サイド:ジルエル
本日2話目はエルフの里で別れるジルエルの話です。
ジルエルはアルルたちとエルフの里で別れてから、地上へ向けてダンジョン内を移動していた。
ジルエルは移動しながらダンジョンに来てから起こったことを思い返していた。
◇ ◇ ◇
最初こそ、《鬼神の移し身》と影魔法により順調にダンジョンを攻略していたジルエルだったが、エルフの里に立ち寄ったのは失敗だった。
急ぎ、ダンジョンに潜ったせいで、王族の指輪を忘れていたので、身分の証明を出来ずに偽証疑いの罪で囚われの身となってしまった。
(まあ、いざとなればエルフたちには悪いが正面突破で脱獄させてもらえばいいか)
そう思っていたジルエルの目論みは見事に外れることになる。
理由は不明だが、エルフが能力や魔法を封印する強力な拘束具を持っていたのだ。
ジルエルが1人でダンジョンに来ていたことが全部裏目になっていた。
剣だけでも普通の騎士程度には戦えるとはいえ、能力や魔法なしでは出来ることもたかがしれている。
「場合によっては殺されるかな」
それならそれで仕方ない。
最愛の妹クウデリアのために、今まではほとんどサボっていた王族の使命と権威の象徴のダンジョン攻略を少しだけ頑張ってみようかと思ったけど、それだけで本当にクウデリアを救えるとは思っていなかった。
王子1人で出来ることなど限られている。
王宮のパワーバランスでいうと、他の王族の支持を取り込んでいる第6王子エルリックのほうが第4王子の自分より発言権が強いくらいだ。
数日後、エルフたちが知らない少年を拐ってきて同じ牢に入れてきた。
ここは王宮所有のダンジョンだし、一般人がいるはずがないんだけどと思いながら様子をみることにする。
「やあ、やっと目が覚めたかい」
目を覚ました少年に声をかけてみる。
どうやら、このアルルという少年は、可愛そうなことにダンジョンに置き去りにされたようだ。
ただの時間潰しのつもりで話を聞いていたジルエルだったが、まさかここでクウデリアに悪辣な縁談を持ち込んだエルリックの名前を聞かされるとは思っていなかった。
せめて、エルリックへの意趣返しに、アルルだけでもどうにか助けたかったけれど、能力と魔法の封印されているジルエルにできることは、ほとんどない。
そう思っているとアルルが変なことを言ってきた。
「これでジルエル様は好きに出来ますよ」
「そんな、まさかあんな強力な封印がこんな簡単に解除できるだなんて」
ジルエルは、そんな馬鹿なと思ったが、アルルが触れただけで、たしかに封印は解除されていた。
(これは、王宮魔術師たちが総力を上げて数日かけて解くような代物だったはずだぞ。それを触っただけで解除するなんて、何者なんだ!?)
驚いたジルエルだったが、目の前で『どうしました』と今ものほほんとしているアルルという少年からは、一切の悪意も敵意も感じない。
ジルエルは、またしばらく様子をみてみようと思った。
そこへ、天使が降臨する。
最愛の妹、クウデリアだ。
クウデリアが天使の翼をはためかせて月明かりの夜空から舞い降りてきた。
どうやら、アルルとクウデリアは知り合いらしい。
これは兄として、2人の関係を確かめねばと考え、ジルエルは全力の笑顔でアルルに声をかけた。
おかしなことに、ジルエルは笑顔のはずなのに、その顔を見たアルルは顔を強ばらして恐怖に震えていた。
このアルルだが、いい奴だ。
それは間違いない。
短い時間だったが一緒に行動していて、それが伝わってきた。
エルフの少女を元気付ける言葉を発したとき。
エルフの巫女を助けるために不思議な能力を使用したとき。
アルルの師匠が敵として現れて、アルルの右手が斬られて持ち去られたとき。
アルルは他人の体や心を優先し、罵声も怒声も上げずに自分のことは後回しにしていた。
自己保身や権威や利権まみれの王宮ではほとんど見ることのない人種だ。
魔物たちの進行で階層主を任した際には、あのリアという騎士を剣にして一刀両断したと、何かの冗談みたいな報告をクウデリアが身振り手振りも交えて、熱っぽく興奮した表情で話してくれた。
兄妹だからわかる。
クウデリアはアルルに惹かれ初めているんだろう。
無理もない。
囚われの王子を救い。
病魔におかされたエルフの巫女を救い。
窮地におかれたエルフの里を救い。
恐ろしい巨大な階層主を1人で倒す。
仲間やドワーフたちの助力があったとはいえ、この活躍はまるで物語に出てくる英雄のようだ。
大宴会では最大の功労者として蜂蜜酒で祝福しようとしてみたが、そんなときでさえアルルは、『確かに他のみんなも頑張っていましたもんね』と言っていた。
おそらくだが、他のみんなという言葉の中にアルル自身は入っていないだろう。
あれは謙遜とかそういうのではなく、本当に全くと言っていいほど自分の活躍に自覚が無いようだった。
あれだけの能力と勇気と優しさがあって。
本当にどこまで……。
あれで彼はまだ15歳だという。
乾杯のときに、咄嗟に使った幼き英雄という言葉が思い起こされる。
◇ ◇ ◇
そこまで思い返して、ジルエルは自然と優しい笑みを浮かべている自分に気付き、その事実もまた面白いと思った。
(まさか、クウデリアのそばにいる男に対して自分が笑える日が来るなんてね。アルル、活躍は祝福したが、クウデリアをやるかどうかは、また別問題だからな)
そんな思いを抱きながら、ジルエルは地上に向けて、さらに移動速度をあげていった。
読んでくださり、ありがとうございます。
まだまだ拙い文章なのにブックマークや評価してくださった方もいて励みになります。
m(_ _)m




