旅への出発
数日後、キティンの家
セナは木造の扉を押し開け、足を踏み入れた。少し埃っぽい空気が鼻をつくが、どこか落ち着く。キティンが背後から「お邪魔します」と言いながら続き、その後ろにはカナトがついてきた。
「ようやく来たな」
ソファにどっかり腰を下ろしていたブレンネンデスが、にやりと笑って手を挙げる。隣にはアキレアが腰掛け、卓上には食事の準備が整えられていた。
「来てくれたのね、セナ君たち」
アキレアが微笑みかける。その奥から、ゆったりと歩いてきたカサブランカが口を開いた。
「どうやら、話があるってのは本当みたいね」
セナは頷き、改めて全員の顔を見渡した。
「ええ、俺たち……強くなるために、旅に出ようと思ってます」
静寂が訪れる。ブレンネンデスが目を細め、アキレアが軽く息をついた。
「旅、か」
ブレンネンデスは腕を組み、天井を見上げながら呟いた。カサブランカが冷静に尋ねる。
「理由を聞かせてもらえるかしら」
セナは唇を引き結び、意を決して話し始めた。
「この間の戦いで、俺……自分の弱さを痛感しました。ブレンネンデスさんやアキレアさんがいなかったら、きっと俺たちは……」
その言葉に、キティンも小さく頷いた。
「私も……強くなりたいって思った。あんなに何もできなかったの、悔しくて……」
キティンの拳が震えている。カナトもまた、真剣な眼差しで続けた。
「俺もだ。世界一の剣を打つためには、もっと強くなる必要がある。もっと経験を積まなきゃならない」
ブレンネンデスは口元をゆがめ、笑うように呟いた。
「なるほどな。確かに、あのウルフ相手じゃ無力感も半端なかっただろうよ」
その言葉に、アキレアが軽く眉を寄せる。
「けれど、無鉄砲に飛び出すわけじゃないでしょう?」
セナは頷き、きっぱりと宣言した。
「俺たちは強くなるために、色んな場所を回りたいんです。技を学び、経験を積んで、自分の力を高めて……そして戻ってきたい」
ブレンネンデスは興味深そうに目を細め、肩をすくめた。
「ま、強くなりたいって気持ちは分かる。けど、危険だぞ? 道中にはウルフよりヤバいのがいくらでもいる」
「それでも……行きたいんです」
セナの決意に、アキレアはふっと微笑んだ。
「覚悟は決まってるんだね。なら、止めないよけれど、困ったときは戻ってきな、ここは君たちの帰る場所だから」
「ありがとう、アキレアさん」
キティンが笑顔で応えた。ブレンネンデスも苦笑しながら、頭をかいた。
「ったく、世話が焼ける連中だぜ」
その声に、カサブランカが静かに言葉を継いだ。
「自分の足で歩いて、自分の力で掴む……それが成長の糧になるのなら、悪くない選択ね」
セナたちは深々と頭を下げた。
ギルドにて
翌日、セナたちはギルドに向かった。入り口を抜けると、ミアがカウンター越しに笑顔を向けてくる。
「おはようございます、セナ君たち」
「おはよう、ミアさん」
セナが挨拶を返すと、奥から豪快な笑い声が響いた。
「おう、若ぇの! 何だ、朝っぱらから勢揃いか?」
クロウフェルが手を振りながら近づいてくる。
「実は……相談があって」
セナが口を開くと、クロウフェルは腕を組み、真剣な顔つきになった。
「ふむ、話してみろ」
セナは少し息を整えたあと、ブレンネンデスたちに話したのと同じ内容を告げた。
「強くなるために、旅に出ようと思ってます」
クロウフェルはしばらく無言でセナたちを見つめた。ミアが心配そうに小声で囁く。
「急なお話ですね……」
「ま、冒険者ってのはそういうもんだろうよ」
クロウフェルが豪快に笑い、背中をドンと叩く。
「いいじゃねぇか! 強くなりてぇって気持ちは本物だろ? なら、行ってこい!」
セナは驚きつつも、ホッと胸を撫でおろす。
「クロウフェルさん……ありがとう」
「ただし、どこぞで死んでこいなんて言わねぇぞ。必ず無事に戻ってこい。それがオレの条件だ」
力強い声に、セナたちは力強く頷いた。ミアも安心したように微笑む。
「無事に戻ったら、また報告してくださいね。お帰りなさいと言わせてください」
「はい!」
三人が声を揃えて応えると、クロウフェルが肩をすくめた。
「そうと決まれば、しっかり準備しろよ。くれぐれも油断すんな」
セナたちは改めて決意を固め、その日のうちに必要な物資を整えるため、街へと繰り出していった。




