エルフの巫女
奥深い森の39階層。
エルフの里は怒号に包まれていた。
それが自分の仲間たちのせいだというのは、ちょっと心が痛む。
「おい、お前ら何してる」
僕とジルエルがエルフの女の子に追随するように通路を通っていると、知らない男性のエルフに声をかけられ止められた。
「そいつらは捕虜たちだな。どうして牢から出している?」
「昨日のうちに、この時間に長のところへ捕虜を連れてくるように言われていました」
すごい、この子、平然とスラスラ嘘をついてるよ。
「そうなのか、長や戦える者たちは今原因不明の襲撃者の対応に忙しい。捕虜など、牢に戻しておけ」
なるほど、長は今不在なのか。
ありがたい情報だ。
「わかりました。あなたはどうするのですか?」
「俺はみんなのところにいく」
エルフの女の子の質問に短く答えると、知らないエルフは今も破壊音が続く場所に向けて駆け出していった。
「さあ、今のうちです。お姉ちゃんの部屋はあちらの建物の中にあります」
僕たちは巫女様の部屋に到着する。
「あれがエルフの巫女様ですか」
部屋の中央を見ると、20歳くらいのエルフの女性が横たわっていた。
長い金の髪を1つに束ねて、透き通るような白い肌といい神秘的でキレイな人だった。
これはガンツが一目惚れするのも無理はないかも。
腰には掛け物がかけられていて巫女様の胸にはナイフの柄が見えている。
「巫女様」
僕たちは駆け寄って、声をかけてみるが返事はない。
多分、人体の構造としてエルフも人間も大差はないはずだけど、確実に心臓を突き刺されているはずの巫女様の心臓はかなりゆっくりとだが脈を打っているし、呼吸もある。
今のところ死んではいない。
ガンツは時を止めたいという気持ちを込めたと言っていたけど、完全に時は止まってはおらず、ゆっくりとだが確実に死には向かっている感じだ。
呪いと死が攻めぎ合っている、それがこの状況だ。
「アルル、どうする、このナイフを抜くのかい?」
「ジルエル様、前にも言いましたけど、この状態を維持しているのがガンツの作ったこのナイフのおかげだとすると、抜いた瞬間に巫女様が死んじゃいそうですよね。呪いについても同じことが言えそうです」
「では、どうする?」
ジルエルが僕にきいてくる。
「奥の手を使ってみようと思います」
「奥の手?」
「そう奥の手です」
あまり気は進まないが、今は巫女様の命がかかってる。
僕のちょっとした苦しみと人の命なら比べるまでもない。
僕は自分の頭に触れて能力の解放を願った。
(《封印耐性(手)》レベル10の効果により、主魔アルル・シフォンの《%#@%&&》の効果の一部を解放しますか yes/no)
予定通りに声が聞こえてきた。
僕に、溢れんばかりの情報量に脳が焼ききれそうになった前回の記憶が思い出されて、幻痛にも似た症状が現れる。
今回、僕の封印耐性(手)はレベル10に上がっている。
もし、読み取れる情報量が以前より上がっていたら、僕の脳みそなんて一瞬で焼ききれるだろう。
やばい、怖くて手が震えてきた。
僕は手術の前に師匠が患者に言っていた言葉を思い出す。
師匠は言っていた『俺らは神じゃない、成功も失敗もする。ただ、そのすべてを見通せ、そうすりゃ結果は良くても悪くても次に繋がっていくんだ』と。
いや、ダメじゃん、今回ダメだったら巫女様はもちろん僕も死ぬ可能性があるんだよ。
次なんてないかもしれない。
そもそも患者の前で成功も失敗もするって言っちゃっていいんだろうか。
師匠らしい、適当な言葉だ。
でも、僕の口から、クスっと笑いが漏れ、自然と心が静まっていくのがわかった。
「アルル?」
ジルエルやエルフの女の子が心配そうに僕を見守ってくれているが今は気にしない。
僕は、yesを選択する。
それと同時に虹色に染まる僕の手。
初めて見るはずのジルエルやエルフの女の子が驚いた顔をしている。
「…………まさか、神の手?」
「ん?」
今、エルフの女の子が何か言ったような気がするけど良く聞こえなかったし、あとで聞き直したらいいか。
とりあえず、今は巫女様が先だ。
さあ、僕は僕に出来ることをしようじゃないか。
読んでくださり、ありがとうございます。
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