは育ての親で、ほんとの身内じゃないんだ。

知り合いのつてで引き取られた感じなんだけど」


「ごめん……。変なこと聞いちゃったね」


レリーヌが顔をうつむけた。


「いいんだよ。両親の顔も覚えてないし。

ずっとじーちゃんと2人だったから、家族のようなもんだし」


 アルスが何の屈託(くったく)もなく笑うので、レリーヌもつられて笑いそうになった。


「そういやなんで旅なんかしてんの? おじいさん1人残して……」


「詳しいことは言えないんだけど、探し物というか、なんというか……。

そもそも、じーちゃんに家を追い出されちゃったというか……」


「あははは。なにそれ。意味わかんない」


 ここで初めてレリーヌが自然に笑った。アルスは少し嬉しくなった。


「レリーヌさんは、帝都ラインバルドに行ったことはあるの?」


「そりゃあ、あるわよ。

小さいときに馬車に乗って、連れて行ってもらったことがあるの。

たくさんの店があって、おしゃれな服を着た人がいっぱいいて、遠くに綺麗なお城が見えて…… 」


 それはまるで夢見る少女のように生き生きとした面立ちだったが、すぐに顔が曇り、ため息をついた。


「でも最近はずっと牧場で留守番。道中に盗賊が出たりして危ないからって。

今は街に顔なじみが多いママと、力持ちのラームズで行ってるわ」


 レリーヌは窓の向こうを見るように顔を横むけた。

 まるで、ラインバルドの街を眺めているかのような……。


「もう何年も連れて行ってもらえてないけど、ほんとは行きたくて行きたくてたまらないの」


「じゃあ、僕と一緒にいく? 」


 アルスがとっさに言った。

 レリーヌは一瞬キョトンとしていたが、すぐに顔を赤く染めた。


「な、なんであんたと? あたしはここで働かなくちゃいけないの!

そう簡単に出られないんだから」


「わわわ。……ごめん。今のは忘れて」


「もう、謝らなくてもいいってば! ……あんたってほんと、変なやつよね」


「ははは。そうかも」


 レリーヌはそっぽをむきながら、照れを隠した。


「ねえ、明日は早いんだから、そろそろ寝たら?

寝坊しても、お……起こしてあげないわよ」


「そうだね。突然お邪魔してごめんね。話を聞いてくれてありがとう」


 アルスは立ち上がり、部屋を出て行こうとした。


「待って」


 レリーヌが声をかけた。


「さっきの言葉だけど……。ちょっと、嬉しかったかも」


 アルスを直視できず、つい小声になってしまう。

 アルスはにっこり笑って言った。


「うん、レリーヌさんがよければ、一緒に行こう。

今すぐじゃなくても、出かけられるようになれたら。

きっと1人で行くよりも楽しいと思うよ」


「うん……。ありがと」


 レリーヌは目線をそらしながら微笑んだ。


「じゃあ、おやすみ。また明日の朝に」


 アルスは部屋を出て行き、階段を降りて行った。


 部屋に残されたレリーヌは呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていたが、顔を赤くしてベッドにダイブした。


「な……なんなのよなんなのよー!  落ち着け、落ち着け私! わああああああ」


 枕に顔をうずめながら足をバタバタさせ、叫ばずにはいられなかった。

 アルスの顔が頭に何度も浮かび上がり、思い出す度に顔が熱くなった。

 心臓がバクバクしていた。


「あああ……。私、明日起きられるかなあ…… 」


◇◇


 1階に戻ったアルスを、ララたちはにっこり迎えてくれた。


「どう、仲直りはできた? 」


「はい。話すうちに、ちょっと打ち解けられた気がします」


「それは良かったわ。あの子、あんな態度だけど、ほんとはいい子なのよ」


「牛たちへの愛情も人一倍だからね」とレム。「牛たちもそれがわかってるはずだよ」


「レリーヌさんは、鈍くさいおらのことを気遣ってくれるんだ」と食事を終えたラームズ。

「逆に足手まといになってるんじゃないかと、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」


「そうだ、今晩は2階の空いてる部屋を使ってちょうだい」とララ。


「階段を上がって、すぐ左の部屋よ。

空き部屋だからちょうどいいわ。ちょっと見てきますね」


 ララが食卓を離れて2階に上がっていった。

それを見計らい、レムが静かに話し始めた。


「昔、ララさんの旦那さんが使ってた部屋なんだ。レリーヌさんの父親なんだけど。

数年前、急にここを出て行ってしまってね。「薬を探してきます」って書き置きが残されてて。

あのときのララさんは、かわいそうで見てられなかった。


ララさんは昔から体が弱くて、何度か寝たきりのときがあったんだ。

旦那さんはそれを見かねてどこかへ薬を探しにいったに違いない。

でも、一向に帰ってくる気配がないんだ。

ララさんもレリーヌさんも、普通に振る舞ってるように見えて、どこか強がってて、悲しみを見せまいとしてる気がするんだ。


俺は旦那さんが好きだった。気さくで明るくて、仕事のことなら何でも教えてくれる人だった。

でも今は許せないんだ。何も言わずに出て行って、ララさんとレリーヌさんに迷惑をかけて。

手紙の1つや2つ送ってきてもいいだろうに。

そんなだから、俺たち2人でできることはやろう、って決めたんだ。

ここの人にはお世話になってるから、その分助けてあげよう、ってね」


 レムの話が終わる。アルスは胸を打たれて、しばらく言葉が出てこなかった。

 優しくしてくれたララも、話をきいてくれたレリーヌも、何事もないようなふりをして、心に悲しみを抱いていただなんて。

そんなことにも気づいてあげられなかったなんて……。


「なあ、アルスさんとやら。もし旅のどこかで旦那さんを見かけたら、声をかけてやってくれないかい。

ララさんもレリーヌさんも、旦那さんが帰るのを待ってるってな」


 ラームズが優しく言った。


「おらたちはここを離れることができねえ。牛たちの世話があるし、ララさんたちを助けなければならねえ。

通りすがりのアルスさんに押し付けて、本当に申し訳ねえと思ってる。

でも、ララさんたちを助けてあげたいんだ……」


 アルスに迷いはなかった。


「わかりました。どこかで見かけたら、必ず伝えます」


「ありがとうよ。それと、この話は俺たちだけの内緒だからな」


 レムが親指を立てて言った。アルスも親指を立てて微笑んだ。

 そのとき、2階からララが降りてきた。3人は何もなかったかのようなふりをした。


「部屋を綺麗にできましたので、どうぞ使ってくださいな」


「ありがとうございます。お言葉に甘えて、使わせていただきます」


 こうして牧場の夜は更けていった。


お読みいただきありがとうございます。

少しでも「面白い」「続きが気になる」「応援したい」と思っていただけましたら、

ブックマーク登録をお願いします。


また、広告の下の☆☆☆☆☆を押していただけますと、評価ポイントが入ります。

評価していただけますと、執筆の励みになります^^

応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ