第11話 牧場の夜
【前回までのあらすじ】
故郷エルディシアで闇と対峙したアルスは、夕闇が迫る中ラオンダール帝国を目指すのだった。
陽が暮れて辺りが薄暗くなった頃、下り坂の先に明かりのついた一軒家が見えた。
「あそこの人に、帝都ラインバルドへの道を聞いてみよう」
二階建てのやや大きな家だった。
木製の戸をノックすると、優しそうな女性が扉をあけてくれた。
「まあ、こんな時間にどなた? 」
「夜分にすみません。旅をしている者です。ラインバルドまでの道筋を教えていただきたいのですが……」
「ここからそんなに遠くはないけど。今日はもう遅いから、ここに泊まっていったらどう?
それにあなた、よく見たらまだ子どもじゃないの。ささ、あがってあがって! 」
「すみません、失礼します」
家の中にあがらせてもらうと、奥にはキッチンがあり、手前には大きなテーブルがあった。
壁も天井もぬくもりのある木で作られていた。
奥の階段から2階へあがれるようになっていた。
「ちょうど今から食事にしようと思っていたの。よかったら食べていってね」
「ありがとうございます。僕はアルスといいます」
「私はララよ。もうすぐ、あの子たちも帰ってくると思うんだけど……」
そのとき、「ただいまー」の声と共に、若い女の子と、2人の成人男性が入ってきた。
皆それぞれ長靴を履いており、髪や服に牧草のようなものがついていた。
「え?ママ。……誰その人」女の子が開口一番に言った。表情はものすごく固い。
「旅のお方よ。帝都までの道を聞かれたんだけど、さすがに暗いでしょ。
だから一晩泊まっていってもらおうかと思って」
「えーうそ、冗談じゃないわ。マジでいってんの? ママやばすぎ…… 」
女の子は茶色の長い髪を左右にくくっており、顔にはそばかすがあった。
「この子は私の娘で、レリーヌよ。この2人はレムとラームズ」
「どうも」と細身で長身のレム。
「よろしく」と大きな体格のラームズ。
「アルスです。よろしくお願いします」
「じーーーーー」
レリーヌがアルスに顔を近づけてきた。
「あんた、あたしと同い年くらいじゃない? なんで旅なんかしてるの? お父さんやお母さんは? 」
「ちょっといろいろあって……」
アルスは思わず目をそらしてしまった。
「ふーーーーん。ま、いっか」
「さあさ、ご飯ができたわよ。みんな座って座って〜」
5人でテーブルに座り、ララが作った食事を食べた。
暖かいクリームスープにパン、そしてサラダにチーズ。
「私たちは牧場を経営していてね。『レリーヌ牧場』っていうのよ。この子の名前をつけたんだけどね」
「ちょっとやめてよママ」
レリーヌが不機嫌な反応を示した。ララは娘の小言には気にせずに話を続けた。
「この子たちはいつも牛たちの世話をしてくれているの。
私はラームズと一緒に、毎朝新鮮なミルクを帝都ラインバルドへ運んでいるのの。
もしよかったら、明日一緒に乗っていかない?途中で降ろしてあげるから」
「ありがとうございます。このあたりの道はよくわからなくて、困ってたんです。助かります」
「ここからだと一本道だしすぐ行けるでしょ」と間に入ったレリーヌ。「あんたって相当バカなのね」
「レリーヌ! なんてことを」
ララがピシャッとたしなめる。アルスはあわてて続けた。
「いいんです。僕、あまりこのあたりに来たことがなくて……」
「あら、どこに住んでいらっしゃるの? 」
「えーっと……少し北の方、かな?」
かくいうアルスも住んでいた地域のことをあまりわかっておらず、アバウトな表現でしか伝えられなかった。
「北の方? 北ってどこよ? まさかアシュヴァルト?
それかもっともっと北のゴルドヴァキア?」
「もういいでしょレリーヌ。
アルスさん、明日、よければ私たちの仕事も見ていかない?
うちの牛たちのミルクをしぼるのよ。早朝4時起きだけどね」
「ちょっと、ママ。何勝手に決めてんのよ」
「あら、いいじゃない。せっかくなんだし」
「何がせっかくよ。わけわかんない」
レリーヌは早々に食事を終えると2階に上がり、自分の部屋にこもってしまった。
「ごめんなさいね、普段はあんな子じゃないんだけど。嫌な思いをさせちゃったわね」
「いえ、いいんです。僕の方こそ突然お邪魔してしまって。すみません」
「あなたは悪くないのよ。……あの子には、小さい頃からここの仕事をまかせてしまってたからね。
あなたのような同じ年頃の子とも遊んだことがないのよ。
だから、あなたへの接し方もどうすればいいかわからないんだと思うわ。
それでも、根は嬉しい子なの。それをうまく伝えられないだけなのよ」
「……あの、レムさんとラームズさんって」
「僕らはここで雇われてるのさ。牛たちが可愛くってね」
とレム。ラームズは食べることに夢中で、レムの話を聞いてはウンウンと首を縦に振っている。
「ララさんとレリーヌお嬢ちゃんの右手となり左手となり、おいしいミルクを届けるのが僕らの使命なんだよ」
「まあ、ありがとう。レム、それにラームズ……。あなたたちがいてくれて、本当に助かるわ」
アルスは食事を食べ終えると、立ち上がった、
「僕、レリーヌさんと仲直りしてきます。このままじゃいけないような気がして」
「そう。ありがとうね。レリーヌの部屋は、2階にあがって一番奥の右の部屋よ」
「ありがとうございます。
それとごちそうさまでした。とても美味しかったです」
アルスは階段を上がっていった。
食卓の3人は互いの顔を見てにっこりほほえんだ。
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