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誤字報告、ありがとうございます。
参考にさせていただき、言い方をかえました。
「違います!私は、そんなことしていません」
イリアナは喉の奥から叫んだ。
「記憶を移す水晶は術者の魔力が籠められている。グラントール侯爵令嬢、君があの時まで身につけていたブレスレットには私の魔力は籠められていない。私の魔力が籠っているブレスレットをしている時点で、君が盗んだということだ」
イリアナは唇を噛みしめて必死に言葉を探しているようだった。
「私はアルテナにそんなブレスレットを贈っていないよ。黒曜石のネックレスをあの時は準備した。見事に餌に食らいついてくれたから、面倒な芝居をしなくて助かったけどね」
ハウエルの言葉で嵌められていたことにイリアナは気がついた。どうにも覆そうにない状況に縋るように回りを見渡す。
目を合わせない両親。
辛そうに視線を反らすアルテナ。
睨み付けているハウエル。
そして、回りからの冷たい視線。
「騙していたということ?」
「アルテナ様は、意地悪をされていなかった」
「意地悪をされていたのは、イリアナ様」
「盗人」
囁かれるのはイリアナが言われたことのない言葉。もう頼れるのは、一人しかいなかった。
見てくれていないけど、きっと助けてくれるはず。
一縷の望みをかけて呼ぶ。
「お、かあ、さま」
その人はびくりと体を震わせて叫んだ。
「わ、わたくしは、何もしておりません」
イリアナは目の前が真っ暗になるのを感じた。
「黙れ」
国王は力なく項垂れているイリアナと無実を叫ぶ侯爵夫人を無情な目で見ていた。
「イリアナを唆した者がいるのは分かっていた。それが、そなたなのか、そなたの情夫なのか、証拠を探しておった」
侯爵夫人はそれでも取り繕うと必死に言葉を紡ぐ。それがどれだけ回りに醜悪であるかを見せているとは思わずに。
「アルテナの母は我の従姉妹だ。水晶の魔法が使え、その遺品からイリアナが魔物を呼び出したことは分かっておった。
まだ幼きゆえとグラントールの血を引いていたため、更正をと思っておったが」
無駄であったか。
その言葉で二人の将来が決まった。
イリアナと侯爵夫人は兵士に引きずられて行くが、イリアナはされるがままに侯爵夫人はわめき声をあげながらであった。
「グラントール侯爵、そなたには謹慎を命じる。処分が決まるまで屋敷におるがよい」
侯爵が礼をとって退出していく。
アルテナは、去っていくその背中に何を言えばよいのか分からなかった。
「さて、皆のもの、我からの話は終わった。今宵を存分に楽しんでくれ」
国王の言葉で音楽が流れ出す。
ホールには何事も無かったように踊り出す人々。
「アルテナ」
ハウエルに導かれて、アルテナは小さな部屋に連れていかれた。
「遅くなって、すまなかった」
アルテナと向かい合ったハウエルが頭を下げてくる。
何のことか分からなかった。
「辛かっただろう?嫌がらせを受けて。あんな悪意を向けられ続けて」
早くどうにかしたかった。
抱きしめられて、耳元で呟かれて、ずっと心配してくれていたのを知った。
「どうして」
思わず溢れてしまった言葉。
もう忘れられていると思っていた。
もうどうでもいい相手だと、見捨てられたと思っていた。
なのにそんなに思ってくれていたの?
「すまない。本当はずっと側にいたかった」
抱きしめる力が強くなる。
その温かさにアルテナの目から涙が溢れた。
「私を嫌っていらっしゃったのでは?」
蜂蜜色の髪をした女の子は消えてしまった。
緑色の瞳を持つ女の子は消えてしまった。
代わりに現れたのは、魔王と同じ白い髪と赤い瞳を持つ少女。
「何故?」
今度はハウエルが聞く番だった。
「私の髪と瞳は・・・」
体を少し離し、ハウエルはゆっくりとアルテナの白い髪を見て赤い瞳に視線を移した。
「私は好きだ。その髪も瞳も。ただ・・・」
苦しげに呟かれた言葉がとても気になる。
「ただ?」
「色が変わるような辛い苦しい思いをさせてしまった。それでも生きていてくれてよかった」
ハウエルの額が剥き出しの肩に当たる。
「アルテナは嫌いなのか? とても綺麗だ。」
ハウエルの体温を感じて、冷めた熱が戻ってくる。
「私は私の髪と瞳の色が嫌いだ。贈りがいのない色だ」
ハウエルの髪は黒で、瞳は藍色だ。
とても綺麗な色なのに何故? と首を傾げる。
「濃いサファイアは中々手に入らないし、黒ではドレスを作りにくい」
クスクスとアルテナは笑ってしまった。
ハウエルがそんなことで悩んでいるとは思ってもいなかった。
「そうやって、笑っていてくれ。」
ゆっくりとハウエルの顔が近づいてくる。
アルテナは瞳を閉じて、ハウエルの唇を受け入れた。
極秘のことだが、グラントール家は魔王の血を引いている。
魔王を復活させないため、聖女と勇者の子孫である王家の血を引く者を伴侶にしなけばならない。
反対にグラントールの血を王家に混ぜてはいけない。魔王の血を聖なる王家に嫁がせてはいけない。
本来なら、イリアナは生まれてはいけない子供。侯爵は気を付けていたはずなのに生まれてしまった子供。
イリアナは王家の血を引かぬ者から生まれた魔王の血を持つ娘だった。
「ハウエル、けして気取られてはならぬ」
「はっ、父上」
「魔王を甦らせてはならぬ」
「・・・・・」
「お主がイリアナを気に入っておったのは知っておった。だが、彼女は魔王になれなかった」
「分かっております」
去っていく男を見送りながら、ハウエルはニヤリと笑った。
実をいうと、どちらでもよかった。
だか、最良のほうが手に入った。
孤独だった者はトロトロに甘やかせてやれば、最低まで堕ちてくる。
時間をかけ、甘やかし、依存させ、離れられなくさせよう。
そうして、突き放した時の絶望はいか程のものだろう。
まずは甘い言葉で攻め落とそうか。
幸せ両親???何故こうなる???疑問だらけです。
お読みいただき、ありがとうございますm(__)m
息子夫婦の話は、今書いているのがある程度メドがついたら、頑張りたいと思います。
短編予定のコレがこうなってしまったので、代わりに正反対の雰囲気でと書いたのがアレです。アレも結局、連載になりました。