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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第三章 魔王軍との戦い、本当の意味での死地へ

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第114話 【Sideシャーロット】積み上げたモノの差

シャーロット VS. メルミネ、決着です!

「何が……おしゃべりは終わり。……よ?はははっ……」


 私と相対するメルミネは手に握る魔鞭に力を込めながら呟く。

 虚無感を抱かせそうな渇いた笑い声を発した次の瞬間。


「あたしを馬鹿にしてんじゃないわよ!」

「ッ!?」


 地面を蹴る音さえ置き去りにして、激情に身を委ねるようにメルミネが魔鞭を激しく振るいながら突っ込んでくる。


「ハァアアッ!」

「フンッ!」

「なっ?」

(受け止めるより、躱す量が増えている?こんな短時間で?)


 大気を引き裂く爆鳴音が耳元で轟けど、不思議なほどに私は冷静でいられた。

 見えている。いいえ、感じ取れるわ。


 メルミネが魔鞭を振り回すたび、私はその軌道を紙一重でかわしていく。

 最初は暴風のようなこの質量と速度の一撃を受け止めるだけで精一杯だったはずだけど、今となっては受け止めたり流したりするよりも回避する比率が大きくなっている。


「このおぉおおおッ!」

「ふんっ!」

「ぐぅ、うっ!?」


 やけくそ気味に振り下ろされた縦の一撃を私は上半身を引き締めたままに斜め前方へ飛びながら回避し、その死角へと入り込んだ。

 岩をも砕くはずの破壊力が私の髪をわずかに揺らして背後の岩が砕け飛ぶ。

 その驚異的な威力に対して、私は本当に少しだけど、恐怖を感じなくなっている。


「この———」

「ハァアア!」

「ガッ!クソッ!」

「フッ!」

「ぐぁああっ!」


 懐に入った私はメルミネの身体を斜め下から肩にかけて斬り裂く。

 続けて、魔鞭が真横から回帰してくるよりも早く、私は全身のバネを利かせた回し蹴りを彼女の顔面に叩き込んだ。

 ゴォン、という重苦しい衝撃音と共にメルミネの身体は数メートル吹き飛び、荒野の岩壁に激突して土煙を上げた。

 戦況の流れがここまで私に傾いているのは自分でも分かっているつもりだけど、これには当然、理由がある。


「……覚悟しなさい、メルミネ」

「何で……?あたしが……幹部のこのあたしがどうして……っ!」


 岩壁を背に這い上がるメルミネの顔には隠しようのない焦燥と信じがたいものを見たという困惑が張り付いている。

 私はエクスカリバーを青眼に構え、自らの内側に眠る魔力を静かに、けれど激しく昂らせていった。


「理由があるとするなら……積み重ねてきたものの差。……かしらね」

「なっ?」


 私は自分の中で確信に変わった結論を口にした。

 人間や魔族には知性があり、魔物も少ない方だけど、それを兼ね備えている個体も確かにある。

 重心の沈み込みや呼吸のリズム、空気中に漂う魔力や大気の震え、攻撃時における特殊な仕草など、攻撃を始めとするアクションを取る時には予備動作を見せる。

 かつての私はその才能と使命感にのみ頼って剣を振るっていた時もあったけれど、リュウトが仲間になって以降、彼からレンジャーならではの知識や知恵を共有されることもあり、時には戦闘で活かそうとする機会があれば積極的に試した。

 私はそれらを一つひとつ、実戦の中で血肉へと変えてきたのだ。

 自慢に聞こえるかもしれないけれど、リュウトと背中を預け合って戦うようになってから私は自分自身が驚くほどに強くなれたと断言できる。


「このぉおおおおおっ!!」


 メルミネが弾け飛ぶように突っ込んでくる。

 振るわれる魔鞭の最初の一撃がどこを通り、次の一振りがどの角度から来るのか、今の私には繋がった光のようにはっきりと見えていた。


「行くわよ」


 私も地面を蹴る。

 エクスカリバーで魔鞭の袈裟を弾き、続く頭部への狙撃を最小限の首の動きだけでかわす。


「トドメよ!」

「あっ……!?」


 私が右手に握るエクスカリバーを構えた瞬間、メルミネの瞳に驚きと絶望が入り混じったような表情が張り付く。

 彼女が抱いていた偽りの万能感が音を立てて崩れ去る。


「天聖連貫!」

「ぐぎゃぁああああああっ!」


 放たれたのは一秒間に数十回にも及ぶ、超高速の連続突き。

 それは雨のような勢いでメルミネの身体中の急所を容赦なく滅多刺しにしていく。


「がぁ……、あぁあ…………ッ!!」

(ダメだ……)


 絶叫すら残光に飲み込まれ、メルミネの身体は糸の切れた人形のように地面へと崩れ落ちた。

 仰向けに倒れた彼女の手からあの忌まわしい魔鞭が滑り落ちる。


「フンッ!!」


 私は地に落ちた魔鞭に向けてエクスカリバーを振り下ろした。

 魔力の連結が断たれる嫌な音が響き、血管のように拍動していた魔鞭は風に吹かれた簡素な砂のお城のように儚くも消え去った。

 これでメルミネが強化していた魔族や魔物たちの勢いが衰えてくれるといいんだけど……。


「私の勝ちよ。メルミネ」

「……」


 倒れたまま肺を喘がせることしかできない彼女に対し、私は静かに告げた。

 致命傷を受けた彼女の指先からボロボロと崩れ始めている。

 魔族としての再生能力も、もはや機能していない。


「……何で……あたしが、こんな……」

「あなたは魔鞭の力を自分の実力だと勘違いしすぎたのよ」


 私は彼女の虚ろな瞳を見据えて言葉を重ねた。


「強くなった気になって、楽な道ばかりを選んだ。自分を磨くことを忘れ、道具に頼り切り、その性能に甘んじた。だから本当の窮地で、ここぞって時に競り負けたのよ」

「ッ……!?」


 核心を突かれたのだろうか、メルミネの瞳が大きく見開かれた。

 魔鞭は確かに強力だった。

 自分を強化し、痛覚を消すその力はこれまでの彼女を無敵だと錯覚させるには十分だったはずだ。

 けれど、どんなに強力な武具であっても、使い手の精神と技量が伴わなければ、その力は引き出せない。

 私やリュウトが持つ神武具だって、それが持つ性能に甘えているだけの人には絶対に使いこなせない代物だ。

 それを知っているからこそ、日々、自分を磨き続けてきた。


「あっ……そう。……そうかもね……」


 半ば自嘲気味に、メルミネが小さく頷いた。

 身体が霧散していくペースが加速する。

 もう、一分ももたないだろう。

 彼女の視線は魔王城のある方角へと向けられていた。


(……こんなことになるんだったら、ちょっと面倒だとしても、バリオルグ様にもっと厳しく稽古をつけてもらえばよかったわね。……ふふ、今さら遅すぎるわ……)


 魔王軍幹部のメルミネ。

 彼女の最期の思考が誰に向けられたものだったのかは分からないけれど、静かな後悔が宿っていた。

 そして、彼女は完全に消滅した。

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