クウデリアの想い
雪と氷に閉ざされた32階層。
氷の裂け目の底に僕とクウデリアはいた。
リアさんやポルンと離れて、それなりの時間が経って、2人がどうしているかも心配だけど、僕自身も穴の底でどうにもできない状態だ。
僕がクウデリアの淹れてくれたお茶を飲んでから、クウデリアの顔が赤いのも気になる。
どこか体調でも悪くないですかと聞いてみるけど、クウデリアは「大丈夫ですの」と言い張っていた。
じゃあ、クウデリアがリラックスしやすいように何か話題でもふってみよう。
「クウデリア様って、王女ってだけでも大変そうなのに聖女と呼ばれるくらい貧民街にも回復魔法の施しをしていたりして大変じゃないですか」
「聖女ですか……私は全然聖女なんかじゃありませんのに……」
どういうことだろう?
「私は王宮に対しての国民の信頼を少しでもあげたいという、ただの我が儘で動いていただけですし」
「それって駄目なことなんですか?」
「えっ?」
「いいじゃないですか、我が儘でも何でも。それで助かった人たちがいるっていうのなら。僕の知っている患者さんたちもみんな口を揃えて、『ありがたい』って言っていましたよ」
僕が淡々と事実を述べていく。
「王女の考えはともかく、あなたの行いは、少なくとも僕の周りにいた人たちにとっては聖女以外の何者でもなかったと思います。聖女か聖女じゃないかなんて、その人の受け取り方次第なんで気にするだけ無駄ですよ」
聖女と言われたら聖女。
聖女じゃないと言われたら聖女じゃない。
僕はそれでいいと思う。
ようは自分がとりたいと思った行動で喜んでくれる人がいた、重要なのはそこだけでいいと思う。
呼ばれ方なんて些細な問題だ。
「アルル、ありがとうございます」
クウデリアが涙を浮かべながら微笑む。
その顔は聖女というか聖母のように慈愛に満ち溢れていた。
いや、13歳の王女に聖母って、どんだけ?
年下の美少女に母性を感じるって、僕ってそんなに母性に飢えているやばい奴のようで心配になる。
「そろそろ、リアたちのことも心配ですね」
「僕もそう思います」
雪熊は多分問題なく倒せているだろうけど、他に魔物が出てきていないとも限らない。
リアさんはともかく、ポルンは能力の効果が切れたら、ただのコボルトの子供だし、戦力面でも不安だ。
「あの、アルル、1つ試したいことがあるんですが、やってみてもらえませんか?」
「試したいことですか?」
「はい。私にも、リアやポルンにしているように、アルルの手で能力の解放を試してもらいたいんですの。もし私に何か能力があれば、脱出の糸口になるのではないでしょうか?」
「なるほど、ポルンの場合を考えても本人がまだ自覚してないか、経験が足りないだけで能力が眠っている可能性は十分にあると思います」
この世界では意識を集中したら、自分の持っている能力の名前を脳裏に浮かべることができる。
だけど、目覚めていない能力まで見ることはおそらくできない。
僕の《封印耐性(手)》はその目覚めを一時的とはいえ強制的におこなえる。
たしかに試す価値はあるかもしれない。
「いつでもいいですの」
クウデリアが僕に言う。
「では、失礼して額に触れさせてもらいます」
「お願いしますの」
クウデリアが固く目を閉じ応じる。
僕の前で美少女で王女のクウデリアが瞳を閉じて顔を突きだしている。
リアさんも美人さんだが、クウデリアも美少女だ。
うん、僕におかしな気が起きる前に、さっさと済ませてしまおう。
僕は右手で優しくクウデリアの額を触る。
(封印耐性レベル5の効果により、従魔クウデリアの能力の一部を解放します。yes/no)
おっと、あったよ、クウデリアの能力。
でも、この声って、クウデリアにも聞こえてるんだよね、一国の王女を従魔なんて呼んで、僕、大丈夫なんだろうか?
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