第215話 王都の祭りの前に……
久々の主人公視点です!
「ただいま戻りました!」
「おう、お疲れ!」
「二人とも、巡回お疲れさん」
夕闇が迫るエレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊の隊舎。
扉を開けて戻ってきたのは王都の定期巡回を担当していたシーナさんとアンリだった。
自分のデスクで事務作業をしていた俺がペンを置くと、二人はそのまま足早に俺のデスクの前へとやってくる。
「リュウトさん、お疲れ様です! ただいま巡回より戻りました!」
「ああ、お疲れ様。街道や市街地に異常はなかったか?」
「はい!至って平和でした!」
「ふふっ、アンリったら報告するときはいつも通り凄く気合が入ってるわね」
「もう、シーナさんったら……!」
敬礼混じりに胸を張るアンリの姿にシーナさんがクスリと笑う。
そんな微笑ましいやり取りを眺めながら、俺は一つの疑問を口にした。
「そういえば、一昨日くらいから思ってたんだが……王都の城下町、いつも以上の活気と賑わいじゃないか? やっぱり、あの大きなイベントが近づいているからなのかな」
「まあ、それが一番大きい理由でしょうね!」
シーナさんの言う通り、間近に迫っているのはこのエレミーテ王国が誇る重大な行事だ。
「何しろ、四年に一度、王都エメラフィールを中心に開催される大建国祭が控えてますからね!」
エレミーテ王国の建国と平和に感謝を捧げるため、三日三晩に渡って開催される大きな祭り。
その規模と華やかさは国中を見渡しても類を見ないほどであり、国内の辺境から足を運ぶ者も絶えないという。
前回開催された頃の俺は王都から離れた場所で冒険者をしていたために参加した経験はないのだが、噂に聞く盛り上がりは相当なものだ。
「私は今回、治安維持の警護員として参加することになるんですけど……やっぱり楽しみです!」
「あたしはこれで二回目になるんだけどね。まあ、ウチの部隊は迷子探しから喧嘩の仲裁まであれこれ幅広く対応しなきゃならないから、お祭りを純粋に楽しむ余韻があんまりないのが玉にキズだけど……」
シーナさんが少しだけ肩をすくめて苦笑する。
実際、大通りや広場では出し物や出店の準備、大道芸人たちの場所取りなどで街中がごった返している状態だから、我が遊軍調査部隊はもちろん、騎士団本隊も一丸となって治安維持と祭りの成功に向けて動き出しており、どの部署もかなりの忙しさの中にあった。
まぁ、かく言う俺もその催し物における重要な出来事の一部を担っているんだけどね……。
◇——
迎えた当日。
王都エメラフィールの城下町は見渡す限りの熱気と色彩に埋め尽くされていた。
軒を連ねる賑やかな出店からは香ばしい煙が立ち上り、大道芸人たちが披露する華やかな演舞に子供たちが歓声を上げる。各地から押し寄せた観光客で、大通り多くの人でごった返していた。
通りの要所には遊軍調査部隊や騎士団本隊だけでなく、普段は後方支援や兵站を担う部隊の姿までもが配置されていた。
不測のトラブルを防ぎ、民の安全を確保するための厳戒態勢
この催しがどれほど重要な意味を持つかが肌で伝わってくる。
やがて、広場を包む喧騒が潮が引くように静まり返り、開催の刻限が訪れた。
王城のバルコニーに姿を現し、この世紀の祭典の口火を切ったのは……。
「此度の祝祭に集いし民たちよ!まずは全足を運んでくれたことを心より感謝する!」
エレミーテ王国の頂点に君臨する絶ルーフェン国王陛下であった。
その威厳ある姿のすぐ傍らには可憐な凛々しさを湛えた第一王女であるセレーヌ様やシュナイゼル団長が並び立ち、眼下の民衆を見守っている。
国王陛下は深く息を吸い込むと、腹に響く隆々とした声で言葉を紡いでいく。
「今年はエレミーテ王国にとって……いや、この世界に生きる者にとっても、歴史に刻むべき誇らしい奇跡が成し遂げられた年であった!魔王を倒し、真の意味で新たな歴史を刻み、長きにわたる絶望の夜を明かしたのは誇り高き騎士や勇者たちだけではない。各地で汗を流す冒険者、今日を必死に生き抜いた一介の民に至るまで、正義を信じて戦い続けた、国民の存在があったからこそだと私は確信している!」
静まり返る広場にその声だけが果てしない彼方まで突き抜けんばかりに通り抜けていく。
「故に伝えよう!これから先にどのような試練がこの国を襲おうとも、それを乗り越え、更なる平和を築くのは……一人一人が抱く強く正しい意志であり、互いを支え合う心であると!この祭りは我らが勝ち取った平穏の尊さを刻み、共に向むべき未来を確かめ合うためのものだ!」
ルーフェン国王陛下は拳を力強く握り締め、広場を埋め尽くす群衆へとその視線をまっすぐに投げかけた。
「我が民よ!時代を、人生を切り拓くのはいつだって人の心の強さだ!守るべき尊き者と己の矜持を抱き、より強き意志を持って新たなる時代を進むのだ!」
「「「「「オォオオオオオッ――――――!!!!!」」」」」
高らかに放たれた国王陛下の言葉に応えるように、地鳴りのような歓声が王都の空を揺らした。
天を突かんばかりの万歳と喝采の中にある民たちの瞳には未来への希望の光が爛々と輝いている。
地響きのような大歓声と共に、新時代を祝う真の意味での祝祭が幕を開けた。
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