第4王子ジルエルの事情
奥深い森の39階層。
イケメンの第4王子ジルエルの話が本当なら、エルフの里の牢屋に僕はいるらしい。
まあ、同じ境遇にいるジルエルが僕に嘘をつく意味も見当たらないし、ここは疑いつつも信じていいと思う。
「アルル、君はこんな状況なのに落ち着いているんだね」
「僕は貧民街出身なんで、ある程度どこでも快適に過ごせますけど、ジルエル様のほうこそ、王族がこんな扱いを受けているというのに、ずいぶんと冷静ですね」
王族が罪人扱いで牢に入れられるなんて、最大限の恥辱のはずだ。
なのにこのイケメン王子ジルエルは落ち着いていて、僕に状況の説明までしてくれていた。
きっと、どっかの第6王子あたりならわめき散らしていたに違いない。
まあ、誰とはいわないけど。
「自分の扱いなど、取るに足らない問題さ。それより自分の大事なもののために、早く次の階層に行きたいと思ってるんだけど、自分が不審者ではなく王族だと言ってもなかなかエルフが納得してくれなくてね」
聞けば、王族の指輪をダンジョンの外に忘れてきたらしい。
おっちょこちょいな人だ。
でも親近感が持てる。
「ジルエル様はお供の人とかいないんですか?」
「急ぎたかったとはいえ、ダンジョンに1人で来ていたのが仇になったよ」
「1人でこの階層までこれたんですか!?」
ダンジョンの39階層まで1人で到達するなんて、とんでもない実力だ。
「《鬼神の移し身》という能力と影魔法のおかげかな。自分の力だけじゃ大したことはないさ」
おー、めっちゃ爽やかだ。
うーん、これだけいい人でダンジョンのこの階層まで個人でくる実力があるなら庶民の僕でも知っていてもおかしくはないはずなんだけど。
でも、僕はこの王子のことを知らなかった。
何でだろう?
「帰還石も忘れたし、こうして囚われの身になるしかなかったのさ。なぜかエルフたちも話を聞いてくれないくらい殺気だっていたしね」
「エルフたちの事情を知らないんですか?」
「知らないけど、何かあったのかい?」
僕はジルエルにエルフの巫女がドワーフの作った呪いのナイフで刺されて眠っている事実を伝える。
「なるほど、それは彼らにとって一大事の事件だね」
ジルエルは考える様子を見せる。
「そういえば、ジルエル様は、なぜダンジョンに?」
「大したことはないんだけど、ちょっと本気でダンジョン攻略を頑張ってみようと思う事情が出来てね」
「ダンジョン攻略を頑張ってみようと思う事情ですか?」
「最愛の妹の結婚が決まったんだよ」
遠い目をするジルエル。
なるほど、妹の結婚式に花を添えようと兄としてダンジョン攻略を頑張ってみようと思ったなんて、なんていい人なんだと僕が思っていると。
「絶対にダンジョン攻略記録を塗り替えて、妹の結婚を破滅に追い込んでやるのさ」
あっ、やっぱり、この人もなんかダメっぽい。
そういえば、思い出した。
王子たちの中に、すごいシスコンで公務も放棄するダメ王子がいるって聞いたことがあった。
この人のことだったのか。
何人もいる王女の中で、この人の妹って誰だろう?
「妹、クウデリアのために」
「クウデリア様!?」
「君は我が妹を知っているのかい?」
知っているも何も、第3王女クウデリアは一緒にダンジョンを攻略している仲間だ。
「えーっと、たしか、クウデリア様はブサイ・クデーブ侯爵との結婚が決まったとか、そのくらいのことは庶民の僕でさえも知っていますよ」
咄嗟に誤魔化してしまったけど、正解かもしれない。
だって、クウデリアの結婚の話をしたあとのジルエルはさっきまでのイケメン王子ではなく、彼の能力と同じく鬼神の形相をしていたから。
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