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仲裁屋の小吉  作者: 生クリーム
1/8

大美村の裕三と誠三

何とか試行錯誤しながら自分なりに書いてみます

「あんた達二人とも出ていきなさい!もういらないわ!」



夕暮れ時、村の役場から帰って来た母ちゃんの怒声がシーンと静まりかえった広大な、山々に響きわたった。



「毎日、毎日喧嘩ばかりして!!仲直りの滝まで行って頭を冷やして来なさい!!」




そう言って母ちゃんは僕たちを外に残して家の扉を乱暴に閉めた。




僕たちは家を追い出された。

それも街灯など一つもない、山の麓にだ。

暗くなれば辺りは一面、真っ暗闇に変わる。

何も見えないだけじゃない。山の夜というのは野生の動物が出没し放題である。

部屋の中で眠っているだけでも、たまにガサガサガサって明らかに何か生物が家の回りにいるだろって分かるくらいなのに、母ちゃんはそんな危険な場所に僕たちをほうりだしたんだ。

しかし母ちゃんがそれだけ怒るのも無理はない。

僕たちはあれだけ家中をめちゃくちゃにしたのだから。






都会から遠く離れた、山奥に一つの村がある。

大美村。

高くそびえ立つ大美山を中心に、大美湖や、大美の滝など、沢山の美しい風景に囲まれたこの村は都会の生活に慣れた人々をまるで別の国に訪れたかのような幻想的な世界へと誘い、訪れる人々を優しくリフレッシュさせてくれる素晴らしき村だ。

そんな素晴らしき村に生まれた僕からしてみれば、

そんなものはどうだっていい。

僕の家は村の中心に構える大美山の麓にポツンとあり、まるで大美山の門番かというような立ち位置にある。まあまったく関係ないんだが。村の中心に家があるからといって交通が便利かといえば決してそうじゃない。僕にとってこの村が嫌なのはお菓子を食べたくても買い置きしていなければわざわざ車に乗ってなぜか村の端に位置する小さな商店街までそれなりの時間をかけて行かなければいけないし、友達と遊びたくても一番近くに住んでいる友達の家が歩いて一時間もかかる所にあれば誰だって遊ぶのを諦める。

学校は毎朝父の車で30分近くかけて行くので、もし学校に着いてから忘れ物に気づいた日にはもはや手遅れだ。諦めるしかない。

都会の人にとっては幻想的で、たまにこういうところに来るからこそ、心がリフレッシュされるのかもしれないが、毎日ここにいるものからしてみればただの何もない場所、すなわち不便でしかない。

そんなところに、しかも夕暮れ時に、家から追い出されるということが、どれだけのことか分かるだろうか。






僕、伊方裕三とその弟、伊方誠三は、先ほどド派手な兄弟喧嘩をやってのけた。

家の窓はひび割れ、椅子は転がり花瓶は倒れて中から花と水が床に散乱している

ガラスが細々とちりばめられとても素足では歩けない。

何も知らずにこの光景を見た人は、果たしてこれを中学三年生と、一年生の喧嘩の跡に思えるのだろうか。

僕たちだってびっくりした。喧嘩をしている時は熱くなり過ぎてまさかこんな風になっているとは思いもしなかった。



「……裕三のせいだからな……」







「言っておくけど僕は仲直りの滝に行ったって絶対に謝らないからな」




僕が悪い訳じゃない。悪いのは誠三だ。





「こっちだって謝る気なんか全然ないからな!!」





そう言いながら歩き出す僕たち。足取りは重い。

昼間は生い茂る葉達を沢山蓄えた木々の隙間からチラチラと覗かせる太陽の光で道を照らし、とても綺麗でまるで光に導いてもらっているかのような、不思議な体験を出来るが今は違う。

無駄に強い風が木々を揺らし、何をしに来たんだと言わんばかりの恐ろしい音を立て、夜の訪れを告げるカウントダウンかのように薄暗くなっていく空の色が、一層の恐怖感を掻き立てる。



「仲直りの滝」というのはこの山の麓にポツンと置かれた僕の家から真っ直ぐこの大美山を登っていき、

人気をまったく感じさせない山奥に続くまるで迷子になる為だけに作られたような無理矢理の道を進んで行けば突然現れる。

まあそこにたどり着くまでには一歩でも足を踏み外せば崖からまっ逆さまのような場所や、明らかにさっきここにいただろうと思わせる野生動物のふんが

散乱している場所だったりがあったがそんなものには慣れっこな僕たちは何も気にせず進んでいく。

そして出てきたこの大きな滝。

本当は大美の滝という名前がついているが村の人はみんな仲直りの滝と呼ぶ。

なぜそう呼ぶか。それは簡単だ。

僕たちが反省の場所として使うからだ。

小さい頃から誠三と喧嘩しては母ちゃんにここに連れて来られた。

それを知った村の誰かが面白半分にそうつけたらしい。

そんな軽い気持ちでつけた名前が今や村中に浸透しているのを聞くと、果たしてこの村が広いのか狭いのかよく分からなくなる。





「俺、今日はいいわ」

おもむろに服を脱ぎ捨て、入水の準備を始める誠三を尻目に僕は適当な岩に腰をかける。

薄暗い森の中に豪快な滝の音が鳴り響く。ひんやりとした空気はいつまでも止まることを知らない滝の水しぶきが運んでくるものだろう。



「何でだよ!母ちゃんに怒られるぞ!」



誠三が僕に怒鳴りつける。




「母ちゃんは頭を冷やして来いって言ったんだ。俺はもう充分冷えたよ」




「……母ちゃんに言いつけるからな……」




誠三はそう言って渋々パンツ一丁になり、滝の中へと向かって行った。

それをニヤケながら見る僕。


「……ふんっ、ガキが」



滝に打たれたからって何が変わる?

頭を冷やしたからって何が変わる?

母ちゃんに良いように言いくるめられただけじゃないか。

これだからガキは嫌なんだよ。

最近自分が大人になったのか、誠三のガキっぷりが際立っている気がする。

今日の喧嘩の原因だってそれだ。

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