第115話 【Sideシャーロット】激戦の跡
「……っ、あれは?」
魔王軍の幹部の一角であるメルミネとの戦いを制した私は突如として凄まじい爆音のした方角へ咄嗟に視線を向ける。
そこには天をも焦がさんばかりの爆炎の赤、水流の青、雷鳴の黄、そして烈風の緑が重なり合った巨大な魔力の渦となって吹き荒れていた。
「あの魔法……多分ロリエね」
今いる状況や事情を鑑みれば、それができるのは彼女しかいない。
私がメルミネとの戦いを強いられて分断されたことで、押し寄せる魔族や魔物の軍勢を食い止める要は間違いなく彼女だからね。
戦況を塗り替えるだろうあの一撃はロリエの優勢を物語っているようにも見えるが、その反動は計り知れないはずだ。
万が一、魔力切れを狙われたら……。
「一刻も早く合流しないと」
私は迷わず懐から外傷用のポーションを取り出し、受けた傷に惜しげもなく振りかけると、ひんやりした感触をもたらしながら傷口を塞いでくれる。
続けて魔力回復ポーションの瓶を数本、一気に煽り捨てた。
胃の奥から染み渡る冷たい活力が疲弊した身体を癒してくれる。
「よし、行くか!」
私は気持ちを切り替え、ロリエたちの下へ駆け出した。
◇———
「こ、これは……?」
メルミネを下した私は休む間もなくロリエたちの持ち場へと駆け戻った。
そこで目にしたのはすでに形を変えている荒野だった。
焦土の臭いが鼻腔を突き、熱を帯びた風が戦場の幕引きを告げている。
「ギィ、イ……」
「ぐ、うう……っ」
地面にはすでに虫の息となった魔族や魔物、キメラたちが無惨に倒れている。
「おう、シャーロットか?」
「ジャード。ロリエ!」
疲労困憊気味なジャード、魔法杖に縋るようにして片膝をついているロリエだった。
彼女は肩で息をするように疲弊しており、額からは滝のような汗が流れていた。
フォーペウロの騎士団も自力で立っている者もいれば、今すぐ手当てをしなければ手遅れになりそうな重傷者までおり、被害の全容は一目では把握しきれない。
「ロリエ、ジャード!無事なの!?」
「……ああ、見ての通りだ、死んじゃいないさ」
「なんとかね。……少し、魔力を使いすぎたわ」
二人は平静を装って応えたが、その表情には隠しようのない疲労が張り付いている。
特にロリエの消耗は深刻であり、顔色は土色に近い。
私はすぐに懐から未使用の高純度の魔力回復ポーションを取り出し、彼女に差し出した。
「これを。……無理したわね、ロリエ」
「……ありがと」
一気にポーションを煽ったロリエの肌にわずかだが血色が戻る。
私は遠目から見た魔法の一撃について確認せずにはいられなかった。
「ロリエ、さっきの……もしかして、ルナティック・バーストを撃ったの?」
「……ええ。それしか一気に片付ける方法がなかったから」
やはりか、と私は納得した。
ルナティック・バーストはロリエが操る魔法の中でも一、二を争う広域殲滅魔法だ。
炎と水、風と雷、四種類の属性を複雑に絡み合わせ、魔力の奔流として解き放つその威力は一帯を壊滅させる。
しかし、膨大な詠唱時間と常人なら確実に意識を失いかねないほどの魔力消費が大きな欠点であり、熟練の魔術師であっても、一歩間違えれば自らの魔力回路を焼き切りかねない諸刃の剣だ。
「初めて習得した時よりは、詠唱時間を短縮できたつもりだけど……。やっぱり、堪えるわね」
「気にするな。そのための時間は、俺が稼いだんだからよ」
ジャードが誇らしげに鼻を鳴らした。
彼ほどの前衛がいなければ、確かにあの長大な詠唱を完遂することなど不可能だっただろう。
その場で使えるならばともかく、長めの詠唱を必要とする魔法は誰かの守備や庇護がどうしても必要となるからだ。
「ええ……ジャードや騎士団のみんなには感謝してるわ。一人じゃ到底無理だった」
「そりゃどうも。……だが、俺の方もこの有様だ」
「あれ?ジャード。その盾?」
「ああ、これか?」
ジャードが掲げた盾を見て、私は息を呑んだ。
ミスリルを贅沢に使った彼の愛盾は長年の旅や戦いを共にし、どんな魔物の一撃も跳ね返してきたはずの防具が今は至るところに亀裂が入り、縁は無惨にひしゃげている。
かろうじて形を保ってはいるが、あと一撃重いものを受ければ、粉々に砕け散っていただろう。
「メンテナンスどころか新調だな。……こいつにはよく守ってもらったよ」
「……そうね。本当にお疲れ様、ジャード」
激戦の重みを物語る盾を私は静かに見つめた。
ふと、ロリエが私の顔を覗き込むようにして問いかけてきた。
「あっ、そうだ。シャーロット。あんたがここにいるってことはメルミネを倒したってことよね?」
「ええ」
ロリエからの質問を受けると、私は余すことなく事実を伝えた。
「……そう。流石ね。あの魔王軍幹部を単独で仕留めるなんてさ」
「何にしても大したもんだ。流石は俺たちのリーダーだよ」
二人の称賛は素直に嬉しかったが、心の中では冷静な分析が続いていた。
メルミネは確かに強敵だったけど、彼女は魔鞭という外付けの力に依存しすぎていた。
あの力を手に入れたことで得た全能感が慢心を招いたんだと思っている。
パワーアップをしたと言っても、かつてやり合った魔王軍の幹部の一角であったギルダス並みかそれに近い程度だったし、技量も熟練者と呼ぶには拙いところも多かった。
もし彼女がベテラン戦闘者のような戦闘技術や経験も備わっていたら、私は大いに苦戦していたかもしれない。
あえて勝因を挙げるなら、それは技術とセンス、そして何より自分自身の力を信じて磨き続けた積み重ねの差だったのだと思う。
「……そうだ。ゆっくりしている暇はないわ。バアゼルホが心配よ。リュウトやメリスたちがどうなっているか……」
「そうね。あっちには別の幹部が向かっているはず。急いで戻りましょう」
「ああ、動ける連中をまとめてすぐに出発だ」
魔族の軍勢を退け、幹部の一人を討ったけど、まだ本当の安堵は訪れていない。
これ以上の戦闘はないと判断した私たちは早急にバアゼルホへ帰還する手筈を整えていくのだった。
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