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ドッペルゲンガーは死んでいる  作者: アオトユリ
第一章「高橋颯太」
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第十四話「結末とその先」

 早朝、寝室にて、俺は目を覚ました。

 朝の冷えた空気が俺の肌を纏わりつく。

 もっと寝たいところだが…今日はそうは行かない。

 ぼやけた目を擦り、横を覗く。

 颯太がいない。

 まさか…いや、それはないか…

 小さめながらテレビの音が聞こえている。

 リビングだな…

 俺は一度起き上がった。

 寝室を見回し、言ノ葉はまだ寝ていることを確認する。

 やっぱり、颯太か。

 俺は、ゆっくりとリビングへ足を運んだ。

 「早いな、颯太」

 ソファーに座り、颯太は真顔でただテレビを眺めている。

 俺が起きたことに気づいた颯太は、一度俺の方に顔を向けた。

 「…まあな」

 そして、またテレビの方に視線を戻した。

 …落ち着いてるな。

 …朝だしそんなもんか。

 俺は、無言で颯太の横に座る。

 ふと、颯太の横顔が目に映った。

 それは静かな雰囲気を醸し出す、真剣な顔で、遠目では気づかない緊張感が俺にも伝わってきた。

 それはテレビの番組がそういうのだからとか、そんなのじゃない。

 今日、覚悟を決めた、颯太の真剣そのものなーー男の顔だった。

 「颯太、朝一で行くぞ」

 「…分かった」

 ただ一言、颯太は小さい声で呟いた。

 そしてそれ以上、無駄な言葉を交すことはなかった。

 


 しばらくして、言ノ葉も目を覚ました。

 俺はソファーを立つと、軽く手伸びをする。

 「そろそろ朝飯作るかぁ」

 朝飯に反応したのか、言ノ葉が口を開いた。

 「今日はなんですか?昨日のクソマズとは違うのでお願いしますよぉ〜」

 寝起きの低い声で言ノ葉は呟いた。

 昨日のチキンライス…まだ根に持ってんのかよ…

 「パン焼いて、ウィンナー乗せたんでいいだろ。面倒くさいし、」

 「安直すぎません?」

 「そんなもんだ」  

 「…はいはい、分かりましたよしょうがないよなぁ〜」

 そう言った言ノ葉の顔は不機嫌そのものだった。

  



ーー数時間後、ついに病院へ向かうときが来た。

 

 「ねえ、なんで置いていくんですか?酷くないですか!」

 何も知らない言ノ葉は置いていくことにした。正直邪魔だ。

 顔を膨らませて睨んでくる言ノ葉を裏目に、俺達は玄関のドアを閉め、外を歩き始めた。

 「とりあえず、駅まで行くぞ」

 「ああ、分かってる」 

 颯太の顔が少し曇る。

 そういえば、千夏との思い出の場…だったか…

 「なあ、公園、よっていくか?」

 そう言うと、颯太は少し考え込み、口を開いた。

 「少しだけ…」

 ちょっとくらい、時間が欲しいだろう…颯太にとって、それほど重要なことだ。


 それから、また沈黙の時間が始まった。

 無心で歩く中、ついに公園が見えてきた。

 「…千夏」 

 颯太は公園に入ると、一直線にベンチに向かった。

 颯太はただベンチを眺め続けている。

 掛け替えのなかったその一瞬を、思い出している。

 ここで俺が口を挟むのは悪いだろう…

 何気なく辺りを見回す。

 そして、近くの自販機に目が入った。

 なんか、買うか…

 俺は自販機の方へ歩いた。

 並ぶ飲み物を見ると、普通のと大して変わらないラインナップ。

 あいつ、ブラック飲めるのか…?

 まあ、いけるだろ。

 俺は温かいブラックコーヒーを2缶買って、颯太の元へ戻った。

 「…これ、やるよ」

 俺は自然にブラックを差し出す。

 「…俺、飲めねえよ、ブラック」

 完全な失態だった。

 まさか飲めないとは… 

 「すまん。じゃあ、もう一つなんか買ってやるよ」

 「いや、そこまでしなくても…」

 「いいんだ。好きなの選べ。まあ、あんまいいのなかったけどな」

 「…ありがとう」

 

 結局、颯太にはカフェオレを買ってやった。


ーーそれから電車に乗り、数十分。ついに街中まで辿り着いた。


 もう少しで病院…か。

 覚悟、決めないとな。

 まあ、もう決まってるか。

 「颯太。いいな」

 「…ああ」

 一歩一歩、その足取りは俺達に緊張感を与えた。歩くたび近づくその圧迫感。立ち止まりたくなるほどの恐怖。それは近づくたび、どんどん増していった。

 

 そして、病院の前で俺達は、足を止めた。

 「颯太、準備…出来たか?」

 「…頼む」

 たった一言、でもその一言には、颯太の彷徨い続けたこの5年間、全てが詰まっているような、そんな重みがあった。



 「行くぞ…」

 俺は病院に入ると、一直線に受付へ向かった。

 勿論、俺以外に颯太を見える者はいない。でも、颯太はついてきた。俺の横をぴったりと

 「…おばさん」

 横で颯太が呟いた。話していた知り合いはこの人か…

 知らない人じゃないだけ、本当に良かった。

 横目で一瞬颯太の顔を伺った。

 …大丈夫そうだな。

 颯太の顔はまだ、しっかりと覚悟の伝わる固まった顔だ。

 「…あの、すみません」

 俺は、受付のおばさんに話しかけた。

 「はい、なんでしょうか?」

 返事が返ったその瞬間、心臓の鼓動が速まった。 

 手足が震え始めた。

ーー俺は今、緊張してるんだ。

 俺まで緊張してどうする…俺は颯太を引っ張らなきゃいけないのに…なんで俺まで…くそ…

 唇が震える。これじゃ俺が怖いみたいじゃないか…

 一度目を閉じて、落ち着こう。そうだ。少しだけ、深呼吸を…

 簡単に鼻で、丁寧に呼吸を整える。

 そして、口を開く。

 「…神崎深冬の知り合いで、ここに入院していたと聞いて来たのですが…その後のことが分からなくて…」

 そう言うと、受付のおばさんは驚いた顔をした。

 当然だ。5年も前のことなのに、そんなことを急に言われて驚かないほうがおかしい。

  


ーー受付のおばさんの顔が真剣な趣に変わった。

 それと同時に、また緊張が走る。なんだその顔…もしかして…深冬はーー

 そんな考えが脳裏によぎった。

 やめろ…もっとポジティブにいけ…緊張するな…考えるな…考えるな…

 前を向け…俺。

 そして、俺達を待たないように、受付のおばさんは口を開いた。

 「深冬ちゃんはーー」

 




ーー「ご退院されましたよ」



 自然と涙が溢れ出した。

 「本当に…?」

 「はい、ご退院されました」

 「ドナーが…見つかったんですか?」

 「…はい、奇跡的に見つかったんですよ」

 「それは本当に…うれしい限りで…」

 俺はそのまま泣き崩れて、しゃがみ込んだ。

 周りの人達狭全員が、俺だけに視線を向ける。

 それほどまでに俺は大泣きした。

 焦って受付のおばさんが「大丈夫!?」と声をかけてくる。でも、俺に気遣いする余裕などない。

 涙でぼやける視界の中、俺は颯太を見つめた。

 颯太はただグッドと右手を向けて、笑顔をしている。

 涙でぐじゃぐじゃの顔。でもその顔は全てが解放された。そんな綺麗な笑顔だった。

 「良かった…ほんとに…良かった…」

 俺は深冬や千夏と直接的な関わりはない。でも、それでも俺は、ひたすらに喜び、涙する。颯太の今までの罪悪感と恐怖ーーその全てが解放されたこの瞬間をただひたすらに…





ーーこの瞬間は始まりに過ぎない。高橋颯太の未練はここで終わりじゃない。きっと俺達はこれから深冬を探す。そして俺が伝えてやるんだ。お前の思ったこと、言いたかったこと。この5年間の思いーーその全てを。

 

 だから颯太、今はただ喜んでーー

 ついに第1章のクライマックス直前になりました!

 ここまで意外と長かったですが、お付き合いくださり、本当にありがとうごさいます! 

 正直ここで第1章を終わりにしてもいいのですが、ちゃんと颯太未練解決まで書き切りたいと思います。

 まだまだ至らない点も多いですが、楽しんで頂ければ幸いです!

 もし宜しければ感想なども宜しくお願いします!大きな励みになります!

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