お茶でも飲もうよ
「君きみぃぃ……来る頻度が早すぎるよ。」
少し残念そうな声が響いた。
「うわっ!?」
セナは飛び起き、声の主を睨む。
「お前……いきなり大声出すなよ!心臓止まるかと思ったじゃねぇか。……でも、お前がいるってことは、ここは意識を失った世界ってことだな。……ってことは俺、まだ死んでない!よかった……。」
キファは肩を落とし、ため息をついた。
「僕が生存確認の目印か何かだと思ってるの?……そんな扱いされると、さすがに悲しいんだけど。」
セナは腕を組み、険しい顔をする。
「でも、あのままなら……逃げ切れるよな?」
キファはニヤリと口の端を上げた。
「どうかなぁ。あの犬……普通の個体とは比べ物にならない魔力量を持っていたけどね。」
「……は? おいおい、それじゃまるで追いつかれるみたいな言い方じゃねぇか!」
セナは思わず声を荒げる。
「ごめんごめん。言い方が悪かったね。」
キファは少しだけ申し訳なさそうに微笑んだ。
「ただ、あれは“通常個体”ではなかったんだ。」
「通常……個体?」
「そうそう。ま、立ち話で説明するのもなんだし、たまには座ってお茶でもしながら話そうか。」
キファが指を鳴らすと、ふわりとテーブルと椅子が現れ、温かいポットとカップまで揃った。
「……まぁ、話してくれるんならいいけど。」
セナは警戒を解き、椅子に腰を下ろした。
「さ、飲んでみて。」
キファがカップを差し出す。
ゴクリ、ゴクッ……。
「……ん。意外と……美味いな。」
セナの顔がふっと緩む。
「ふふっ。今“美味しい”って思ったでしょ。やっぱり君はわかりやすいなぁ。」
キファは嬉しそうに笑う。
「悪かったな。お前のお茶が美味すぎるから顔に出ちまったんだよ。」
セナは少し照れ臭そうに視線をそらした。
「はは、嬉しいことを言ってくれるね。」
キファは満足げに頷き、話を戻した。
「さて、本題。あの青い犬——パルシャンウルフだけど。あれは“離れ個体”だよ。通常よりも魔力量も体力も、三倍から十倍はあると思った方がいいかな。」
セナは息を呑む。
「そ、そんな……。俺、どう考えても相手になんか……」
「少なくとも、僕の相手にはならないけどね。」
キファは軽く肩をすくめた。
「……はぁ。わかった。ありがとう。とりあえず俺、そろそろ戻らせてもらうよ。」
セナは立ち上がりかけて、ふと尋ねた。
「そういや……ここに来てからどれくらい経ってる?」
「んー……十時間くらいかな。」
「じゅ、十時間!?そんなに経ってんのか!?」
「うん。だいぶ時間は過ぎてる。でも、君の魔力もかなり回復してるから……戻っても大丈夫だよ。」
「……わかった。なら、行かせてもらう。」
セナの視界がふわりと白く霞んでいく。
——ほわほわほわ……。
「……また、意識が遠のいて……。」
その声も、やがて霧に溶けた。




