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第9話「二者択一」



「別にね……。私は怒っているわけではないのよ?」



 概ね。こう言う人は大抵、怒っているものである。



「だってね? 私、全然怖くなんかなかったのよ。

 だから、あの程度の映画を騙されて見せられたところで怒るほどの価値も無いっていうのが正解なのよね!

 グスン……」



 しかし、あらためて雫の顔を見ると確かに彼女が怒っているようにはまったく見えない。


 いや、だってメッチャ泣いているし……。



「し、雫……ゴメンね?

 俺が全面的に悪かったよ。謝ります!

 謝るからさ……ほら、この通り土下座だってしちゃうよ?

 だから、泣き止んでくれないかな……?」


「バ、バッカじゃないの歩!?

 一体、この『学校一の美少女』である私のどこが泣いているように見えるのかしら……?

 グスグス……

 こ、これは、ただのタンパク質とリン酸塩などを含んだ弱いアルカリ性の液体を垂れ流しているだけなんだからね!」


「雫……人はそれを『涙』って言うんだよ?

 ほら、僕のハンカチを貸してあげるから涙を拭いて?」


「うぅ……グスン! か、貸しなさい!

 ありがたく使ってあげないこともないわ!

 もう、目がグチャグチャに――へ、ヘクショーイ!」


「僕のハンカチぃいいいいいいい!?」



 十分後……。



「それで、雫。顔は洗ってスッキリしたかな?」


「ええ……って! べ、別に、これは泣きすぎてグチャグチャになった顔をトイレで洗ってスッキリしたわけじゃなくて――そ、そう!

 私はただ、長い映画の上映でトイレを我慢していたから、今ようやくトイレに行けてスッキリしたという意味なわけで……け、決して、私は泣いてなんかいないんだからね!」


「…………」



 彼女は『自分が泣いてない』ことを証明するために、女性……ましてや『学校一の美少女』として、何か大事なものを犠牲にしてしまったことに気付いてないのだろうか……?



「そ、そう……それはよかったね?」


「ええ、とってもスッキリしたわ!」



 映画を見終わった後、雫は恐怖のあまり足腰が立てなくなってしまっため、僕は謝罪の意味も込めて雫を引きずって近くのファミレスに立ち寄ったのだ。


 まぁ、ここで休憩していれば、雫の機嫌もそのうち良くなるだろう。



「それより、歩。私はとっても喉が渇いたわ!

 だから、貴方にはこの私の飲み物をドリンクバーから取ってくる栄誉をあげるわ!

 この『学校一の美少女』である私のドリンクを持ってこれるんだから、感謝しなさいよね!」


「はいはい……種類は何がいい?」



 仕方ないので、ここは謝罪の意味も込めて大人しく従うとしよう。



「そうね……。私と言ったらこの艶やかな黒髪がチャームポイントでしょう?

 だから、それに見合う黒くて美味しい飲み物……『コーラ』を所望するわ!」


「了解~」



 因みに、何故かここの会計は僕持ちということになっている……。


 おかしい、僕が一体何をしたと言うのだろうか?



「……あれ? そう言えば雫の言ってた飲み物なんだっけ?」



 ヤバイ、適当に聞いていたから忘れてしまった。


 しかし、戻って聞き直すとまた『この私の話を聞き流すってどういうことよ!』とか、ゴチャゴチャ言われそうだしなぁ……。



「確か『この腹黒い黒髪が』ナントカカントカ言っていたような――」



 ようは黒い飲み物だろ? 『コーラ』か? それとも『コーヒー』だったかなぁ……。



「まぁ、いいか……『コーラ』も『コーヒー』も両方混ぜれば、どっちかは当たるだろう」





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