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第7話「チケット」



 夕方も過ぎ、もう夜と言ってもいい時間に差し掛かるというのに『その場所』は家族連れやカップル、または友人など、多くの人でにぎわっていた。


 そんな光景を横目に眺めながら『その場所』の入り口に立つと、僕の隣で立ち止まった雫が口を開いた。



「……ねぇ、歩?」


「雫……何かな?」


「ここはどこかしら?」


「ん? 何処って……見て分かるとおり『映画館』だよ?」


「じゃあ、何で私達はカップルでもないのに、学校の帰り道を大幅に脱線して『映画館』なんて場所に来てしまったのかしら……?」


「それはね? 雫が――」




「ハッ! 映画? ねぇ、歩……。貴方、今この私に向かって――、


『映画も見れないのに、超B級ホラーを語るんだね』


 とか言ったわね!?

 いいでしょう……なら戦争よ!!

 この『学校一の美少女』である私が超B級ホラー映画ごときで根をあげるような美少女じゃないって所を見せてあげようじゃない!

 はぁ? どうやって証明するのか、ですって?

 はぁ……歩、貴方はそんなことも想像できない乏しい想像力しかないから『ぼっち』なのよ!

 いい? そんなのはTUDAYAでDVDでも借りて明日視聴覚室で見れば――って、はぁああ!?


『あ、実際の映画館はやっぱり怖いから視聴覚室をつかうんだね』


 ですってえぇええ!? なら、行ってやろうじゃないの!

 ええ、今よ! 今! 今から、これから、直ぐに直で! ナウで!!

 最速で映画館に行って証明してやるわよ!

 えぇ?『今からだと雫が見れる超B級ホラー映画はやってないんじゃない?』ですって!

 フン! そんなの映画館に行けば一本くらいやっているでしょ!

 ほら、行くわよ!

 さっさと用意しないとおいて行っちゃうんだからね!?」




「――って、それはもう有無を言わさぬ氷のような目つきで連れて来られた結果だけど?」


「そ、そうだったわね……」



 雫はつい数分前の記憶を呼び起こして映画館の入り口で盛大に頭を抱え始めた。


 あんなに我を忘れていた彼女がどうして、正気に戻ったのか?


 一体、彼女に何があったのか……?


 それは映画の上映タイトルを見れば明らかだった。



『劇場版 それいけ! あんまんマン』 ← 子供向け映画


『青冬 ~君に恋した30秒~』 ← 恋愛映画


『呪輪 ほの暗い土の底から ザ・ムービー』 ← ガチのホラー映画



「…………」


「…………」



 うん、超B級ホラー映画の一つくらいやっているだろうと思ったら、ガチホラー映画がやってた件。



「よし、雫。ここは『呪輪』しかないね♪」


「イィイヤァァアアアアア!!

 ななな、何で! よりにもよってガチホラー映画しかないのよぉおおおお!

 これなら、ホラーが一個もやってない方が全然マシよ!

 べ、別に……最初からホラーがやってなくて


『あ、これなら証明できないわね~♪』


 って、いうつもりなわけじゃないんだからね!?

 ……そ、そもそも『呪輪』ってあれでしょう!? 日本で一番怖いって話題のやつじゃない!」



 うん、概ね予想通りの反応だ。


 それに、さっき雫がポロリとこぼした本音に関しては行く途中で上映中のホラーがあるのは確認済みなので問題ない。



「ねぇ、ねぇ……歩? 『青冬』にしない……?

 ほ、ほら! 私達ってちょうど男女でカップルみたいだし、これもはたから見たらデートに見えないかしら?

 ね? そ、そんな気分の時にガチホラー映画を見ようとする男女なんかいないと思うのよ……ね?」



 おい……。コイツってば、キャラを捨ててまで恋愛映画の方を勧めてきやがったぞ!?



「よし、雫。ここは『呪輪』しかないね♪」


「イィイヤァアア!! あ、歩ぅううううう~っ!!!!」



 十分後



「雫があまりにも抵抗するから仕方なく『青冬』のチケットを買ってきたよ……」


「ふ、フン! 歩にしてはいいチョイスと褒めてあげなくもないわね……?

 べ、別に、私はこの際、ガチホラーを見てもいい気分だったのだけど、歩がどぉーしても、この『学校一の美少女』である私と恋愛映画を見たいというのなら……

 つ、付き合ってあげることも今日に関してはやぶさかでもないわよ?」


「はぁーい、お二人様ですねー? チケットを確認しまーす……。はい! 右奥の4番ゲートへどうぞ~♪」


「えーと、雫の席はEの14番だって……それで、僕が同じEの15番だね」


「Eの14番ね? フン、この際仕方ないし……あ、歩には私の隣の席に座る名誉をあげるわ!

 この『学校一の美少女』の隣に座れるんだから感謝しなさいよね!」


「はいはい……」



 雫の奴、僕が『青冬』のチケットにしたと聞いた瞬間に態度をコロっと変えたな。まぁ、雫が今こうして笑顔でいてくれるならいいか……。


 でも、雫ってば本当に詰めが甘いよね♪


 僕が『青冬のチケットを買った』っていう言葉を信じてチケットに書かれているタイトルを一度も確認しないんだからさ……。



『呪輪 ほの暗い土の底から ザ・ムービー』 ← チケットに書かれたタイトル



 さぁ、この雫の『笑顔』が今からどう変わるのか……本当に『楽しみ』だ♪





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